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第四百三十六話 自分の価値

昨日はすみませんでしたm(__)m

万全とはいかないまでも、かなり回復しました( *´艸`)

ありがとうございます!



「……ここは……?」


 ヘンリックが目を覚ましたのは小さな小屋の中だった。


「俺の修行場だ」

「シルバー……? なぜお前が……? そもそも僕はどうして……」

「死にかけのお前を仮死状態にして、毒を消し去った。その後は死んだことにしてここまで連れてきたという流れだ」

「そうか……僕は死に損なったのか……父上の指示なのか……?」

「いや、俺の意思だ。これ以上、家族が死ぬのは見たくなかったんでな」


 そう言って俺はヘンリックの目の前で銀の仮面を外した。

 仮面の奥の素顔に驚いたヘンリックだったが、やがて笑みを浮かべる。


「……そうか……素性を隠すわけだ……まさかお前だったとは……アルノルト……」

「兄上と呼んでもいいぞ?」

「人生で呼ぶのは一度だけだ……もう呼ばない……」

「そうかい。まぁ呼んでほしいわけでもないがな」


 言いながら俺は机の上にあった本を開く。

 すると。


「やれやれ、やっと出られたわい。窮屈じゃな、やっぱり」

「昔はそうやって移動してただろ? 我慢しろ、爺さん」

「な、なんだ……? 小人? いや妖精……?」

「こんな妖精がいてたまるか」

「失礼な奴じゃな。自己紹介をしよう、第九皇子ヘンリック。儂はグスタフ・レークス・アードラー。お前たちの曾祖父にあたる」

「狂帝……? どうして……?」


 次から次へと明かされる事実にヘンリックは頭が追い付かないらしい。

 そんなヘンリックに俺は簡潔に説明した。


「俺の魔法の師だ。かつて帝都を荒し、当時の勇爵に討たれたのは体を乗っ取った悪魔で、本人の精神は本に封じられていた。だからまだ生きている」

「……頭が痛くなってきた……狂帝は生きているし、シルバーの師だし、シルバーはアルノルトだし……」

「やれやれ……理解の遅い子じゃ。これは時間がかかるやもしれんのぉ」

「時間はない。短期間で頼む」


 ヘンリックを置いてけぼりで俺たちは話を進める。

 さすがに自分を置いて話をされては困るのか、ヘンリックが口をはさんでいた。


「ちょっ、ちょっと待て……何の話をしてる……?」

「お前を鍛えるって話だな」

「僕を鍛える……?」

「俺は帝都を離れる。もちろんすぐに帝都には来れるが、それには帝都の状況を把握していないといけない。正直、手が足りん。お前が俺の目となり、耳となれ」

「僕が……? 笑わせるなよ……僕なんかがシルバーの手助けをできるわけがないだろ……? 僕は皇族の落ちこぼれだ……僕こそ出涸らし皇子だ……皇族の良いところは皆、兄と姉に持っていかれた……」

「それでも皇族だ。やれることをやれ。それに姪を守りたいんだろ? 誰かに託して終わりなんて……身勝手は許さん。お前が守れ」


 俺の言葉にヘンリックはうつむいた。

 その姿に覇気はない。

 どこから来るのかわからない、無駄な自信だけが取り得だったのに、それすら今はない。まさしく出涸らしだ。


「……僕に何ができる……? 戦場でも政争でも……僕は使えない……そんなことはお前が一番わかっているはずだ……」

「だから鍛えると言っている。爺さんは指導者として一流だぞ。伊達に本ばかり読んでないからな」

「鍛えたところで僕なんかじゃたかが知れている……他をあたってくれ……僕じゃなくてもいいはずだ……」

「シルバーの秘密がそんなに安いと思っているのか? この秘密を知っているのは爺さんとセバス、あとはフィーネとSS級冒険者のジャックだけだ。そこにお前を加えたのは、他に選択肢がないからだ。お前を助けるにはこれしかなかった。だから対価として協力しろ。全力でな」

「誰も……助けてなんて言ってない! あそこが僕の命の使い道だった! 今更どう生きろって言うんだ!? 僕に価値なんてない!」

「価値は示すものだ。今、価値がないなら自分を磨いて示せばいい。戦場で戦える力を身につけろ。政争を乗り越える知恵を身につけろ。お前は確かに皇族として特筆した点はない。けど、その分、バランスがいい。何でもそこそこできるだろ?」

「それに何の意味がある!? 必ず何か劣るということだぞ!?」

「じゃあ、どこかで必ず上回れるようになれ。少なくとも、今のお前でも俺やレオを上回る点がある」

「僕が……上回る点……?」

「そうだ。敵の狙いは帝国と皇族。視線は生きている者に向く。だから死んだはずのお前は敵の視線から外れている。自由に動けるということだな。死んでいる者のほうが暗躍はしやすい。それがお前の上回る点であり、俺がお前を協力者とする理由だ。一度死んだんだ。過去の自分とは決別して、新たな自分になれ。俺はお前に期待しているぞ?」


 ヘンリックは出涸らしだ。

 死を覚悟して、最期の炎を燃やしたのだ。

 実は生きていましたと言われても困惑するし、もう一度、頑張れと言われても頑張れないだろう。だが、頑張ってもらわないと困る。

 手が足りないのは事実だし、皇族の協力者が一人いるだけで出来ることは広がる。


「……僕に期待して……失望してきた人間は数知れない……お前もそうなるかもしれないぞ……?」

「かもしれないな。だが、期待以上を見せられる最初の一人かもしれない。自分を過小評価するな。少なくともお前は二つの国の今後を左右し、家族を守った。これだけでも十分な働きだ。本当は静かに暮らさせてやりたいが、あいにく世の中が静かじゃないんでな。少しだけ力を貸してくれ、ヘンリック」

「……知らないぞ……? 僕の駄目さは僕が一番知っている……それでもいいなら協力しよう」

「さすが俺の弟だ」


 そう言って俺はヘンリックの頭を撫でた。

 やめろとばかりにヘンリックは俺の手を払うが、その姿は先ほどよりも覇気に満ちている。

 やる気になった影響だろうな。


「それで? 僕はどうすればいい?」

「爺さんの下で修行しろ。その後は爺さんの指示で動け。まぁ、まずは養生だな」

「養生なんてしてる暇ない……今から……!?」


 ベッドから降りようとしたヘンリックはバランスを崩す。

 それを支えながら、俺はヘンリックをベッドに戻した。


「無理するな」

「そうじゃ。本来なら死んでいるのを無理やり生かしておるのじゃからな」

「どういうことだ……?」

「凍毒は消えたが、蝕まれた体は戻らない。お前は今、人としてはありえない体温の低さなんだ。それを魔導具で補っている。内臓も相当ダメージを負っているから、しばらくは秘薬でそれを回復させる」

「完全に治ることはないがの。もはや魔導具と秘薬に頼らんとまともには動けない体じゃよ。お前は」

「……はっきり言う人だな……」

「回りくどいほうが良かったかの?」

「いや……はっきり言ってくれたほうがいい。駄目なら駄目と言ってください。僕はそう言われずに間違え続けた。いや、聞く耳を持たなかったからかな?」

「それなら儂の言うことは聞くことじゃな。まぁ儂秘蔵の魔導具はたっぷりあるからの。アルノルトはあんまり使わんから、埃を被ってたところじゃ。近衛騎士程度とは渡り合えるようにしてやるぞ」

「……ご指導お願いします。陛下……いえ、師匠」

「うむ!」


 久しぶりに敬われたのが嬉しいのか、爺さんが胸を張って威張り始めた。

 やれやれ。これが元皇帝なんだからわからないものだ。


「それじゃあ爺さん、頼んだぞ?」

「任せておけ!」

「藩国に行くのか?」

「行かざるをえないからな。だが、その前に冒険者ギルドの作戦次第だ。終わってくれればいいが……」

「終わらんよ。そんな簡単に捕まる組織ならとうの昔に壊滅しておるじゃろ」

「だよな」


 爺さんの言葉に頷きながら、俺は小屋の外へ出る。

 小屋の横には巨大な湖が広がっており、周りは森に囲まれている。

 さらにその周りを隠蔽結界が包んでおり、外部からの干渉を許さない。

 そんな場所を進んでいくと、大きな鏡がぽつんと立っていた。

 それは唯一の入口。

 この魔導具だけがこの空間へと連れてきてくれる。

 俺はその鏡をくぐると、城にある爺さんの部屋へとたどり着いた。


「お疲れ様でございます。首尾はどうでしたかな?」

「上々だ。爺さんに任せて平気だろ」

「悪魔が本格的に動き出したと聞き、グスタフ様が協力的になったのが幸いでしたな」

「あの人も悪魔には一杯食わされているからな。まぁいずれそこを含めてお礼するけどな」


 言いながら俺はセバスを引き連れて部屋を出たのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 助命展開はある程度読めてたけど(一定数あるパターン)、 弟弟子にする展開までは読めなかった!!
[良い点] 単なる感想 予想に反して主人公の鬼畜さが余計に際立った 覚悟を見た弟を一か八かで助けてボロボロの体を魔道具で活かしながら皇族を守る為に利用する 主人公がエグイ性格しているのがある程度、…
[一言] ヘンリック絶対どこかで美味しいシーン来るじゃないですか(ワクワク)
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