外伝・十四話 母親に似ている人
これで外伝は終わりです(・ω・)ノ
お付き合いいただきありがとうございましたm(__)m
一週間後。
帝都に戻っていた俺は、またミヅホの地にいた。
手術後、順調に回復したクロエの母と話すためだ。
「経過は順調だ。まだ無理はできんがな」
「感謝する」
「医者としてやるべきことをやっているだけだ。報酬も貰っているしな」
トウイは机を指さす。
そこには俺が報酬として差し出した虹貨が無造作に置かれていた。
必要だから受け取るが、金には興味ない。
それがトウイという男なのだ。
呆れつつ、俺はクロエの母の部屋へと向かう。
「失礼する」
部屋に入ると、ベッドで横になっているクロエの母と、その横で世話をするクロエがいた。
「あ、お師匠様!」
「シルバー様、わざわざありがとうございます」
深くクロエの母が頭を下げる。
そんなクロエの母に苦笑しつつ、俺は置いてあった椅子に腰かけた。
「今日はこれからについて話をしにきた」
「はい。クロエを帝都に連れていくのですね?」
「あたし、頑張るよ!」
「ええ、しっかりやるのよ……」
「うん……」
また、この二人は勝手に話を進める。
俺はため息を吐きながら制止する。
「ちょっと待て」
「なんでしょうか……?」
「連れていくと言った覚えはない」
「え? 連れて行ってくれないの……?」
「悲しそうな顔をするな。トウイの話では、薬での治療は時間がかかるらしい。帝都で同じ薬を調合できる者がいるか探したが、いなかった。つまり、母上を帝都に移すのは不可能だ。世話する人間もいるし、何より母親の傍に娘はいるべきだ」
転移でトウイの下へ飛んで、薬を持ってくるという手もあるが、そんなことをすれば魔力がいくらあっても足りない。
ミヅホはそこまで近い国ではないのだ。
だから俺はクロエを帝都に連れていくことを諦めた。
母親のことが気になっていては、修行にも身が入らないだろうしな。
「じゃあ……弟子じゃなくなるんだね……」
「そうとも言ってない。母上が治ったら帝都に来い。その時、改めて修行をつけよう」
「でも、お母さんの治療は長引くって……」
「そうだな。数年はかかるらしい。だが、いい機会でもある。俺から宿題を出そう」
そう言って俺は一枚のカードをクロエへ渡す。
それは冒険者カードだった。
「これって……」
「手続きは済ませてある。津波を防いだ功績を加味して、AA級からのスタートだ。ミヅホのモンスターはそこまで強くない。実戦経験を積むには良い相手だろう」
「あたし……冒険者になったんだ……」
「そうだ。まぁ俺の弟子というのは伏せてあるがな。色々と面倒事に巻き込まれかねん」
「えー……」
「文句を言うな。宿題は冒険者ランクを上げること。母上の治療が終わるまでにS級になれ。なかなかにハードルは高いが、できるはずだ」
そういうと俺は立ち上がる。
話は終わったからだ。
すべて決まっていること。
ほかに話すことはない。
「ま、待ってよ! お師匠様」
「なんだ? 嫌ならやめてもいいぞ?」
「嫌じゃないよ! ちゃんとお母さんの治療が終わるまでに、S級になってお師匠様のところへ行くよ! それまでは会いに行かないし、会いに来なくてもいいよ!」
強い決心がクロエには見えた。
S級になるというのは生半可なことではない。
ましてやクロエは長時間戦えない。そこをどうにかしなければ、S級への道は切り開けないだろう。
だが、そこは工夫次第。
実戦の中で磨いていけばいい。
「そうか。それなら安心だな」
「そうだよ! 安心して! 絶対にやり遂げるから! ただ、その、聞きたいことがあるんだよ!」
「聞きたいこと? なんだ?」
「えっとね……お師匠様のお母さんってどんな人?」
「どんな人? 気になるのか?」
「うん! とっても!」
「そうだな……言うべきことは言う、芯の強い人だ。ゆったりとした時間を楽しめる人でもある」
「そっか……じゃあ髪は? 長い? 短い?」
「長いな。それを聞いてどうする?」
「良いの! 気になったんだから! じゃあ、次会うときはS級冒険者としてだよ! お師匠様!」
笑顔でクロエが拳を向けてくる。
俺はそんなクロエの拳に、自分の拳を合わせる。
「期待してるぞ?」
「うん! 任せて!」
「そうか。体には気をつけろ。しっかり来るんだぞ? 俺はお前を待っている」
クロエの頭を撫で、俺は告げた。
クロエは力強くそれに応じた。
「うん!」
■■■
三年後。
「クロエさん! すみません! また依頼が……」
冒険者ギルドのミヅホ支部。
そこの受付嬢が一人の少女に声をかける。
申し訳なさそうな受付嬢に少女は答える。
「いいよ、いいよ。あたしに任せて!」
気持ちの良い返事と笑顔。
それを見て、受付嬢はホッと息を吐く。
「すみません、ギルド長が変わってから増員はされているんですが……」
「あはは、仕方ないよ。ミヅホは冒険者に人気ないからね。その代わり、あたしが働くから」
「本当にすみません……その代わりといってはなんですが、S級への推薦状を出しておきました。何度目だって話ですが……今のギルド長なら若すぎるという理由で蹴ることはないので、今度こそ通るかと」
「うん、ありがとう!」
何度も頷き、少女、クロエは受付嬢が差し出した依頼書に目を通す。
村の周りに現れたA級モンスターの討伐だ。
今のクロエには拍子抜けともいえる依頼といえた。
「AAA級冒険者に相応しい依頼を用意できればいいんですが……申し訳ありません」
「だからいいって。どんな仕事でもあたしはやるから!」
そう言ってクロエは踵を返す。
すると、首の後ろで結った長い髪が動く。
それを見て受付嬢が訪ねる。
「S級冒険者になったら髪を切ってしまうんですか?」
「え? なんで?」
「え? 願掛けではなかったんですか?」
「違う違う。そういうのじゃないよ」
笑いながらクロエは否定する。
そして。
「お母さんがね、言ってたんだよ。男の人は母親に似ている人に惹かれるって」
はにかみながらクロエは答える。
それを聞いた受付嬢はクスリと笑う。
「なるほど、それで伸ばしたんですね。その方はどちらに?」
「どこだろうね? 内緒だよ」
「えー、教えてくださいよ」
「駄目だよ。じゃあ、あたしは行くね!」
「あ! お母様とトウイ先生によろしく言っておいてください!」
「うん!」
そう言ってクロエは支部から飛び出していったのだった。
しかし、それと同時に支部長の男が表に出てくる。
「クロエくんはどこだ!?」
「クロエさんなら依頼に行きましたけど……?」
「呼び戻せ! ギルド長が直々に話をしたいそうだ!」
「ええええぇぇ!!??」
混乱が支部内に広がる。
辺境のミヅホ支部にとって、ギルド長は違う世界の人間だからだ。
そんな支部の混乱を知るよしもなく、クロエは依頼に行く前に、家へ寄っていた。
「お母さーん! 依頼行ってくるねー!」
「はいはい。気をつけなさいね」
「はーい! トウイ先生! 新しい剣はまだー?」
家の工房。
そこではトウイが真剣な顔で剣を打っていた。
「やかましい。次こそ、壊れん剣を打つから覚悟していろ」
「前もそんなこと言っていた気がするけど?」
「今度は違う」
「それも前言ってたよー」
笑いながら呟き、クロエは母の方を見る。
「じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
クロエは自分の幸せを実感しながら、走り出したのだった。
はい、というわけで、二週間くらいの短い外伝でしたがお楽しみいただけたでしょうか?
溜まっている締め切りを片付けるので、次の連載がいつになるかわかりませんが、とにかく本編のほうも早く更新できるように頑張ります(・ω・)ノ
これからも応援よろしくお願いしますm(__)m
それではまた会いましょう(/・ω・)/




