第四百三十一話 王たち
今日から出涸らし皇子のコミカライズ第二巻が発売です!(・ω・)ノ
めちゃくちゃかっこいい暗躍の時間が描かれているので、是非手に取ってみてください!(*'ω'*)
『儂の在位中に賢王会議が開かれるとはのぉ……』
そう言って真っ先に現れたのは白髪の老人だった。
長い髭も白く、その顔に刻まれた皺が老人の生きてきた時間を物語っている。
名はミハイル・アーラ・ソーカル。
齢八十を超える最高齢の王。
ソーカル皇国を統べる皇王だ。
「迅速なご対応、感謝いたします。皇王陛下」
『大陸の危機となれば当然じゃ。しかし、久しいな、皇帝』
『ワシがまだ皇太子だった頃以来か。いまだに王だとは長生きだな? 皇王』
皇国は常に帝国のライバルだった。
大陸中央部に君臨する帝国に対して、東の大半を支配する皇国。
両国は常にぶつかり合ってきた。
その王たちが顔を合わせるのは珍しい。大抵は代理同士が顔を合わせるからだ。
しかし賢王会議は違う。
『長生きはするものだ。帝位争いで随分と苦労しているようじゃな? 頭を下げれば助けてやらんこともないぞ?』
『大きなお世話というものだ。皇国こそ巨大モンスターに大層被害を受けたとか。頭を下げれば支援してやらんこともないぞ? 帝国は豊かだからな』
互いが視線を交差させる。
手を取り合うなど真っ平ごめんと言わんばかりの雰囲気だ。
そんな中、もう一人が姿を現した。
『皇帝陛下と皇王陛下がお揃いとは。若輩の身で遅れて申し訳ない』
そう言ったのは青年だった。
長いプラチナブロンドの髪に薄い紫色の瞳。
顔には薄い笑みが張り付いているが、その目の奥はどこか冷めている。
どこかミステリアスな美男子といったところか。
しかし、この場には場違いな人物であった。
「ここは賢王会議。国王陛下はどうされたのですか? 第一王子殿下」
『すでに王太子です。父は病のため寝込んでおります。そのため代理として出席しました』
『息子に権力を奪われ、幽閉されているの間違いではないか? リュシアン王太子』
父上がそう牽制をいれる。
この青年の名はリュシアン・ド・ペルラン。
現ペルラン国王の第一子にして、王太子。
反帝国派の実質的トップであり、王国の実権もほぼ手に入れている。
『はっはっは、ご冗談を。父と私の仲は良好ですよ。息子に反乱されるだなんて、そんなみっともないことは我が国ではありません』
笑顔でリュシアンは父上に反撃する。
みっともないと評された父上だが、怒りを表に出すことはしない。ただ目を細めるだけだった。
あれは本気でイラっと来たな。
『若いのぉ、王太子。実に盛んだ』
『失礼いたしました、皇王陛下。意欲に溢れておりまして』
『貴国と協力して帝国に進軍しなかったことを根に持っておるのか? 勇猛と無謀をはき違えるほど愚かではないのでな』
『我が国が無謀だと?』
『実際、そうなっておるじゃろ?』
『まぁ確かに。同盟相手に恵まれなかったので』
『単独で戦う気概もないから負けるのじゃ』
『なるほど。勉強になります。さすがは単独で姫将軍と戦っているだけはある』
暗にリーゼ姉上一人に足止めされているくせに、とリュシアンは挑発する。
だが、皇王は涼しい顔で受け流す。
『連合して国境も突破できん国よりはマシじゃろ。少なくとも藩国と連合王国は突破した。確かに同盟相手に恵まれなかったようじゃな』
『これは一本取られた。口では敵いませんね』
そう言ってリュシアンは父上のほうへ視線を向ける。
父上は何も言わず黙っていた。
そんな父上に対してリュシアンは言葉をかけようとする。
だが。
『あまり――アードラーを舐めるなよ?』
リュシアンの口から言葉は出てこなかった。
父上がリュシアンを本気で睨みつけたからだ。
あれは間違いなく、傍にいたら剣を抜いている顔だ。
絶対に殺してやると誓っている。
さすがのリュシアンもそんな父上を挑発する気にはなれなかったようで、静かに頭を下げた。
『ご無礼を』
『失礼、ギルド長。少々、熱くなった』
「戦争中の王が顔を合わせれば当然かと」
クライドはそう無難に答えた。
ここにいるのは大陸三強の国家元首たちだ。
顔を合わせて舌戦で済むなら大人しいほうだろう。
そんなことをしているうちに続々と各国の王が姿を見せた。
アルバトロの公王やロンディネの公王もいる。
そして。
『むむっ!? 突然、一杯顔が出てきたぞ?』
「……仙姫殿。王はどうされましたか?」
『妾に任せるそうだぞ! 当然だな! 大陸の危機となれば出向くのは妾だ!』
そう言って姿を現したのはミヅホ仙国の仙姫、オリヒメだった。
リュシアンの時とは違い、誰も文句は言わない。
ミヅホという国は仙姫によって保たれている国だ。王よりも仙姫のほうが代表にふさわしいとすら言える。
適性があるかは別問題だが。
『しかし、王たちの会議ゆえむさ苦しいものだな! しかも皇国の老人までいるではないか!』
『いるに決まっておるじゃろ』
『まだ生きておったか。まぁ、もうヨレヨレのようだが。存命中に我が国の結界を攻略することはできなかったな。よく頑張った、安らかに眠れ』
『勝手に殺すでないわ』
やりたい放題だな。
相手が王でも態度が変わらないのは、美点と見るべきか、欠点と見るべきか。
何人かの王は眉をひそめているが、父上は軽く笑みを浮かべている。
『久しいな、仙姫殿』
『おお! 久しいな! アルノルトは元気か?』
『元気だ。最近、結婚の話が出て慌ただしかったが』
『なにぃ? アルノルトが結婚だと? 遠慮するな。妾が貰ってやるぞ? たんまりと金貨を持たせて送り出すがよい』
『嬉しいお話だが、本人に結婚の意思はないようだ』
『アルノルトらしいな! そうは思わないか? シルバー』
オリヒメはニコニコと笑いながら俺に話しかけてくる。
それに対して俺はため息を吐いた。
「どうだろうな。そこまで深い付き合いではないのでな」
『つまらん答えだな』
「面白くする必要がないからな。そろそろ準備はいいか?」
「まだ連合王国の代理が来ていない」
『王はどうしたのじゃ?』
「不在だそうです。あの国はまだ安定していないので、代理でも構わないと伝えてあります」
クライドは皇王からの質問にそう返す。
咄嗟の嘘としては上出来だろう。
城から離れていると言われれば、そうかと言わざるをえない。
普通の国ならまだしも、あの国は飛竜の国。
移動できる距離は馬とは比べ物にならない。
しばらくした後、連合王国用の水晶から一人の男が姿を現した。
『私のような者が王の代理で申し訳ありません。連合王国黒竜騎士隊隊長のロジャーと申します』
『最強の竜騎士か。不足はあるまいて』
『お褒めにあずかり光栄です、皇王陛下。しかし、すでに最強の座は帝国の空にて失いました』
そう言ってロジャーは笑う。
その笑顔はどこか清々しかった。
それだけフィンを認めているということだろう。
「これで参加者は出揃いました。これより賢王会議を開始します」
クライドの宣言を受けて、会議は始まったのだった。




