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第四百三十七話 停戦




 帝国西部国境。

 対王国軍の指揮を預かるレオは帝都からの伝令を迎え入れていた。


「停戦ですか?」

「はい。賢王会議での決定ですので、速やかに前線の部隊を撤退させてください」

「王国軍が応じない場合は?」

「冒険者ギルドが全力で攻撃するかと」


 伝令の言葉を聞き、レオは何度か頷く。

 そして一言告げた。


「了解した」


 そのままレオは伝令を下げる。

 そして。


「――君はどう思う? レティシア」

「王国がどう出るかということですか? レオ」


 隣の部屋で待機していたレティシアは、椅子に座るレオの傍へ近寄りながら訊ねる。

 それに対してレティシアは冷静に答えた。


「王太子殿下がどれほど強硬姿勢を見せていようと、賢王会議の決定に逆らうとは思えません。大陸全土を敵に回すことになりますから」

「普通ならそうだろうけど、王国の態度は普通じゃなかった。同盟国であった藩国、連合王国が戦線を離れたというのに講和にも応じない。さらには前線部隊を撃破したのに、それでも余裕と強気は変わらなかった。あの自信はどこから来るんだろうね」

「帝国相手なら何とかなると思っていたのかもしれません」

「さすがにSS級冒険者が介入してくる事態は予想外だと?」

「おそらくは」


 レティシアの意見を聞きながら、レオは腕を組んで考え込む。

 帝国相手なら何とかなると思うほどの切り札。それは一体何なのか。

 どうにも嫌な予感が拭えず、レオは不安を覚えてしまっていた。

 レティシアはそんなレオの肩に手を置いた。


「不安はわかります。ですが、今は指示に従うほかないと思いますよ」

「……それもそうだね。前線に出ていた部隊を下げよう。それが終わればまた帝都に呼び出されるだろうね」


 レオは肩に置かれたレティシアの手に自分の手を重ねる。

 北部への対応を任されていたレオは、ずっとレティシアとは離れ離れだった。

 ようやく西部戦線に配置され、レティシアの傍にいられるようになったのに、また状況が変わってしまった。


「仕方ありません……戦争中なのですから」

「すぐ終わらせるつもりだった……ごめんね」

「あなたが謝ることではありません。ちゃんと北部の内乱を治めて、ここまで来てくれたではないですか。私はそれだけで十分です」

「僕は十分じゃない」

「そう言われても……王国からの離反者はまだまだ増えています。彼らをまとめるために私はこの場に留まらないといけませんし……」

「互いに立場があるのが今は恨めしいよ」


 レオは深くため息を吐きながら、肩に置かれたレティシアの手を自分のほうへ引き寄せる。

 バランスを崩したレティシアは、小さく悲鳴をあげてレオのほうへ倒れ込む。

 そんなレティシアをレオが受け止め、レオの膝の上にレティシアが乗る体勢になった。


「ど、どうしたんですか……?」

「帝都に行くなら君も連れて帰りたい」

「無理を言わないでください……」

「悲しいよ、僕は……」


 レオはまた深いため息を吐きながら、レティシアを強く抱きしめる。

 そのまましばらく時間が流れる。

 そんなレオにレティシアは呆れたように呟く。


「あまり我儘をいうのは良いとは言えませんよ?」

「ささやかな願いじゃないか」

「では、私が寂しいと言えば残ってくださいますか?」

「寂しいの!? それならもちろん! ちゃんと父上に手紙でレティシアが寂しいと言うので残りますって書くよ」

「そんな恥ずかしいこと書かないでください! やっぱり駄目です! 帝都には行ってください!」

「そんなぁ……」

「安心と言っていいかわかりませんが……王太子殿下は諦めないはずです。きっとまた帝国と王国は戦うことになるでしょう。この停戦はきっと嵐の前の静けさです」

「……いつになったら終わるんだろうね」


 レオはポツリと呟く。

 戦いは激しくなる一方だった。

 帝位を巡る争いに飛び込んだ時、覚悟は決めていた。しかし、戦いは徐々に大きくなっていき、今や大国同士の戦争にまで発展している。

 いつ終わるのか。いつ終わらせられるのか。

 終わりが見えない戦いはレオを疲弊させていた。


「いつか終わります。戦争は人類とは切っても切れないものです。常に人類は戦ってきた。ですが、永遠に続いた戦争はありません。だからいつか終わります」

「いつか終わるか……できれば早いほうがいいなぁ」

「レオならできます」

「そう言ってくれるとできる気がするよ」


 言いながらレオは笑顔を浮かべる。

 そこで話は終わりとばかりに、レティシアがレオの上から降りようとするが、レオは手を離さない。


「どうして降りようとするの?」

「恥ずかしいからです! 離してください! 誰かに見られたらどうするんですか!?」

「見られてもいいじゃないか」

「あなたは恥ずかしくないんですか!?」

「別に平気かな。近衛騎士たちも気を遣って入ってこないよ。ねぇ? ランベルト隊長」


 北部で戦果をあげ、西部にもついてきた第六近衛騎士隊の隊長、ランベルトに対してレオは問いかける。

 すると扉の向こうから声が聞こえてきた。


『もちろんです。殿下のお楽しみは邪魔しません』


 かすかに笑いの混じった声だった。

 その声を聞き、レティシアの顔がカッと赤くなった。

 そんなレティシアの反応を楽しみながら、レオは指示を出したのだった。


「前線部隊に撤退命令を出しておいてくれ。僕は動けないんでね」

『かしこまりました』

「さぁ、これで時間ができた。もう少しこのままでいようか?」


 ニヤリと笑いながらレオはレティシアを抱きしめる手に力を込めるのだった。




■■■




「前線部隊を撤退させよ。帝国も撤退する」


 部下に短い指示を出したあと、ペルラン王国の王太子リュシアンは自室に籠った。

 賢王会議による王国の調査は予想外だった。

 計画を変更せざるをえない。


「SS級冒険者たちが乗り込んでくる。私の助けは期待するなよ?」

『もちろんでございます。ご安心ください、殿下』


 リュシアンは壁から返ってきた声に頷く。

 できることは限られている。

 その中で最善なのは動かないという一手だった。


「すべて任せる。まだSS級冒険者たちを相手にするのは早い。いいな?」

『承知いたしました』


 壁からの声は影から発せられたものだった。

 その影は最初は人型だったが、やがて鳥の影へと姿を変えて部屋を出ていく。

 それを見送り、リュシアンはふぅと息を吐く。

 そして。


「勝負はお預けだ。アードラー」


 帝国の方角を見ながら呟くのだった。




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― 新着の感想 ―
つまない来たよ、湯しゃと麻央とか。。。
レオの野郎イチャイチャしやがって許せない、泣
[一言] いいぞレオ 家族を失ってばかりの皇帝に孫を見せてやるのだ!
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