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第四百三十九話 冒険者たち


『参加するのはジャック、エゴール、リナの三名。シルバーはいざというときのために帝国で待機し、東での有事に備えてノーネームも皇国で待機だ』

「承知した。しかし、拠点の捜査となると三名では足りないぞ? 二名ほど捜査に向いていない人材がいるからな」

『否定はしないわ』

『そもそもたどり着けるか怪しいからのぉ』

『補佐はもちろん要請してる。俺だけじゃ無理だ』


 呆れた様子でジャックが呟く。

 SS級冒険者の二大脳筋だからな。頭が悪いわけじゃないが、面倒臭がりのせいで基本的に何もかもをぶち壊す。

 サポートするのも大変だろう。


『すでに討伐隊の編成は進んでいる。S級五名にAAA級が十名、そのほかサポート要員がつく。三人の下に割り振り、捜査を進めていく』

『そんなにぞろぞろ連れて来られても、使えないなら意味ないわよ?』

『安心しろ。捜査に関しちゃお前らよりも使える。お前らは悪魔が出てきた時に備えて待機してればいい』

『もう、私たちが戦闘しかできないみたいな言い方やめてくれるかしら? 捜査に向いてないだけよ、ねぇ? エゴール翁』

『そうじゃそうじゃ』

『だったら現場で証明しろ。事前に怪しい拠点はピックアップされているとはいえ、その数はかなり多い。偵察できているのも一部だ。ちんたらやってると逃げられる』

『逃がせばまた闇に潜られる。失敗は許されん。SS級冒険者を三名も投入するのは、冒険者ギルドとしては異例の決断だ。各自、そこを肝に銘じて動いてほしい』


 クライドの言葉に全員が頷いた。

 冒険者は昔から職業としてあった。

 しかし、組織化されたのは五百年前から。

 中立の立場でモンスターに対抗する組織。いざというときに各国をまとめられ、規格外な戦力の受け皿になれる組織。

 それを目指して作られた。

 実際、それは功を奏している。

 この戦力を動かせる組織があるからこそ、大陸は混乱せずに済んでいる。ギルドがなければ、即座に王国への侵攻という話になっていただろう。

 だが、どうして設立されたのか?

 結局のところ、対悪魔に他ならない。

 あの時の恐怖があるから、備えるために作られた。

 つまり、今こそ真価が問われている。

 冒険者ギルドという存在が。


『では……〝民のために〟。各自の奮闘を期待する』


 そんなクライドの言葉を締めとして、会議は終了した。

 細かいことはきっとジャックとクライドの間で行われるだろう。

 今回は全体の流れと役割分担。

 ちゃんと言及しないと足並みがそろわない連中だからな。

 そんなことを思いながら、俺は帝都支部の地下室を出て上へと上がっていく。


「お疲れ様です。シルバーさん」

「さほど疲れていない。今回は問題児たちが大人しかったからな」


 いつもの受付嬢、エマは俺の言葉に苦笑する。

 受付嬢としてはSS級冒険者を問題児扱いはできないか。まぁ仕方ないだろうな。


「そういえば溜まっている依頼を終わらせようと思っている。他にもあるなら言ってくれ」

「えっ!? 動いてくれるんですか!?」

「最近は国内が慌ただしくて依頼を受けていなかったからな。高ランクの依頼は俺に回してくれ」

「ありがとうございます! 高ランク依頼は皆さん、手を出さないので溜まる一方で!」


 ウキウキでエマは依頼書を準備し始めた。

 さぞや悩みの種だったんだろう。

 まぁ完全に俺のせいだが。

 俺が高ランク依頼を優先してくれというから、ギルド職員は俺用に高ランク依頼を取っておくし、他の冒険者もどうせシルバーがやるからと思っているから、高ランク依頼に手を出さない。

 そういうサイクルが出来てしまっているのだ。

 まぁ、徐々に優秀な冒険者が育ってきているから、そのうちこのサイクルも壊れるだろうが。


「おっ!? シルバーじゃねぇか!」


 一人の冒険者が俺を見つけて名を呼ぶ。

 どうやらギルドでは新人の歓迎会をしているようだった。

 まだ少年、少女と言えそうな数人を、おっさんたちが囲んで酒を飲んでいる。

 冒険者ギルド内じゃなきゃ兵士を呼ばれても不思議ではない光景だ。

 真ん中の新人たちも困惑している。


「止めなくても?」

「止めても聞かないので」


 エマはため息を吐く。

 どうやら酔った勢いの悪ノリらしい。

 どんちゃん騒ぎする理由があれば、何でもいい連中だからな。


「シルバー!! 新人だぞ! 挨拶しろよ!」

「そうだそうだ! 挨拶しろ! 新人様だぞ!」

「わっはっはっは!!」


 やれやれ。

 酔っぱらいが大勢いると面倒だな。

 素直に俺は新人たちのところへ向かう。

 まだ十五になったか、なる前くらいか。

 二人の少年に一人の少女。

 緊張した様子で俺を見ている。


「あ、あの! SS級冒険者のシルバーさんですか!?」

「そうだ」

「ぼ、僕! シルバーさんに憧れて帝都に来たんです!」

「私もです!」


 二人が手を差し出してくる。

 俺は一人ずつ握手して、最後の一人を見た。

 勝気そうな少年だ。

 その少年は唐突に俺を指さしてきた。

 そして少し震えた声で宣言した。


「シ、シルバー! 俺はあんたをいつか超えてみせる! 俺がこの帝都支部を背負う冒険者になるんだ!」


 無謀な少年の発言を受けて、他の二人が慌てて謝らせようとする。

 だが、周りの大人たちは愉快そうに笑った。


「いいぞいいぞ! もっと言え!」

「シルバーを超えるなんて楽しみだ!」

「わ、笑うな! 俺は本気なんだ!」


 少年は馬鹿にされたと感じたのか、周りに向かって怒鳴る。

 だが、無駄だろう。

 誰も馬鹿にはしていない。


「どれだけ本気だろうが、低ランクの冒険者が言っても現実味はない」

「無理だって言うのか!?」

「俺が無理だと言ったら諦めるのか? その程度の覚悟ならやめておけ」

「う、うるせぇ! 諦めるもんか!」

「なら、しっかり実力をつけて上がってこい。周りにいる先輩たちを一人ずつ追い抜いてな」


 俺は少年の頭に手を置いて、ポンポンと叩く。

 そしてエマのほうへ向かい、何枚もの依頼書を受け取った。


「無茶しないようにちゃんと見ておいてくれ」

「任せてください! 冒険者の管理も受付嬢の仕事ですから!」

「頼んだ。依頼はすぐに終わらせる。どうせ王国の結果が出るまでは暇だからな」


 そう言うと俺は冒険者帝都支部を後にしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 超えられるものなら超えてくれ。いつまでも個人に頼っている状況なんて不自然極まりないんだから。って言うのが本音なのでしょうね 実際に今さっき、そんな状況でしたしね
[一言] 新人さんの今後は…。 才能を開花させる 焦って独断専行が目立ち、破滅する 現実を知り、若かった頃の発言が黒歴史となって悶える 口だけで終わる まあ、少年よ、大志を抱け と、いいま…
[気になる点] 物語がどんどん進むにつれ気になるというかあの人は今何してるんだろう・・・ ジーク忘れ去られてないか( 'ω')?今どこにいるんだろう
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