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外伝・二話 もう一人の解読者



 帝国魔導学院の中を俺は歩いていく。

 教室で講義を受けていた生徒たちが、俺を見て奇異な目を向けてくる。

 黒いローブに銀の仮面。

 明らかに怪しい人物だからな。

 そんな俺の前に紙の鳥が飛んできた。

 風を操り、俺の前まで飛ばしてきたんだろう。

 おちょくるようにヒラヒラと仮面の前を行き来している。


「学院長! あまり得体のしれない奴を学院に入れないでもらえますかね?」


 そう言って数人の男子生徒が笑う。

 貴族の子供だろう。

 明らかに態度が悪い。

 俺の横で学院長の顔が真っ青になっているのがわからないらしい。

 少し脅かしてやるか。


「これは君のか?」

「ああ、そうだ」


 紙の鳥を指さして訊ねると、リーダー格の生意気そうな少年が答える。

 捕れるものなら捕ってみろといわんばかりに、紙の鳥の動きが激しくなった。

 そんな紙の鳥を結界で囲み、俺は猛スピードで少年の下に飛ばし返した。

 紙の鳥は少年の真横を通り過ぎ、空いていた窓を抜けて外へと一気に駆け抜けていってしまう。

 一瞬の出来事に少年は固まっている。


「得体のしれない奴と言ったな? 冒険者ギルド帝都支部所属、SS級冒険者のシルバーだ。君の名を聞かせてもらえるか?」

「シルバーって……」

「帝都のSS級冒険者……?」

「古代魔法の使い手がどうして学院に……?」


 俺の名乗りを受けて教室が一気にざわついた。

 少年はようやく自分の過ちに気付いたのか、学院長と同じ顔色になった。


「名を、聞かせてもらえるか?」

「あ、あの……」

「シルバー殿……子供ゆえお見逃しいただきたい」

「教育がなっていないようだ。名前くらいは名乗れるようにしておいてほしいものだな」

「申し訳ない……」


 そんなことをしながら、俺は学院を見て回る。

 しかし、どこを探しても古代魔法の素質がありそうな者は見当たらない。

 そして学院を一周してしまった。


「生徒はこれですべてか? 学院長」

「今は演習の時間ではないから、すべての生徒を見たはずだ」


 そうなると俺の勘違いか。

 ヴィムが隠れて読んだのか、それとも知らない者が偶然、あのページを読んだだけか。

 自分の中の疑念と戦っていると、学院の教師がやってきた。


「学院長、落第者のご報告が」

「おお、そうだったな。今回は何名だ?」

「今回は一名です」

「一名というと……ああ、あの生徒か」


 学院長は手渡された紙を見て納得したように頷いた。


「その生徒は授業には?」

「落第した生徒はすぐに学院から去る決まりだ。授業には出ていないだろう」

「その生徒に会いたい」

「会ってどうする? 魔法の才能は全くない生徒だ。魔力だけは飛びぬけていたため、入学させたがどの魔法も習得できなかった」

「会ってどうするかではなく、会いたいだけだ。駄目だと言うなら勝手に行く」


 俺はそう言って学院長の手から紙を奪うと、そのまま歩き始める。

 学院を去るというなら正門から出るだろう。

 そこで待っていれば会えるはずだ。


「わかった、わかった。ちゃんと会わせるから勝手に動かないでくれ……」

「初めからそう言えばいい」


 学院長が折れたのを見て、俺は紙を返す。

 魔力だけ飛びぬけた生徒。

 しかもどんな魔法も習得できない。

 これほど俺と一致する者はそういないだろう。

 問題は、なぜ自分から読めると言い出さなかったのか?


「その生徒は貴族か? 平民か?」

「平民だ。なんてことのない村の出身だな」

「そうか……」


 学院長に不審な点はない。

 となると本人の意向か、もしくは他の生徒の意向だろうな。

 アルテンブルク家の者なら脅すくらいはやるだろう。

 古代魔法の魔導書を解読できる者が二人いるのは、困ると考えてもおかしくない。

 そんなことを思いながら俺は学院長の案内に従って、歩き始めたのだった。




■■■




 案内された部屋の近く。

 そこにヴィムがいた。

 周りを警戒するように部屋へ入ろうとしている。


「また会ったな?」

「っっ!?」


 声をかけられたヴィムは肩を震わせて、俺のほうへ振り向いた。


「ヴィム君、ここで何を?」

「そ、その……落第者の顔を拝んでおこうかと……」

「なかなかいい趣味だな」


 俺の言葉にヴィムが頬を引きつらせる。

 学院長も怪訝そうな顔をしている。

 ヴィムは少し思案した後、すぐに頭を下げて退散した。


「失礼しました!」

「一体、何がしたかったんだ……?」

「念を押しておきたかったんじゃないか?」

「何の念を押すというのだ?」

「なんだろうな」


 学院長の問いをはぐらかしたあと、俺は案内された部屋の扉に手をかけるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[一言] まさかのハーレムに新規参入か?
[良い点] ヴィム君も一応は秀才かと思ってたらただのクズだったのか…残念だ
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