第四百四十八話 続報
28日の更新はおやすみしますm(__)m
冒険者ギルド帝都支部。
報告を受けた俺はシルバーとして、帝都支部にいた。
しかし。
「まだ何もないのか?」
「残念ながら……連絡は途絶えています」
王国にも支部はある。
そこを通じて状況を受け取れるはずだった。
だが、悪魔と遭遇という第一報以降、続報がない。
第一報の後からは相当な時間が経っている。SS級冒険者たちなら十分すぎるほどの時間だ。決着がついていないとは考えにくい。
「これ以上、状況が不透明ならば俺は王国に飛ぶぞ?」
「それは……」
俺の言葉を受けて、ギルド職員が困り顔を浮かべた。
自分たちに言われても、という気分なんだろう。
とはいえ、俺の役割は中央にて緊急時に備えること。
連絡がないということは、緊急時とみなせるはずだ。
そんなことを考えていたとき。
帝都支部に情報が入ってきた。
「ほ、報告が来ました!」
「早く報告しろ!」
「はい! 各地で悪魔と相対した調査隊ですが、SS級冒険者の活躍で悪魔を討伐完了! 三体の悪魔を討伐したとのことです!」
帝都支部内にほっと一息が流れる。
SS級冒険者が三人も投入された作戦だ。
失敗など許されない。
だが。
「さらに続報!」
最初に報告を持ってきたギルド職員の後ろから、慌てた様子で職員がやってきた。
その顔はかなり険しい。
「まだあるのか!?」
「はい! 王国にて四体目の悪魔が出現! 逃亡を図ったため、SS級冒険者たちが追撃! その過程で三つの街が壊滅的被害を受けたとのことです!」
「な、に……?」
「討伐はできたのか?」
「それはまだ確認中とのことで……」
一気に帝都支部内の空気が重くなった。
さすがSS級冒険者、悪魔相手でも楽勝じゃないか。
そんな雰囲気だったのに、今の報告で現実に引き戻された。
相手は悪魔。
そう簡単にはいかない。
「俺への協力要請は?」
「は、はい……SS級冒険者ジャックから正式にシルバーさんの派遣が要請されました」
「よろしい。では行こう。詳しい話はジャックから聞く」
そう言って俺はすぐさま転移したのだった。
■■■
二回の転移で、俺は王国内のギルド支部へたどり着いた。
突然現れた俺にギルド内が騒然となるが、そんな俺にジャックが声をかける。
「よく来てくれた……シルバー」
「詳しい話を聞こう」
「その前についてきてくれ」
ジャックはそういうと支部の外へと俺を連れ出す。
支部の外はまさに地獄ともいえる光景だった。
大量の負傷者が所かまわずに寝かされており、それを手当てするために人が一心不乱に動いている。
「まずは彼らへの治癒をお願いしたい」
「なるほど。当然だな」
そう言って俺は街全体に治癒結界を展開した。
少しずつだが、倒れている者たちの傷が治り始める。これで死ぬ者はいないだろう。
「話してもらおう……三人がいながら何があった?」
「……拠点を調査した段階で、俺たちは悪魔と遭遇した。だが、それは囮だった。本命と思われる悪魔はその間に逃亡。すぐに気づいたのはエゴール翁だけだった。追跡の最中に、その悪魔は足止めをかねて近場の街を破壊した。三つの街が犠牲になり、怪我人は多数」
「ここにいるということは討伐はできたのか?」
「なんとかな。逃げ一辺倒だったから苦労した。結局は三人で動きを封じて討伐した形だな。暫定的な調査の結果だが、その逃げた悪魔が魔奥公団の首魁、大公らしい。実際、明らかに他の幹部より強かった」
「名は?」
「ボティスと名乗っていた」
「そうか……」
爺さんが言っていた悪魔の名はダンタリオン。
かつての魔王軍の幹部。
大公と呼ばれる以上、その地位にいるのはダンタリオンと読んでいた。
読みと違うから変というわけではないが……。
「ここ最近じゃもっとも被害の出た事件だな。死傷者の数は想像したくもない」
「SS級冒険者が三人も投入されて、この被害だからな。だが、気になる点もある。逃げる大公はどうして街を攻撃したんだろうな? SS級冒険者がその程度で止まるわけがない」
「そこは俺にも謎だ。何か考えているならエゴール翁と話せ。勘という点であの爺の右に出る奴はいない」
「どこにいる?」
「聞いて驚け? 街の外で瞑想している。迷子にならず、この街までたどり着いたんだ」
「槍でも降るかもしれんな」
「ありえるぞ。それから……その、シルバー」
ジャックは何か言いづらそうにしている。
そういう場合の話題は決まっている。
「ミアは無事に目を覚ましている。今後は、藩国で俺に協力してもらうつもりだ。働き口が必要だろうしな」
「そうか……何から何まですまない」
「気にするな。彼女が有能というだけの話だ」
俺はそこで話を切る。
ジャックはまだいろいろと聞きたい顔だったが、この会話は俺にとってリスクでしかない。
空に浮かび、街の外へ目を向ける。
すぐにエゴール翁は見つかった。
俺はそちらに向かって降下していく。
「――来たか」
「……迷子にならずに済んだとか。もう道案内は必要ないか?」
「茶化しに来たわけではあるまい」
エゴール翁は座禅を組み、目をつむっている。
どうやらそのまま話すようだ。
「……今回の事件をあなたはどう見る?」
「直近では最悪の事件じゃ。さすがは悪魔と……皆、思うじゃろうな」
「同感だ。俺が討伐したのを合わせて、五体の悪魔がいたことになる。これが増えていたらと思えばぞっとする。しかし……本当に魔奥公団は壊滅したのか?」
「暫定的な調査ではそうなるのぉ。三人がかりで追い詰めた悪魔が大公と呼ばれるリーダーじゃった。調査が進めばそれは深まるじゃろうて」
「……あなたの勘は何と言っている?」
これまではあくまで状況に対する判断。
エゴール翁の勘ではない。
俺が聞きたいのはエゴール翁の勘だ。
この人はその勘を頼りに多くの問題を解決してきた。
「わしの勘か……それならば話は別じゃな。わしの勘はこう告げておる。まだ終わってはおらん」
「同感だ。俺のは勘ではなく、推察だが」
「どんな推察じゃ?」
「今回の事件は派手だ。被害も大きい。多少の違和感は塗りつぶしてしまうほどにな。魔奥公団を壊滅させるために、SS級冒険者が三人も投入され、被害を出しながら完了した。状況的にはそういうことになる。だが、今まで闇に潜んでいた組織がこうも簡単に壊滅するとは思えん。むしろ出てきた悪魔が囮と思うほうがしっくりくる」
「確証は?」
「ない。だが、一つ予想してもいい。俺が幹部を討伐し、調査した拠点では大公は殿下と呼ばれる大物と協力関係にあった。本当に壊滅しているなら、殿下に関する情報も出てくるだろう。逃がした大公の情報すら隠滅していないんだ。殿下の情報も出てくるとみるべきだ」
「そうじゃな」
「だが、おそらく出てこない。これは四体の悪魔を使った偽装だからだ。本物の大公は別におり、すでに闇へ潜った。理由は簡単。SS級冒険者とはやりあいたくなかったからだ。しかし、簡単には逃がしてくれない。だから餌を用意した。とんでもなく上等な餌だ」
「……その推察が外れておればどんなによいか……」
「俺もそう思う。これで各国の王の協調路線は終わる。魔奥公団が暗躍しやすい展開となるというわけだ。すべて杞憂であればいいが……俺たちは備えておくべきだろうな」
「その通りじゃ。我らは人類の盾にして矛。研ぎ澄ましておかねばな」
そう言ってエゴール翁はさらに深い瞑想に入った。
心に浮かんだ不安は消え去らない。
まだ終わってはいない。だが、そう主張したところで証拠がない。
証拠がなければ王たちは動かない。
「してやられたか……」
推察通りなら大公とやらは驚くほど大胆だ。
貴重なはずの手駒をふんだんに使って、SS級冒険者との直接対決を避けた。
問題なのはその手駒を補充するアテがあるということだろう。
そうでなければ囮には使えないからだ。
深く、深くため息をはいて俺はその場をあとにしたのだった。




