第四百六十四話 ロスアーク流剣術
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帝都最強の剣士は誰か?
その議論において必ず出てくるのは近衛騎士団上位三隊の隊長たち。
神速の剣技を誇る近衛騎士団長、アリーダ。
ロスアーク流の後継者、セオドア。
勇爵家の神童、エルナ。
この三人を手駒として、帝都に侵入したセオドアの弟弟子を捕まえろと言われてもなぁ。
「お父様はともかく、私は面倒事なんて押し付けてないわよ?」
意識が別のところに行っていた。
それをエルナのとんでも発言で呼び戻されてしまう。
「ああ、なるほど。面倒事の基準が俺とお前とじゃ違うみたいだな」
「馬鹿にしてるのかしら?」
「率直な意見だ。他意はないぞ」
そう返しながら、俺は深く息を吸って、ゆっくりと吐く。
まず落ち着く必要があった。
もはや断わることは不可能。
父上がアリーダとセオドアに一任したのだ。
二人からの協力要請となれば、断われない。
「……本音でいえばエリク兄上やレオを巻き込みたいんだが?」
「手柄争いが起きては困ります」
アリーダの言葉にセオドアも頷く。
そうだろう。だから俺に声がかかった。
二人が動けば、二人が望まなくても手柄争いになる。
それだけ拮抗しているからだ。
アリーダとセオドアも帝位候補者に借りを作れば、中立ではいられなくなる。
人選としては俺しかいないだろう。
三人は強い。だが、剣士であり、騎士だ。策士でも軍師でもない。
三人を使う側が必要なのはわかる。
それが俺だというのが納得いかないが。
「一応、聞いておくが……失敗したら?」
「私の責任となるでしょう。私だけでは責任を取り切れませんが」
セオドアは少し申し訳なさそうに後半部分を付け加えた。
アリーダは近衛騎士団長。エルナは勇爵家の跡取り娘。
二人に責任を取らせることはないだろう。
つまりセオドアだけでは背負いきれない責任は俺に降りかかる。
「なんかないか? 俺がやる気になりそうなメリットは」
「ありませんね」
アリーダがバッサリと切り捨てる。
エルナも肩を竦めるだけだ。
なんて協力し甲斐のない奴らだ。
「帝位候補者のお二人に貸し借りを作ると、利用される恐れがあります。そういう心配がアルノルト殿下にはないと判断しての協力要請ですので……個人的な信頼ではどうでしょうか?」
「明確な貸しにもならず、個人的な信頼で引き受けろと? この面子で失敗したら、俺は確実に失脚だ。これから俺が重大な任務を任されることはないし、おそらく帝都にもいられない。それはレオにとってはマイナスだ」
「すべて承知の上で頼んでいます。こちらには交換カードはありません。成功すれば我々が強かったと片付けられ、失敗すれば多大な被害が殿下に降りかかります。何か差し出せればよいのですが……我々の忠誠は皇帝陛下にのみ向けられており、向けられるべきですので」
アリーダが視線を伏せながらそう言った。
困らせるとわかっているのに、俺を頼るのは性質が悪い。
得る物がない戦いを強いられるとは……。
「お許しを、殿下。どうかお力を貸していただきたい」
「アル、お願いよ」
「……いつか、帝位争いに関係ない場面で……必ずこの貸しは返してもらうぞ?」
「必ずや」
帝位争いに関係ない場面で、セオドアやアリーダの手を借りなければならない時が来るのかは疑問だが、なにか得がなければやってられない。
「いいだろう。指揮は俺が執る」
「勇爵も人が悪いですな。アルノルト様が幼馴染が関わっていれば断わらないと知っていて、エルナ様をこのメンバーに入れたのでしょうし」
「あの人にもいつか一杯食わしてやる……だが、今回は一杯食わされてやるよ」
吐き捨てるように言ったあと、俺は机を指で叩きながら告げた。
「やるからには失敗はしない。指示には従ってもらうぞ?」
「「「御意」」」
■■■
ロスアーク流剣術。
その神髄は防御にある。
若き日のロスアークは攻め主体の剣術を用いており、それを極めたと言われている。
だが、一年ほど失踪したあとに防御主体の剣術と共に帝国へ帰還した。
そしてロスアーク流を開いたのだ。
「ロスアーク流剣術は徹底した防御が要。攻め手は相手の力を利用するか、隙をついてのカウンター。それくらいしかありません」
セオドアはそうロスアーク流剣術の特徴を説明する。
セオドア率いる近衛第二騎士隊は要人警護のスペシャリストたちだ。
全員がロスアーク流剣術を会得しており、最も防御に秀でた近衛隊らしい近衛隊。
だが。
「というのが表向きの話です。実際には師であるロスアークは攻撃的な剣術も持っていました。若い頃に極めた剣術です。それが弟弟子が奪った奥義書には書かれていました」
「捨てたわけではなかったのか……しかし、どうしていきなりスタイルを真逆に変化させたんだ?」
「単純な話です。負けたからです」
「負けた? 誰にだ?」
「剣聖エゴールに、です」
「エゴール翁と手合わせしていたのか?」
「手合わせではなく、決闘です。僅かな勝機も見出せなかったと語っていました。だから生きているとも」
「ロスアークの失踪はそのためか」
圧倒的な力を見せつけられ、人生観を変えられたというところだろうな。
命を取られなかったのも屈辱であっただろう。
そこまでする相手でもないと思われたということだ。
「その後、師匠は防御剣術を極めました。ですが、再戦に備えてもいた。それが奥義書であり、魔剣です。しかし、結局、師匠は再戦を挑まなかった。悟ったのです。決着をつけるのは無意味だと。ゆえに自分の死と共に奥義書と魔剣を処分する予定でした」
「だが、それを弟弟子が奪ったと……」
「弟子に殺されたとあれば、師匠の名誉に傷がつくため、病死ということになりました。おそらく、弟弟子は攻撃剣術を会得し終えたのでしょう。だから姿を現したのです」
「ロスアークの開発した攻撃と防御の剣術を会得した剣士か……その名は?」
「ナイジェル……私の堕ちた弟弟子です」




