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外伝・十話 手術開始



 三日後。

 帝都に戻って、いくつか依頼をこなした俺はまたミヅホ仙国へとやってきていた。

 俺が必要と思われる依頼はすべて終わらせてきた。

 高難度の依頼に人手を割かずに済んだ以上、ほかの冒険者たちは小さな依頼を受けることができる。

 それは帝都の治安も保たれるということだ。

 皇子としてもやるべきことがないことは確認してきた。寝ているということにしても、誰も疑わないはず。


「さて」


 呟きながら俺はトウイの家へ入っていく。

 待っていたのはクロエだった。


「お師匠様!」

「三日ぶりだな。ちゃんとイメージはしていたか?」

「もちろん! 何度も成功してるよ! 頭の中でだけど……」

「それでいい。成功することを想像できないなら、本当に成功させることは夢のまた夢だからな」


 クロエを褒めつつ、俺はトウイが待っているだろう、診察室へと向かう。


「失礼する」

「やっと来たか」


 部屋の扉を開けると、待ちくたびれたとばかりにトウイが椅子から立ち上がる。

 ベッドでは変わらずクロエの母が眠っていた。


「薬で寄生魔花を弱体化させることには成功した。あとは摘出するだけだ」

「結界については任せろ」

「心配はしていない。実力だけは認めているからな」

「それは良かった。俺も実力だけは認めている」


 俺とトウイには大きな溝がある。

 それでも互いの実力は変わらない。

 連携など不要。

 やるべきことをそれぞれやるだけだ。


「手術は長丁場になる。私も貴様も手を離せんだろう。弟子はどうする?」

「傍にいるよ!」


 トウイとしては家に帰せと言いたかったんだろう。

 だが、すぐにクロエが自分の意見を口にした。

 クロエは唯一の肉親だ。

 ここにいる権利はあるだろう。


「傍にいさせる。邪魔はさせないから安心しろ」

「ふん……まぁいいだろう。それでは準備に入る」


 そう言ってトウイは独特の手術道具を取り出した。

 刀鍛冶でもあるトウイは、その手術にあった道具を自分で作り出す。

 今回も手術のために道具を作ったようだ。


「寄生魔花の摘出には慎重さが必要だ。なるべく内臓を傷つけたくはない。時間がかかっても、患者の命のほうが大切だからな」

「もちろんだ。どれだけ長引いても構わん」

「話が早いな。貴様の準備はどうだ?」


 トウイに促され、俺は持ってきた魔導具で診察室に陣を描く。

 治癒結界の展開を補助する陣だ。

 これがあればより精密な操作もできるし、魔力消費も抑えられる。


「お師匠様……何か手伝うことある……?」

「手伝えることはない。だが、諦めるな」

「え……?」


 俺の言っている意味がわからず、クロエが首を傾げた。

 そんなクロエの頭に手を乗せ、俺は告げる。


「何があっても諦めるな。誰もが駄目だと思っても、君だけは母上が回復することを信じるんだ。君が信じているなら、俺も決して諦めない」

「お師匠様……」

「さぁ、外に出ているんだ」


 クロエを部屋の外に出し、俺は大きく深呼吸をする。

 後ろではもうトウイが準備を整えていた。


「弟子が諦めなければ諦めないか……」

「文句があるのか?」

「文句はない。ただ気になっただけだ。いまだにあの病の治し方を探しているのか?」

「そうだが?」


 トウイは大陸最高の医師だ。

 だから真っ先に母上の病について訊ねた。

 だが、答えは残酷だった。

 その症状は把握しているが、病には名前すらなく、もちろん治療法もない。

 そうトウイは返した。

 それでも大陸一の医師かと俺は逆上したが、トウイはただ、救えない者は救えないというだけだった。


「諦めの悪い男だな?」

「やれることはすべてやる。既存の薬で駄目なら、文献にだけ記された薬を復活させるまでだ」

「……貴様のような者を何と呼ぶか知っているか?」

「知らんな」

「馬鹿者というのだ」

「馬鹿で結構。諦めて後悔するなら、挑んで後悔することを俺は選ぶ」


 俺の言葉を聞いたトウイは静かにため息を吐いた。

 そして。


「……私のほうでも調べている。何かわかれば伝えよう」

「……感謝する」

「私は医師だからな」


 そういうとトウイは変わった形のナイフを取り出す。

 そのままクロエの母の患部を切り裂く。

 血が噴き出す。

 だが、思ったよりも出血は少ない。


「何か薬を使っているのか?」

「いくつか、な。しかし、思った以上に大きいな」


 患部の奥から姿を現したのは、紫色の花だった。

 トウイが口に出すほどだから、よほど大きいんだろう。

 クロエの母の体内で、ずっと栄養を貪っていたわけだ。


「ゆっくり摘出する」

「承知した」


 すでに治癒結界は発動している。

 だが、その効果は本当に微弱だ。

 傷を塞ぐわけにもいかないため、ゆっくりと回復させるしかない。

 気を抜けば傷を塞いでしまう。

 ある意味、ここも戦場といえるだろう。

 トウイの邪魔をせず、クロエの母の体を守らなければいけない。

 息を吐き、俺はさらに集中力を高めるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] クロエの傍にいるよ聞いて手術見学するのかと思ってびっくりした よかったw
[一言] シルバーがいるから他のSSランク冒険者が帝国に来ないだけなはず→ノーネームの件とか
[一言] 帝国ってSSランクどころかSランクの上位もいないって話だった気がするのですが、シルバーが3日不在にすると不味くて毎日のように依頼受けてるってシルバー登場する前はどうしていたんですかね… 皇…
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