外伝・四話 やられたらやり返せ
出涸らし皇子のコミカライズ二巻が重版しました!(・ω・)ノ
六巻の売り上げも順調なようです!
ありがとうございます!!
学院の正門前。
そこでクロエを待っていると、息を切らしてクロエが走ってきた。
「はぁはぁ……お待たせ! お師匠様!」
「……」
俺は何も言わず、クロエの頬に手を伸ばす。
その頬は赤く腫れていた。
治すのは簡単だが。
「殴られたか?」
「うん……すごい喚いていて、先生が止めている間に来ちゃった」
「賢明だな。君が虹貨を持っているわけがないからな。誰が渡したかなんて馬鹿でもわかる」
「あはは……」
クロエは笑いながら自分の頬に手を当てた。
痛いんだろう。
何度か顔をしかめている。
「痛いか?」
「少し……けど、約束を破ったわけだし……」
「君は約束を守った。古代魔法を使えると言ったわけじゃない。言えば落第を取り消せるのに、何も言わなかった。しかも虹貨でお金も返している」
「でも……怒るのはわかるよ……」
「理解はいいことだ。しかし、理不尽は理不尽だ。彼は自分の思い通りにならないから怒っただけ。君が叩かれる謂れはない」
言いながら俺は手のひらに光弾を浮かべる。
極力威力を落としたものだ。
それでも思いっきり殴られたくらいの衝撃はあるだろう。
「レッスンその一だ。俺の弟子なら理不尽には対抗しろ」
「え?」
「やられたらやり返せということだ」
結界を張って、学院内にいるヴィムの位置を特定する。
そのまま光弾を投げた。
すぐに学院内に入って、光弾は見えなくなるが、遠隔操作でヴィムの下へ向かわせる。
そして、暴れて教師の手を焼かせているヴィムの頭に光弾を直撃させた。
一撃でヴィムは気絶する。
「今の君に力はない。だから代わりに俺がやっておいた。教訓にすることだ。理不尽を放置すると、相手にはもっと厄介な理不尽が襲う。相手を助けると思って対抗しろ」
「もしかして、今の彼に当てたの!? 駄目だよ!? 死んじゃわない!?」
「そこらへんは心得ている。気絶しただけだ」
「一発の威力が違うよ……弟子の喧嘩に師匠が出るのっておかしいと思わない?」
「思わないな。君が殴られたら、俺が気に食わない」
「お師匠様って意外にお子様? 何歳なの?」
「何歳だろうな?」
笑いながら俺は転移門を開く。
クロエがどこの村の出身かは、学院長から紙を奪ったときに確認している。
「さぁ入れ。まずは君のお母さんに会いに行こう。心配させるのは良くない」
「これって噂の転移魔法? どこでもいけるの?」
クロエが不思議そうに転移門を覗き込む。
そんなクロエの背中を俺は押した。
「早くしろ」
「わぁぁぁぁぁぁ!!??」
バランスを崩してクロエは転移門の中へ落ちていく。
その悲鳴を聞きながら俺は学院へ目をやる。
今のヴィムへの一撃で、俺が関わっていることがわかっただろう。
クロエは落第生。
その認識だから真実にたどり着けなかったが、俺がここまで肩入れするなら、わかる奴にはわかるだろう。
もう遅いが。
「ではな、帝国魔導学院。依頼料を払って、逸材を紹介してくれたことには感謝しよう」
一礼した後に俺も転移門へと入ったのだった。
■■■
クロエの出身は帝国と王国の国境付近の村だった。
元々、王国からの流民だったんだろう。
帝国西部は豊かな土地のせいか、人が温厚だし、貴族も民も優しい。
流民だったとしても、悪い扱いは受けない土地といえる。
そんな村の外れにクロエと俺は到着した。
「何するんだよ! お師匠様!」
「背中を押しただけだ。早く入らないほうが悪い」
「あんな得体のしれない穴に迷わず入れる人なんかいないよ!」
「入れる人間になれ」
俺にそう言われて、クロエはムッとした表情を浮かべて顔を逸らした。
そのまま村のほうへクロエは歩いていく。
後を追っていくと、クロエは村の隅にある小さな家の前で立ち止まった。
家の前で細い女性が薪を割っていた。
クロエはすぐにその女性に駆け寄る。
「お母さん! 家で寝てないと!」
「クロエ!? どうしてここにいるの!?」
「そんなのどうでもいいよ! 薬は!? ちゃんと飲んでる!?」
「あのお金は使えないよ……あんたが卒業したら使いなさい……」
クロエの母はそう言ったあと、軽くせき込む。
その姿が、体調が悪いときの母上に重なる。
だから俺はクロエが何か言う前に母親に声をかけた。
「失礼。あなたがクロエの母上か?」
「えっ……? そ、そうですが……あなたは?」
「冒険者ギルド帝都支部所属、SS級冒険者のシルバーだ。クロエについて話がある。悪い話ではないので、少しお時間をいただけないだろうか?」
「えっと……冒険者の偉い方ですか?」
「大陸に五人しかいない最強の冒険者だよ……貴族でいうと公爵くらい?」
「公爵程度と一緒にしないでほしいものだな。俺は皇帝相手でもため口だ」
「それって礼儀知らずなだけじゃ……」
「すごいお偉い方なんですね……すみません、村を出ないせいか世間知らずなもので……」
「お気になさらず、さぁ家の中に。外は体が冷えます」
「そんなお偉い方を入れられるような家では……!」
「所詮は冒険者。家があるだけマシだ。さぁ、入りましょう」
躊躇うクロエの母親を先に家へ入れて、俺もその後に続くのだった。




