第四百六十五話 風剣領域
配信ありがとうございましたm(__)m
また機会があればやりたいと思いますヽ(・∀・)ノ
とりあえず策を考えてみるということで、俺たちは宿を後にした。
あの面子で長々と宿に滞在するのは危険だからだ。
ナイジェルは城の中にいる近衛騎士の動きを把握できないかもしれないが、城の中にいるエリクはそうではない。
近衛騎士隊は持ち回りで城と父上の警護を担当しているが、父上の警護に関しては基本的に第一騎士隊の仕事だ。
もちろん違う時もあるから、珍しいくらいで片づけることもできるが、そういう違和感は積み重なると疑問へ変化してしまう。
そのため、俺たちは城へと場を移した。
アリーダは警護に戻り、セオドアとエルナは手合わせをし始めた。
エルナの傍にいる分には、俺を怪しむ人間はいないからだ。
丸い円の中。
エルナとセオドアがそこに入って剣を構えている。
もちろん真剣で、互いに手加減はない。
相手はロスアークが認めた天才。
同格の相手と本気で稽古をして、腕を高める必要もある。
ゆえに俺はその稽古を眺めていたのだが。
「正気の沙汰とは思えんな」
「まったくです」
俺の言葉にセバスが同意した。
返事が早かったところをみるに、俺以上にセバスが感じているようだ。
ルールは円から出ないこと。
それだけだ。
つまりエルナと真正面から逃げ場なしで打ち合わなければいけない。
暗殺者として生きてきたセバスからすれば、ありえない稽古だろう。
セオドアは両手で剣を下段に構え、エルナは上段に構えている。
そして一瞬、強い風が吹いた後。
目にも止まらぬ速さでエルナの連撃が始まった。
魔法で強化してない俺では、何が起きているのかさっぱりだ。
ただ、一つだけわかったことがある。
その連撃を苦も無くセオドアが受けきったということだ。
「防御の達人、護剣のセオドアと言われるだけはあるな」
「エルナ様の一太刀を受けるだけでも大変ですからな。足を止めた状態でしかも複数……苦も無く受けきるあたり、実力の高さがうかがい知れます」
「いくら防御に専念している相手を崩すのが難しいとはいえ、エルナが突破できないとは……さすがに驚いた」
目の前ではエルナの攻撃が繰り返されている。
だが、セオドアはその攻撃をすべて受けきっている。
もちろん技術もあるだろうが、技術だけではあの超反応は説明できない。
種はセオドアの周りにある。
セオドアは風系統の魔法を極めている。
それを自らの剣術に併用しているのだ。
風の結界が自分の体の周りに存在し、そこを通り過ぎた攻撃に反応して受けている。
剣にも風を纏わせているため、よほどの強力な攻撃でもなければ剣を破壊することもできない。
それがセオドアの〝風剣領域〟。
エルナですら破ったことのない絶対防御だ。
「また破れなかったわ……」
「破られたら私の立場がなくなる」
面白くなさそうなエルナに対して、セオドアは笑いながら答えた。
そして俺のほうへと歩いてきた。
「金の取れる稽古だったな」
「エルナが全力ならばこうもいかないでしょう」
「さすがに聖剣を止める自信はないか?」
「命を捨てれば軌道くらい変えられるかもしれませんね。試す気にはなれませんが」
「そりゃあそうだろうな」
笑いながら俺はエルナの方を見る。
真剣に迷っているような顔だ。
この負けず嫌いめ……。
「ところで、弟弟子であるナイジェルは同じような防御剣術も使えるのか?」
「私ほどではありませんが、使えるはずです。ただ、性質的に攻撃のほうが合っている男でしたから、攻撃で相手を圧倒することを優先するかと」
「性質が剣術にあるのか?」
「もちろんです。私の防御剣術、ロスアーク流剣術・風の型は絶対防御が売りです。ゆえに反撃の機会は少ない。冷静で粘り強い性格でなければ使えません」
「なるほど。エルナには向かないってわけか」
「どういう意味よ?」
「試験でさっさと全員倒した方が早いなんて思う奴には合わないってことだろ?」
「その通りです」
セオドアが同意して、エルナは黙り込む。
先輩であるセオドアには強く出れないし、自分の過去の行いだから否定もできない。
まぁ、それで優劣がつくわけじゃない。
「風の型はその名前のとおり、風のようにすべてを受け流すことが求められます。一方、ナイジェルが奪った奥義書に記されているのは炎の型。相手を炎のごとく圧倒する制圧剣術」
「お前は使えるのか?」
「基礎だけは習いましたが、極めてはいません。私には合わない剣術ですので」
「では、風の型と炎の型で戦えばどうなる?」
「膠着状態に陥ります。どちらも師が考案したものですから。長所を潰し合い、長時間の戦いになるでしょう。私がアリーダやエルナの手を借りなければならないのは、それが原因です」
防御と攻撃。
どちらかを極めた達人同士の戦い。
長引くのは必然か。
本当は自分の手で決着をつけたいんだろうが、それができないのは悲しいことだな。
「決着を自分でつけられるとすれば、自分の手で決着をつけたいか?」
「我儘は申しません。殿下は何のメリットもなく協力してくださっていますから」
「確かに俺は何のメリットもないことをやらされているが……ここは帝都だ。その危機に際して、皇族として何もしないことのほうが罪だろう。皇族は皇族であるというだけでメリットだ。少しでもそのメリットを享受したならば、そこに責任が発生する」
かつて吸血鬼たちとの戦いのとき。
俺は吸血鬼たちに言った。
この国には税を取り、立場を約束された者たちがいるはずだ。帝国を守るのはそういった帝国の皇族や騎士の仕事だ。今、仕事しないならばそいつらに存在価値などない、と。
あの時はレオがその役目を担った。
今回は俺というだけの話だ。
「納得はしていないが、理解はしている。なぜ俺が? という問いに対する答えは、皇子だから。それだけだ。だから俺に気を遣う必要はない。自分の手で決着をつけたいか?」
「……その機会があるならば」
「いいだろう。最大限に配慮する」
セオドアの言葉を聞き、俺は一つ頷くとその場を後にした。
セオドアが膠着状態になると思っているなら、向こうも少なからず思っているだろう。
そう思っているならきっと場所を選ぶだろうし、時も選ぶだろう。
なるべく有利な状態で決闘を始めたいと思うなら、こちらもやりようはある。
無差別に暴れられては手が付けられないが、考えてくるなら対処のしようはある。
さて、下準備といくか。




