第四百二十九話 証拠の意味
魔奥公団の拠点に戻った俺は、ハーゲンティがいた実験室を漁っていた。
真っ先に目についたのは瓶に保管されている血液だ。
「ここが出どころか」
瓶には吸血鬼と書かれていた。
その横にはいくつか色の違う液体もある。
おそらくクリューガーが反乱時に使った、人を化け物に変える薬だろう。
さらに綺麗に整頓されている机には、いくつもの計画書があった。
その中には虹彩異色の子供を使った実験の計画書もあり、そこにはザンドラ姉上やゴードン兄上の名も書かれている。
ザンドラ姉上には実験用の子供を提供し、ゴードン兄上には兵器運用の子供を提供していた。
クリューガーと手を組んでいた人攫い組織。そこがどこに繋がるのか。それも判明したな。
つまり。
「東部から始まり……ほとんどの事件に絡んでいたか」
東部で吸血鬼たちが死の寸前まで口を割らなかったのは、悪魔が後ろにいたからか。あのレベルの悪魔なら吸血鬼たちを力で支配することはできる。
モンスターを操る魔笛ハーメルンも、魔奥公団なら手に入れられるだろう。
その吸血鬼の血をクリューガーに流したか。
そのほか、各地の子供たちを実験に使いながらザンドラ姉上とゴードン兄上の暴走にも拍車をかけ続けた。
「すべてこいつらか……」
呟きながら俺はあるだけの資料を転移門へ投げ入れる。
資料は爺さんの部屋に転移されるから、セバスが整理するだろう。
そんなことを思っていると、見慣れた言葉が書かれた計画書が目についた。
「殿下……?」
一枚の計画書。
そこには殿下と大公は協力関係であり、概ね予定通りに事が進んでいると書かれていた。
だが、途中で終わっている。
続きの紙があるはずだが、見当たらない。
「さすがにまずいモノは消していたか……」
俺が下に降りてくるまでに時間はそんなにない。
しかもハーゲンティは余裕をかましていた。
それでもこれだけはまずいと思って処理したのだろう。
隠したい何かがあるということだ。
「大公は魔奥公団のリーダー。殿下はどこかの国の王族だろうが……」
これだけ帝国相手に何かしている以上、帝国の皇族が関わっていると考えたほうがすっきりする。
そして自分は決して動かない帝位候補者がいる。
エリクだ。
だが。
「……安直だな」
どうしても違和感がぬぐえない。
そんな簡単な答えではないような気がする。
だから俺はひとまず、これについて考えるのをやめた。
本来の目的があるからだ。
「とりあえず他の拠点を潰すか」
そう言って俺は資料を回収し終えた拠点を後にして、別の拠点に転移したのだった。
■■■
その後、拠点潰しは順調だった。
調べ上げた拠点はすべて破壊し、分かっている限り、帝国の拠点はすべて破壊した。逃した者もいない。
だが、悪魔はハーゲンティしか現れなかった。
「主力はやはり王国のようだぞ」
城にある爺さんの部屋に飛んだ俺は、資料を整理しているセバスと爺さんにそう告げた。
「その割にはなかなかの収穫だったようじゃな?」
爺さんは言いながら計画書から目を離さない。
確かにこれは明確な証拠だ。
帝国は魔奥公団からの攻撃を受けていた。
だが、それはある程度予想できていたことだ。
「収穫はあったが、決定的じゃない。もう……起きてしまったことばかりだ」
これからについての収穫はない。
過去は変えられない。
魔奥公団への怒りが増しただけだ。
「しかし、すべてが無駄というわけではありません」
「その通りじゃ。証拠は人を動かせるでな」
「……そうだな」
明確な証拠があれば人を説得できる。
説得できれば協力を得られる。
相手は組織だ。
しかも並みの組織ではない。
大国に攻撃を仕掛けられるレベルの組織に対して、一人で戦うのは非合理的だ。
こちらも組織として戦うべきだろう。
「爺さん、悪いんだが」
「少しの間だけアルノルト・レークス・アードラーのフリをしてやろう。安心していってくるがよい」
「ありがとう。セバス、資料は?」
「まとめました」
俺はセバスから資料を受け取ると深く息を吐く。
失ったものは戻らない。だが、これより先の犠牲を減らすことはできる。
「後は頼んだ。俺はギルド本部に飛ぶ」
「各地の冒険者を動員できるとよいな」
「いや……動員するのは高ランク冒険者だけだ。下手な冒険者じゃ被害が増えるだけだからな。今のギルド本部なら緊急性も理解してくれるだろう」
前のギルド本部なら重い腰を上げなかったかもしれないが、今のギルド長はクライドだ。
悪魔が人に紛れ、しかも犯罪組織の中にいる。
それがどれほど異常事態で危険かはわかるはずだ。
「それじゃあ行ってくる」
そう言って俺はそのままギルド本部へと転移したのだった。
連続での転移の後。
ギルド本部のギルド長室に俺は転移した。
「用件がある」
「ごほっ! 用があるならノックをして入ってこい!」
飲み物を飲んでいたクライドが、いきなり転移してきた俺を見てせき込む。
そんなクライドの抗議を無視して、俺は机の上に資料を広げる。
「帝国内にあった魔奥公団の拠点を潰した。その成果だ」
「おいおい……これは」
「それと……奴らは人間を依り代にした悪魔召喚を確立させている。実際に戦ったが、確実に対処可能なのはSS級だけだろうな」
「……悪魔がまた大陸に現れたか……」
クライドは俺の言葉を聞いて、深刻な表情を浮かべた。
冒険者ギルドが中立な立場で大陸全土を守るようになったのは、魔王の襲来以後のことだ。
帝国の皇族が用意してきたように、冒険者ギルドも備えてきた。
来るべき時に。
「ついてこい」
「どう動くつもりだ?」
「それを協議する。大陸全土の指導者たちとな」
そう言った後、クライドは扉の外で控えていた部下に伝えた。
「冒険者ギルドのギルド長権限で各国の王たちを招集する。賢王会議を開催する。大陸の危機だと各国王に伝えろ!」
冒険者ギルドはギルドのみの秘匿技術をいくつも抱えている。
遠距離の通信もその一つ。
戦争を激化させそうなその技術をギルドは決して外には漏らさない。
だが、有用ではあるため利用はしている。
大陸を守るためには必要な技術だからだ。
そんな技術を使って国王たちと会議をする権限がギルド長にはある。
そこで上がる議題はただ一つ。大陸の危機についてのみだ。




