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第四百七十六話 ローブの正体


 転移先を追跡した結果、俺が行きついたのは暗い森の中だった。

 場所は皇国西部。つまり帝国国境に近い森だ。 

 その森の小屋。

 そこに俺は無遠慮に入った。


「やれやれ……まさかと思ったが、まさかだったな」


 小屋の中。

 そこには先ほどの黒いローブの人物と。

 一切汚れのない白装束に、顔を覆う黒い仮面。

 その手には禍々しいほど黒い魔剣。


「シルバー……!? なぜここに……?」

「それはこちらの台詞だな。ノーネーム」


 五人しかいないSS級冒険者の一人、ノーネーム。

 それがナイジェルを使って、帝都を混乱させた人物と一緒にいる。

 それが意味するのはただひとつ。


「これは俺への挑戦状ということでいいか?」

「……」

「どうやってこの場所を?」


 ノーネームは黙り込む。

 その代わりにローブの人物が口を開く。

 まぁ不思議だろうな。


「帝都で危険な魔剣使いが現れたのに、俺がなぜ動かなかったと思う? 後ろにいるだろう黒幕を見つけるためだ。転移において俺に勝る者はいない。追跡ぐらい見ていれば容易だ」

「監視していたということですか……」


 魔導具に頼る者からすれば、転移は未知数の技術だ。

 魔導具に頼らない者の言葉は、そういうものかと受け止めざるをえない。

 ローブの人物はそれ以上、何か聞いてくることはなかった。

 向こうの目的は聞かなくてもわかる。


「冥神を強化するために、炎神を食わせるつもりか?」

「……そうです」

「聖剣を超えるという目的があるのは知っている。それを否定したりはしないが、今回は度が過ぎている。一つ間違えれば帝都が火の海だった」


 俺の言葉を静かにノーネームは聞いている。

 雰囲気から察するに、罪悪感は覚えているらしい。

 一方、ローブの人物にそういう雰囲気はない。


「あなたのテリトリーを荒らしたことは謝罪しましょう。ですが、大した被害はなかった。それでいいではないですか」

「加害者がそれを言い出すとは笑わせる。あまり俺を舐めるなよ? 先代ノーネーム」


 それは証拠のない言葉だった。

 ただし、外れていないという自信もあった。

 かつて見たノーネームの顔は若すぎた。

 特徴は吸血鬼に似ていたが、吸血鬼特有の尖った犬歯がなかった。

 おそらく混血。ならば寿命に関しては吸血鬼ほどではない。

 にも拘わらず、若い。しかも、エゴール翁の評価と一致しない。

 今のノーネームと過去のノーネームは別人である。

 そう考えるのが自然だ。

 そして、ローブの人物がかつてのノーネームならばあの剣技にも納得がいく。


「……わかっていて来るとは」


 そう言ってローブの人物が顔を晒す。

 そこにいたのは銀髪の老婆だった。

 赤い瞳は俺をまっすぐ捉えている。そこに映るのは殺意の色だった。


「最も新しいSS級冒険者、シルバー。あなたを甘く見ていた。ここで口を封じたほうが好都合だと私の勘が言っている」

「なるほど。それは俺にとっても好都合。もともと一戦交える気で来たんでな」


 一瞬、静寂が流れる。

 次の瞬間。

 俺の結界と先代ノーネームが振るった剣が激突し、その余波が周りに広がって、小屋が吹き飛ぶ。

 俺の結界の強度に先代ノーネームは驚いたようだ。

 だが。


「さすがに普通の剣では無理ですか」


 冷静に手に持っていた炎神に持ち替え、自然体のまま俺と対面する。

 距離を取らないのは魔導師相手には接近戦が基本だからだろう。

 最初から炎神を使わなかったのは、冥神の餌を万が一にも失いたくなかったから。

 だが、その考えをすぐに改めた。


「あなたほどの魔導師なら、炎神の代わりになりそうです」

「やれるものならやってみろ。何世代ごしの夢だか知らんが、壮大な夢ごと叩き潰してやろう」


 俺の周りに一瞬で無数の光弾が浮かび上がる。

 先代ノーネームと接近戦をしてもいいが、問題となるのが今のノーネームのほうだ。

 先代ほど戦意は見せていない。

 むしろ消極的だ。

 だが、止めに入る様子もない。

 そうであるならば敵として想定しなければいけない。

 そうなると暢気に接近戦をやるわけにはいかない。

 向こうがこっちを口封じしたいように、俺も裏でコソコソと動くこの二人をどうにかしたい。

 今回のことは、まぁ見逃せる。

 冥神を育てるという趣旨からは外れていないからだ。もちろん被害がもっと大きければ見逃せないが、今回程度の被害なら目をつむるのはありだ。

 だが、ラファエルを逃がしたことは許容できない。

 帝位争いの中で、コソコソと動かれてはたまらない。特にラファエルのようなどの陣営に属しているのか不明の相手を助けられては、全容が見えてこない。

 ここで叩いておくべきだろう。相手がやる気なら。


「私たちの悲願を叩き潰す? 強気な発言ですね」

「俺を餌扱いするほうが強気だと思うが?」


 先代ノーネームが炎神を振ろうとする。

 だが、その前に俺の光弾が先代ノーネームを襲った。

 しかし、それでどうにかできる相手ではない。

 俺は少し距離を取り、先代ノーネームとの戦闘に備えた。

 あのレベルの相手を倒しきるには、さすがに大魔法が必要となる。

 どうやってその隙を作り出すか。

 その段取りを考えていると。


「その勝負、待ちなさいな。私が預かるわ」


 予期せぬ乱入者が現れたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 預かるっていう時点で帝国の敵かよくて継承戦の介入になるんだけど、どう落とすんだろう
[一言] この戦いに割って入れる実力者となるとリナレスかな。
[気になる点] 犯罪により得た利益を黙認し、分かってて受け取るのは犯罪だね
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