表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

469/819

第四百五十二話 悪者



「アルノルト宰相、今後ともよしなに」


 そう言って宴を開いた貴族が箱を渡してくる。

 中を確認すると、大量の金貨が入っていた。

 俺は大げさに何度も頷きながら、告げる。


「良い心掛けだな。俺はレオほど清廉潔白じゃない。国を維持するのに、強い貴族たちが必要なことも知っている。ちゃんとこちらを尊重するなら、悪いようにはしない」


 そう言って俺は貴族から箱を受け取った。

 俺が今していることは、貴族の摘発だ。

 当然、ここにいる連中も対象となる。

 叩けば埃が出てくる連中だ。それも辺境の貴族とは量が違う。

 俺に睨まれれば終わり。それがわかっているから、俺に媚びへつらう。

 強い者を見抜くことに関しては、秀でている者たちだからな。

 保身にも余念がない。

 そんなことを思いながら、俺は酒を飲むのだった。




■■■




 愉快な宴が終わったあと、俺は馬車で城へ戻る。

 そして俺に割り当てられた一室で、深くため息を吐いた。


「苦労なさっているようですな」

「苦労はしていないさ。ただ、奴らと飲む酒がまずくてかなわないってだけだ」


 何もない場所から声が聞こえてきた。

 視線をやると、いつの間にかそこにはセバスが立っていた。


「ほどほどになさいませ。我慢は体に毒ですぞ?」

「あともう少しだ。それに宴に付き合うだけで国庫が潤う。やらない手はないだろう?」

「ご自身がそれでいいと言うなら、かまいませんが……トラウゴット様は悲しまれますぞ?」

「誰かがやらないといけないんだ。俺がいつまでも藩国にいるならまだしも、俺は帝都に戻らなければいけない。素早く王権を固めるには、敵を作ってしまうのが一番だ。巨大な敵を追い払ってくれた王ならば、貴族もトラウ兄さんを認めていく。その過程で、膿も出しきれれば藩国も少しはマシになる」

「それではアルノルト様が貧乏くじを引くだけでは?」

「今更だろ? それに、藩国で問題を起こし、帝国に帰らされる。これが一番早い帰る方法だ。藩国でダラダラと宰相をやっているわけにはいかない。最近、王国の動きが活発化してきたからな」

「評判を犠牲に、早く帰ることを選ぶと? 汚名と共に帰ってきた兄が弟を助けられますかな?」

「やりようはいくらでもある。だいたい、評判が上がりすぎていた。ここらで下げないとな」


 笑いながら俺はセバスがスッと差し出した資料を受け取る。

 そこには、俺が逮捕した貴族たちの会合についてのことが書かれていた。


「不満しかないって感じだな」

「思惑どおりですな。彼らはどうにかあなたを排除したいと考えているようです」

「いい流れだ。排除はしたいが、俺は帝国の皇子で宰相だ。帝国の存在がチラつく以上、藩国の者では排除できない。怒りを買えば終わりだからな。だからこそ、そこを無視できる王が必要となる。俺を排除できるのはトラウ兄さんだけだ。藩国の貴族はトラウ兄さんに頼るしかない」

「トラウゴット様にとっても、帝国の意向を無視するのはリスクがあります。それは藩国の貴族も理解している。ゆえに、それでも藩国のために動いたトラウゴット様は信望を集める。そういう筋書きですな?」

「あとは力だけはある大貴族を失墜させる。言い逃れはできんよ。俺とのやり取りがあるからな。俺に協力した時点で、奴らの命運は尽きたんだ」


 ざまぁみろと笑っていると、違う声が部屋に響いた。


「また悪者みたいな笑い方をしているですわ!」

「みたいな、じゃなくて悪者なんだよ」


 そう言って俺は新たな客人へ目を向ける。

 窓から入ってきたんだろう。

 さっきまで閉まっていたはずの窓が開いている。

 義賊らしい入り方だな。


「偵察ご苦労だったな、ミア」


 そう言って俺は眉をひそめている少女、ミアを労った。

 セバスに俺へ反感を持つ貴族を探らせているように、ミアにもとあることを探らせていた。


「あんまり気が進みませんでしたが、これがリストですわ」

「これも藩国のためだ。我慢しろ」


 言いながら俺はリストに目を通す。

 ミアに探らせていたのは、いまだにトラウ兄さんを認めていない貴族たち。

 彼らの前王時代の不正や、隠し財産などを探ってもらっていた。

 前王時代、悪徳貴族を狙い撃ちにしていたミアにとって、この手のことを調べるのは朝飯前だ。


「何度も言いますが、彼らのほとんどは仕方なく不正をしただけですわ。そうやらなければ自分や領地を守れないからであって……」

「わかっている。捕まえてもトラウ兄さんが釈放する。大事には至らない」

「でも、家族まで捕まえる必要は……」

「トラウ兄さんに恩を感じてもらうためだ。藩国の貴族は前王時代の名残か、個人主義が多い。協調だとか、恩を感じるとか、そういうものがなかったからだ。だから強制的にトラウ兄さんへ恩を感じてもらうし、敵に対して団結してもらう。申し訳ないとは思うが、こっちも時間がないんでな」

「わかってるですわ……皇子が一番、貧乏くじを引いているんですから……」


 落ち込んだ様子でミアが目を伏せる。

 時間をかければもっといい手段があるだろう。

 だが、その時間は誰にでもあるわけじゃない。


「藩国は良くなる。埋もれた人材もいた。彼らが動ける国にすれば、自然と変わっていく。強引ではあるが、その体制を作る。そのためなら貧乏くじくらいどうということはない。これは俺の兄を守るためでもある。気にするな」


 ミアにそう伝えたあと、俺はリストにチェックをつけていく。

 誰でもいいわけじゃない。

 本当に領民のことを考えている貴族。

 中央には関与していないだけで、能力のある貴族。

 そういう貴族たちにこそ、恩を感じてもらわないといけない。

 いずれ俺がこの国を去った時。

 トラウ兄さんを支えるのは、そういう貴族たちだ。

 

「さて、それじゃあ明日にでも出発するか。もうあんまり時間がないからな」

「でしょうな。側近の方たちはそろそろ我慢の限界という様子。各地の貴族と連携を取り始めております」

「そうこなくっちゃな。ミア、辺境貴族の偵察はもういい。王都で側近たちの動きを探れ。セバスは俺の護衛だ。血気盛んな奴がいないとも限らんからな」

「帝国の皇子を襲撃すれば、帝国に睨まれることくらい、向こうもわかっているはずですわ」

「頭でわかっていても、感情が追い付かないこともある。恨みってのは恐ろしいのさ。冷静な判断力を失わせてしまう」


 だから用心に越したことはない。

 そう言って俺はニヤリと笑うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] トラウ兄さんのことだからある程度気付いてるんだろうな 藩国の立て直しに一年も浪費してしまったとはいえあまり露骨に帝国によるマッチポンプしてると気付く貴族もいるかもなぁ あとトラウ兄さんがア…
[良い点] 一粒で二度、三度と美味しいアルの暗躍。 [気になる点] トラウ兄さんはアルの謀略をある程度勘づいていると思う。 弟思いのトラウ兄さんがアルが悪者になるのを見過ごすだろうか。 [一言] 兄弟…
[良い点] あっ再開されている! 更新ありがとうございます(*^▽^*) アルが帰還するまでが一つの章になっているから一波乱あるのかな? それとも数話で帰還して、次章に繋げるための小話をいくつか挟む…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ