第四百五十一話 藩国宰相
お待たせしましたm(__)m
第十二部開始です
一年後
帝国と王国が停戦し、大陸は一時の平穏を享受していた。
あれから戦争は起きておらず、各国ともに内政に力を注いでいた。
そして。
それは藩国も例外ではなかった。
「アーサーズ伯爵、あなたを逮捕する」
「ど、どのような理由ですか!? 宰相閣下!!」
ごくごく平凡な初老の男性。それがアーサーズ伯爵だ。
その屋敷に押しかけ、俺は兵を使って伯爵を拘束した。
伯爵は特に目立ちもしない藩国貴族だが。
「前王時代に重臣へ賄賂を贈り、息子を出世させた。さらには領地の拡大まで。これを汚職と言わずになんと言う?」
「前王の時代ではそれが普通だったのです! そうしなければ息子は出世できず、領地も狭いままだった! 小さいままでは民も養えない!」
「だからといって汚職は見逃せん。現王は綺麗な藩国を目指している。前王時代の汚れは落とさねば。それが俺の仕事だ」
そう言って俺は伯爵に加えて、その家族も拘束させた。
「家族は関係ないはずだ!」
「この藩国で、民がどれほど苦しんできたか。腐敗した貴族の家族なら同罪だ」
「ふざけるな! この藩国で粗のない貴族などいない! 皆、良心を押し殺して追従していたのだ! その貴族の粗を探し、家族まで捕らえるのか!?」
「腐敗は腐敗。正さねば」
「この! 弟君の美徳を何一つ持ち合わせていない、出涸らし宰相め!! 陛下の弟だからと、権勢を振りかざしおって! 貴様がしていることは国を腐らせた前王と重臣たちと変わらぬ! 圧政だ!」
「言いたいことはそれだけか? 連れていけ」
鼻で笑って俺は指示を出す。
調べでは屋敷には隠し財産がある。藩国を立て直すため、トラウ兄さんが貴族にできる限りの援助を頼んだのに、だ。
まぁ、領民のため、不測の事態のため。
いろいろ言い訳があるだろう。
ただ、結局のところはトラウ兄さんを信用しきれていないから、というところに落ち着く。
マリアンヌは連合王国の人質であった期間が長く、貴族たちの忠誠を勝ち取ってはいない。
その伴侶であり、帝国の威光を盾に藩王となったトラウ兄さんも、まだ貴族の忠誠は勝ち取れていない。
難しい話だ。
これも地道にやっていくしかない。
「閣下! 隠し財産を見つけました!」
「すべて運び出せ! 次が控えているからな! 急げ!」
横柄に指示を出しながら、俺は手に持っている資料へ目を通す。
そこに記されているのは、藩国の貴族の名前だった。
前王時代に腐敗政治に協力した貴族たち。
いまだにトラウ兄さんのことを積極的に支持しない貴族たち。
彼らを捕らえ、王都コールへ送るのが今の仕事だ。
宰相とはいえ、国の運営はトラウ兄さんがしている。補佐すべき立場だが、トラウ兄さんは早々に藩国出身者で周りを固めた。
彼らがトラウ兄さんと共に国を作っていくことになる。俺はあくまで一時的な宰相。体制が整えば、帝国へ戻る人間だ。
俺に依存するような組織を作るほど、トラウ兄さんは馬鹿じゃない。
おかげで俺は自由に動ける。
現在、トラウ兄さんが絶対的な力を発揮できているのは、王都のみ。
各地の貴族を掌握しきれてはいない。
そのため、俺がこうして歩き回っている。
すべてはトラウ兄さんのためだ。
「さぁ行くぞ!」
■■■
一週間後。
多くの貴族を王都へ送った俺は、意気揚々と城へ戻ってきた。
だが、待っていたのは予想外の報告だった。
「全員釈放だと!?」
「は、はい……陛下がそう判断されまして……」
「またか!?」
これが一度目ではない。
前回もトラウ兄さんは自分の判断で、俺が捕らえた貴族を釈放してしまっていた。
まったく……。
俺は呆れながら、トラウ兄さんの下へ向かった。
玉座の間へ向かうと、トラウ兄さんは若い男と話していた。
眼鏡をかけた文官。
眼鏡の奥に潜む鋭利な目が特徴的なその男の名は、ブラッド・フォン・オルコット。
オルコット伯爵位を継いでいる男だ。
オルコット伯爵は前王時代の重臣。その息子ということだ。
そんな奴がなぜ、トラウ兄さんの傍にいるかというと、この男が父親に反発していたからだ。
圧政を良しとせず、藩国を変えようと動いていた男。それがブラッドという男なのだ。
もちろん、試みは成功せず、ブラッドは不遇な時期を過ごしていたが、藩国は帝国に占領されて、王が変わった。
トラウ兄さんは未来ある若者を求めており、ブラッドはその未来ある若者たちの筆頭となったのだ。
現在は内務大臣として、トラウ兄さんの補佐をしている。
そのブラッドは、俺を見るなり、露骨に眉をひそめた。
「トラウ兄さん、勝手に貴族を釈放しないでください。聞きたいことは山ほどあったんですから」
「アルノルト宰相。ご兄弟といえど、陛下とは主君と臣下。弁えていただきたい」
「俺は皇帝陛下にも、父上で通しているんだ。口を出さないでもらおう」
そう言って俺はトラウ兄さんに視線を移す。
玉座に腰かけたトラウ兄さんは、困ったような表情を浮かべていた。
「取り調べは済んでいるでありますよ。彼らに問題はないであります」
「賄賂はもちろん、隠し財産まであったのにですか?」
「そこも含めて、自分が至らなかったということであります。これからはどうか、力を貸してほしいとお願いして、領地に戻ってもらったであります」
「そんな生ぬるい対応じゃ藩国の貴族がつけあがるだけですよ」
「自分は藩王であります。彼らを信じる立場にあります」
「いざとなればすげ替えればいいだけのこと。藩国の領地をやるといえば、喜ぶ帝国貴族の者は多いでしょう。次男や三男は領地を継げませんからね」
「アルノルト宰相! 聞き捨てなりません!」
ブラッドが声を荒げる。
だが、俺はそんなブラッドに冷ややかな視線を送った。
「聞き捨てならないというなら、さっさと藩国の貴族たちに膝をつかせろ。いまだにトラウ兄さんの下へ挨拶に来ない貴族がいる状況だぞ? 俺が各地を回っているのは、お前が貴族たちの説得に失敗したからだと言うことを忘れるな?」
「私が失敗したことは認めましょう。藩国の貴族が無礼なことも。しかし! だからといって、彼らを軽く見るような発言は控えていただきたい!」
「軽く見られたくないなら、力を示せばいい。藩国の防衛も、国内の立て直しの費用も。すべて帝国がやっている。自国も満足に立て直せないのに、軽く見られたくないとは、笑わせるな。はっきり言ってやろう。あのような貴族たちだから、藩国は腐敗したんだ。膿は出せるときに出すべきだぞ」
「……」
ブラッドは押し黙る。
言っていることに間違いはないからだ。
俺はブラッドから、トラウ兄さんに視線を移す。
「今回は仕方ありません。ですが、情に流されるのはこれっきりにしてください。甘い顔をしても得はありませんよ」
「わかったでありますよ、アルノルト」
「では、失礼します」
そう言って俺は玉座の間を後にした。
ため息を吐き、城の中を歩いていると、数名の貴族が俺に声をかけてきた。
「大変ですな、アルノルト宰相」
「あなたほど、藩国のことを考えている方はいないというのに」
「陛下はまだまだ甘いですな」
彼らは前王の重臣たちの一族だ。
まだまだ藩国での基盤が弱いトラウ兄さんは、重臣たちの一族まですべて粛清するわけにはいかなかった。
役職を与え、彼らの力を利用しているのだ。
そんな彼らは、台頭してきた若い力が好ましくない。
そのため、対立する俺へ媚びを売ってくる。
「閣下、今日は我が家で宴を開きます。閣下もいかがでしょうか?」
「宴か、悪くないな。伺おう」
「ありがとうございます! 光栄でございます!」
何度も頭を下げる彼らを見て、俺は満足そうに笑みを浮かべたのだった。




