外伝・七話 上達
今日は出涸らし皇子のコミカライズの更新日です!
見てみてください(/・ω・)/
次の日。
今日も今日とて修行は続く。
秘薬による魔力回復の促進と、魔導具による魔力の肩代わり。
この二つにより、クロエは昨日に引き続き、魔法に挑戦できていた。
ただ、その上達ぶりに俺は舌を巻くこととなった。
「昨日の今日でコツをつかんだか……」
クロエの体には漆黒の魔力が凝縮されている。
昨日とは比較にならない練度だ。
よほど魔法との相性がいいんだろう。
それと、クロエ本人がイメージを忘れなかったというのもデカいだろう。
素直な子だからこそ、伸びも早い。
意欲がそのまま成長スピードに繋がっている。
だが、それだけでモノにできるほど甘い魔法ではない。
魔力を凝縮することには成功した。
だが、今度はそれを押しとどめて、安定させないといけない。
それは今のクロエにとっては未知の領域だ。
「お師匠様!? お師匠様!? どうすればいいの!?」
「上手く安定させろ」
「そんなこと言ったって……!」
無茶を言っているのはわかっている。
俺もそうだった。
だが、仕方ない。
本人にしかわからないことだ。
俺は暴発に備えて、結界を増強する。
今度は十枚。
これを破られるとなると困ったことになる。
何か手を考えないといけない。
そんなことを思っていると、漆黒の魔力が一瞬だけとても小さくなった。
それは暴発の予兆。
一瞬の静けさのあと。
八枚の結界が一瞬ではじけ飛んだ。
咄嗟に左手でさらに五枚の結界を追加する。
なんとか最後の一枚で食い止めたが、信じられない威力だ。
これが暴発というのだから恐れ入る。
「もう咄嗟に結界を張るのは限界か……」
次からは陣を描き、その上でクロエにやらせるほかないだろう。
即座に展開できる結界は魔力消費的に楽なんだが、こうも何枚も続けて展開すれば馬鹿にならない。
「はぁ~……また駄目だったよぉ……」
「上達が見えるだけマシだ」
「お師匠様は一つの魔法を覚えるのにどれくらいかかったの?」
「長くて三日だな」
「……短くて?」
「試しでモノにした」
「天才がいる……」
クロエは大きくため息を吐いて落ち込む。
だが、クロエと俺は違う。
「俺は完全に魔導師だ。多くの魔法を覚える必要があった。だが、クロエ、君は違う。この魔法さえ覚えればそれだけで戦える」
「でも……それが使えないとあたしは役立たずってことだよね?」
「役に立ちたい、活躍したい。その思いは大切だが、自分の未熟さを受け止めるのも必要だ。君はまだ修行中。それは未熟の証明だ。自覚しなければいけない」
「はーい……」
地面に座り込んだまま、クロエがどこか不満そうに返事をした。
そんなクロエの頭を撫でたあと、俺はクロエに万能薬を手渡す。
「これは貴重な薬だ。君の母上に飲ませてみろ」
「これで治るの!?」
「わからん。だが、大抵の病は治る。これで治らないとなると君の母上の病は厄介なものだ。しかし、特定もできる」
「わかったよ! とにかく飲んでもらうね!」
「自分のことも忘れるな。イメージは常に大切にしろ」
「うん! ありがとう!」
ニコッと眩しい笑顔をクロエは浮かべる。
そんなクロエに苦笑しつつ、俺は転移門を開いたのだった。
■■■
その日の夜。
朝が早いため、眠りにつこうとした俺は、クロエの家に張った結界に異常を感じた。
「セバス! 緊急事態だ。あとは任せた!」
「かしこまりました。お気をつけて」
「師匠も楽じゃないもんだな」
「人に教えるということは苦労の連続ですからな」
セバスが言うと妙に説得力がある。
ため息を吐き、俺はクロエの村へと飛んだ。
転移を抜けると、村が騒がしいことに気付く。
どうやら襲撃されているらしい。
「まだ賊が残っていたか……」
皇太子の死後。帝国の治安は悪化した。
徐々に回復しつつあるが、辺境ともなると見逃されている賊もいる。
とにかくクロエとクロエの母の無事を確かめるために、クロエの家へと向かう。
すると、クロエの家の前には賊がたむろしていた。
「なんで入れねぇんだ!?」
「早くしろ! 子供は売り飛ばすんだ!」
どうやら村の子供たちがクロエの家に避難しているらしい。
結界の異常は、こいつらの仕業か。
とりあえず転移門をそいつらの足元に開き、海へと飛ばす。
何が起きたかわからないまま、賊は消えていく。
「無事か?」
「し、シルバー様! 来ていただけたんですね!」
「もちろんだ。クロエは?」
「村の中央で他の賊と戦っています!」
「そうか……」
クロエの母から説明を受け、俺は小さくため息を吐いた。
結界に隠れていればいいものを。
きっと他の村人を見捨てられなかったんだろう。
悪いことではない。
理解もできる。
戦えるのはクロエしかいないから、クロエが戦うのはわかる。
だが、危険なことはしないでほしい。
「手のかかる弟子だ」
呟きながら、村の中心へと向かう。
そこではクロエは賊に囲まれていた。
何人か倒れている賊がいる。
クロエが手強いと見て、他の家を襲う前にクロエを倒そうとしているんだろう。
それはクロエの思惑通り。
「早くやっちまえ!」
「全員でかかるぞ!」
声を掛け合い、賊たちはじりじりとクロエとの距離を詰めていく。
クロエは二本の剣を構えているが、明らかに疲れている。
当たり前だ。
修行をしたあとなのだから、疲労は溜まっているはず。
しかもすでに何回か戦ったあとだろう。
クロエに不利な要素が揃っている。
それでもクロエはイチかバチかの古代魔法には頼らない。
俺が来ると信じているからだろう。
援軍のアテがあるからこその行動。
なるべく時間を稼ぎ、俺を待つ。
そこにあるのは信頼だ。
「行くぞ!」
「おお!」
「おらっ! 死ね!」
賊たちが一斉にクロエへ飛び掛かる。
その瞬間。
俺は賊たちを転移門で全員飛ばした。
彼らはどこともわからない海へと飛ばされ、モンスターの餌にでもなるだろう。
そもそもモンスターの餌になる前に、海に落ちた衝撃で死ぬかもしれない。
ほぼ生き残る可能性はない。
ここで始末してもいいが、この村に血の匂いを残すのは気に入らない。
「無事か? クロエ」
「お師匠様……!」
「無茶をするな。すぐに駆け付けると言ったはずだぞ?」
「ごめんなさい……でも、他の人達を見捨てられなくて……」
「気持ちはわかる。だが、人を助けられるのは強者だけだ」
クロエの実力では、賊をすべて相手取るのは不可能。
俺が来るのがもう少し遅ければ、取返しのつかないことになっていたかもしれない。
「自分を大切にしろ。その後に周りの人だ」
「ごめんなさい……」
「だが、魔法を使わなかったことは褒めてやろう。コントロールできない力は周りを巻き込む。使う場所を誤らなかったことは評価できる。よく耐えた」
「うん! 頑張ったよ!」
クロエは明るい声で答える。
ピンチだったのに、大した精神力だ。
さっさと立ち直ったクロエは、家に隠れていた村人たちに声をかけ始めている。
クロエの声を聞き、村人たちが恐る恐る顔を出し始める。
さて、どうやって説明すべきか。
そんなことを考えていると、一人の子供が慌てた様子で走ってきた。
「クロエお姉ちゃん!」
「どうしたの!?」
「クロエお姉ちゃんのお母さんが苦しそうだよ!」
その瞬間、クロエは走り出す。
俺もすぐにその後を追ったのだった。




