第四百四十九話 久しぶりの一時
昨日はすみませんでしたm(__)m
帝都が歓声によって包まれていた。
その中心にいるのはレオだ。
凱旋したレオは熱烈な歓迎を受けながら、帝都に入ることになった。
その様子を城の上階から見下ろしながら、俺は呟く。
「大人気だな」
「戦功著しい英雄皇子ですからな。戦果に恵まれた点もありますが、それにしても東部の問題から始まり、公国での海竜事件、帝国南部での悪魔討伐、クリューガー公爵による反乱阻止、帝都での反乱阻止、北部でのゴードン皇子の討伐、そして西部での王国軍撃破。民が知っているものだけでも、まさに英雄です」
「政で結果を出してきたエリクに対して、戦場で結果を出したレオ。ゴードン兄上がやろうとしたことをレオが引き継いだ形だな」
「それしかエリク殿下に対抗する方法はありませんからな」
「手柄をあげるのはいいことだ。レオが参戦し、四つ巴となった帝位争いはもう一騎打ちだ。互いの手柄を競う段階になっている。文官色の強いエリクに対して、武官色の強いレオ。それぞれの手柄を誇示し、最後のスパートにかかるだろう。まぁどちらも決定打には欠けるけどな」
タイプの違う候補者である以上、単純な比較が難しい。
外交の成功と戦場での成功。
どちらも国に貢献している。
ただ。
「大陸三強と呼ばれる王国、帝国、皇国の三竦みは長年維持されてきた。その一つを崩せば、その手柄は計り知れない」
「王国との戦に勝てるかどうか。それが課題ですな」
「勝たせるさ。実際に王国との戦争になれば、な」
「停戦といえど一時的では?」
「悪魔によって受けた被害は大きい。王国としては停戦を維持するだろう。今、仕掛けるメリットが王国にはないしな」
今仕掛ければ、苦戦を強いられたレオがすぐに舞い戻ってくる。
それは王国としては望むところではないだろう。
「帝位争い中ゆえ、エリクはレオに手柄を立てさせたくない。そのことを王国は理解している。だから、ある程度落ち着いてから仕掛けてくるだろう。帝国内で足の引っ張り合いが起きる頃に、な」
「困りましたな。落ち着いた期間が続くとレオナルト様は不利になります。しかも対王国戦に出られない可能性もあると?」
「それでも乗り越えていくしかない。レオも簡単に玉座が手に入るとは思ってないさ」
そう言いながら俺は立ち上がる。
そろそろレオが城に入る頃だから。
■■■
「レオ兄様!」
城に入ったレオにクリスタが抱きついた。
そんなクリスタを受け止めながら、レオは笑顔を浮かべる。
「ただいま、クリスタ。会いたかったよ」
「私も会いたかった」
離れていた反動か、クリスタはレオから離れない。
そんな姿に苦笑しながら、レオは出迎えに出てきた俺を見る。
「ただいま、兄さん」
「ああ、よく帰ってこれたな?」
「どういう意味?」
「そのままの意味だが? よくレティシアの傍を離れられたな?」
「陛下の呼び出しじゃ断れないからね。その代わり、近衛第二騎士隊が護衛を引き受けてくれたよ」
「王国としては聖女が帝国にいるのは困るからな。お前が留守なら変な気を起こす可能性もありえる。それに対する対策か」
近衛第二騎士隊は要人警護のスペシャリストだ。
守りに秀でて、粘り強い。
隊長の性質を反映した部隊といえるだろう。
それゆえにレティシアを任せても安心できる。
「本当はレティシアも連れてきたかったんだけど、本人が国境に残るっていうから……」
「レティシアを慕って王国を離反した者は、あくまでレティシアを慕っているだけだ。帝国に忠義があるわけじゃない。レティシアが傍を離れれば万が一がある。残るのが賢明だろうさ」
「少しくらいなら平気だと思うんだ。近衛騎士隊を三隊くらい投入すれば問題ないよ」
「お前のわがままで近衛騎士隊が三隊も投入されてたまるかよ」
「いいじゃないか。権力は小さなわがままのために使うべきだと思うんだよね」
「そうかい。それじゃあ自分が即位したあとにやるんだな」
呆れながら返しつつ、俺はレオを促す。
行かなければいけないところがあるからだ。レオには。
「ほら、さっさと父上に挨拶してこい」
「結婚を許してくれるかな?」
「無理だろうな。トラウ兄さんの結婚もあるし、しばらくは無理だろ」
「うーん、残念」
暢気に呟きながらレオは歩き始めたのだった。
■■■
夜。
近しい人々に帰還の挨拶を終えたレオが、俺の部屋にやってきた。
「いやぁ、疲れたよ」
「この前は帰還して、すぐに西部だったらしいからな。今回はしばらくゆっくりできるだろうよ」
「兄さんは慌ただしいね」
「トラウ兄さんの結婚式を帝都で行い、それが終わったら藩国だからな。目が覚めてから中々長期間、同じ場所にいるってことがないのは困ったもんだよ」
「嫌なら誰かを選べばよかったのに。勢力内の力関係に気を遣った、みたいな噂を流してるけど、そんなのどうにでもなったでしょ?」
「モテすぎて選べなかった」
「優柔不断なだけじゃないか」
辛辣な言葉に俺は肩を竦める。
この話は駄目だな。
選んだ奴と選ばなかった奴じゃ勝負にならない。
「ところで、悪魔討伐の話は聞いたか?」
「露骨だなぁ。まぁいいけど。聞いたけど、何か問題でも?」
「調査の結果、ここ最近、帝国で起きていた事件の大半に魔奥公団は関わっていたらしい。お前は……そんな魔奥公団があっさり壊滅させられると思うか?」
「SS級冒険者相手じゃ仕方ないよ……って言いたいところだけど、相手は悪魔だからね。あっさりしすぎかなって思うよ」
「同感だ。はっきりしていないことも多い。都合のいい情報だけ与えて、もう一度闇に潜んだ可能性もある。そうなると嵐はまたやってくる」
「つまり油断するなと?」
「そうだ。俺は藩国で、お前は帝国で。備えを怠るな。魔奥公団の狙いは終始帝国だった。奴らがまだ潜んでいるなら、狙いは引き続き帝国だろう」
「油断する気はないよ。一度、レティシアは狙われているからね。一度あることは二度ある。確実に壊滅させなきゃ……安心なんて到底無理だよ」
「それなら問題ないな。宰相となったなら一年は戻れない。最低限、トラウ兄さんに権力が集中する形を整えないとだからな。こんなに長い間、離れ離れになるのは初めてだが……やることは変わらん」
「相手はエリク兄上で、勝つためには王国を負かすしかない。僕個人としてもレティシアのために、王国内の問題を解消したい。目的は明確だ。これまで通り、僕らは頑張るだけ。少し……不安ではあるけどね」
「俺も不安だ。俺たちは常に傍にいたからな。けど、良い経験と思うべきだろう。離れたほうが見えることもある」
「僕らが一緒に居ると危険だって、さすがに敵も思ってるだろうしね」
「そうだ。離れ離れの間、敵も動くだろう。それを躱して乗り切れば玉座が見えてくる。王国も一年もあれば、国力を回復させるだろうからな。勝負は俺が戻ってからだ。勝手に始めるなよ?」
「わかってるよ。玉座は一緒に取ろう」
俺はテーブルに置いておいた酒を二つのグラスに注ぐ。
片方は自分に、もう片方はレオに。
俺たちは月を見ながら乾杯したのだった。




