第四百二十二話 フィーネのするべきこと
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時間は少しさかのぼる。
アルが帝都に帰還し、アンナから縁談の話を貰った頃。
フィーネはミツバの下にいた。
「やはり陛下はアルを藩王にしたいようね」
「どうすればよいでしょうか……?」
「帝位候補者のナンバー2にしては、アルは手柄を立てすぎたわ。余計な政争に巻き込まれる危険性がある以上、何か手を打たないと。そのための藩国行き。それが嫌なら皇族から離れるしかないわね」
「はい……勇爵家同様、私の実家も動いているようです」
「クライネルト公爵家としても、アルとレオが争う事態は望ましくないものね。そんなことをさせるために肩入れしたわけじゃないでしょうし」
最初期から肩入れし、投資してきた。
それは確かな見返りが期待できたからだ。
実際、レオはエリクと並ぶまでになった。レオが皇帝となれば尊重されるのは確実。
だが、アルとレオが争えばその未来が遠ざかる。それならアルを婿として迎えたほうがいい。繋がりも強化できる。
「ですが……アル様は困っています」
「あまり選択肢がないものね。結婚はしたくないけど、帝都も離れたくない。そのわがままが通る選択は果たしてあるかしら?」
「わかりません。ただ、最も頼れるのはミツバ様だと思い、伺いました」
「健気ね。まぁ、母として息子が政略結婚させられるのは少々、癪だけれど……自分が蒔いた種でもあるわ。北部貴族のために自分の身柄を賭けたのだもの。陛下が遠慮なく動いたのはそういう背景があるわ」
「ですが、あの時はあれしか方法がありませんでした。どうか知恵を貸してください!」
そう言ってフィーネは頭を下げた。
そんなフィーネを見て、ミツバはため息を吐いた。
こうも素直に頼られると断りづらい。
ましてや相手はフィーネだ。息子のために頭を下げる相手に対して、自分で考えろと突き放すのは気が引けた。
「私はアルの選択には関与しないわ。だからあなたも関与しないと誓える?」
「どういう意味ですか?」
「あの子がどういう決断をするか、私には予想がつくわ。だけど、それはあくまであの子が下すべき決断なの。だから、あの子が決断するまであの子の傍にいないでほしいの。それが条件よ」
「……わかりました。それでお力添えいただけるなら」
「力添えってほどじゃないわ。あの子はきっと結婚を選ばない。他者に乗せられるのも嫌いだし……自分が結婚に向いていないとも思っているわ。自己評価が低いから」
「そうでしょうか……?」
「表には出さないでしょうね。一歩引いた位置を好むのも、責任を嫌うのも、万が一失敗したときに自分が耐えられないから。まぁ、頭の良い子だから失敗しないようにするのだけど、結婚ばかりは思ったとおりにはいかないわ。だからあの子は結婚を選ばない」
「……そういう観点からアル様を見たことはありませんでした」
「あくまで私の分析よ。あっているかどうかはわからないわ。とはいえ、その分析があっているとすると、アルにとって問題なのは藩国を誰に譲るか、よ」
「皇族が藩国に入るのは既定路線です。ならば、トラウゴット皇子かコンラート皇子でしょうか? ルーペルト皇子は幼すぎますし」
「陛下は母親を殺したコンラートを信用していないわ。代役が務まるとしたらトラウゴットだけでしょうね」
ならばトラウゴットの説得が自分の仕事だろうか。
そう思ってフィーネは椅子から立ち上がる。
「トラウゴット皇子を説得してきます!」
「必要ないわ。トラウゴットはレオとアルを応援すると決めているわ。この状況を見過ごすほどお馬鹿さんでもない。自分から動いてくれるわ」
「トラウゴット皇子が自分から結婚に名乗りをあげるということですか……?」
フィーネには想像できない展開だった。
正直、皇族の中で最も結婚と縁遠いのがトラウゴットだった。
あまりにも本人にその気がなさそうだからだ。
しかし、ミツバの読みは信頼できる。
なにせアルの母親だ。
「では私は何をすればいいのでしょうか……?」
「何をすればいいと思う?」
「あう……聞いてばかりで申し訳ありません……トラウゴット皇子の説得が必要ないとなると……陛下の説得でしょうか?」
「トラウゴットが藩国に行くメリットがわからないほど、陛下は愚かじゃないわ。隣には宰相もいる。陛下は大丈夫よ」
「では……皇后陛下でしょうか?」
「そうね。皇后はトラウゴットが藩国に行くことを絶対に認めないわ。当たり前ね。亡き皇太子が死んだのは藩国のせいだもの。残る息子が藩国に行くのを承知しろというのは、母親としてあまりに酷だわ。しかもほかに皇子がいる状況。自分へのあてつけと捉えてもおかしくないわね」
「ですが、私は皇后陛下と接点がありません……」
「だから皇后を説得できそうな人を説得するのよ。あなたとは奇妙な縁がある人よ」
「奇妙な縁……?」
フィーネはミツバの言葉に考え込む。
皇后に意見できる人間は少ない。
ましてや皇太子の死後、皇后は後宮からほとんど出ることはなくなった。
その人物は後宮周りの人間となるだろう。
そして自分と奇妙な縁がある人物。
少しして、フィーネはハッと顔をあげる。
「もしや……皇太子妃……テレーゼ様ですか……?」
「正解よ。わかったなら行ってきなさい」
「で、ですが……テレーゼ様の弟君は私のせいで……」
「普通なら会わないでしょうね。彼女の性格的にも」
フィーネのせいで死んだわけではない。
しかし、発端はフィーネだった。恨みはないにしろ、積極的に会いたい相手ではないだろう。
「……私、頑張ります! 必ずテレーゼ様に会ってみせます!」
「会うのが仕事じゃなくて、説得が仕事よ。会うことは簡単よ。仲介役がいるから」
そう言ってミツバは部屋の入口を見た。
そこには一人の近衛騎士が立っていた。
「アリーダ団長……」
そこにいたのは近衛騎士団の団長にして皇太子妃テレーゼの妹。
アリーダだった。
「頼めるかしら?」
「その程度のことでしたら」
「ありがたいわ。けれど、どういう風の吹き回しかしら? 何か手伝えることはないか? なんて」
「私は帝国の利益のために動いているだけです。アルノルト殿下が帝都を離れるのは危険だと私は考えています」
「評価しているのね」
「帝都の反乱時、アルノルト殿下の機転には助けられましたので」
「だけど、あなたの弟が死んだのはアルノルトのせいよ?」
その問いかけにアリーダは静かに目を瞑った。
そして。
「たしかにアルノルト殿下が最初からやる気を出していれば、私の弟も相応の態度で接したでしょう。しかし、そんな成果や結果でしか他者を評価できない弟を放置したのは、私たちです。弟の死は家族の責任です。きっと姉もそう感じていると思います」
「そう……じゃあフィーネさんをよろしくね」
「はい。では、ご案内します」
「は、はい! ミツバ様! ありがとうございました! 必ず役目を果たします!」
そう力強く宣言し、フィーネはアリーダと共に部屋を去る。
そんな二人を見送ったあと、ミツバは激しくせき込み始めた。
「ごほごほ、ごほっ……まさか自分の体の弱さが恨めしくなる日が来るとは思わなかったわ……」
言いながらミツバは水を勢いよく飲み干し、椅子に体重を預ける。
そして自分に喝をいれて、体に力を入れる。
まだ倒れるわけにはいかなかったからだ。
2020年の投稿はこれで最後ですね(/・ω・)/
次の投稿は来年です(*`艸´)ウシシシ
皆さんは2020年はどんな年だったでしょうか?
大変な一年でしたが、書籍やコミカライズが順調で僕は飛躍の一年だったかなと思います(*'ω'*)
これも応援してくれる皆さんのおかげです。感謝を忘れずに来年も精進できればなと思います( ;∀;)
今年は少々、WEB版の更新が疎かだったかなと感じているので、来年はもう少し更新するのが目標ですね( `ー´)ノ
できれば一年で百万字くらいはWEBで書きたい('◇')ゞ
それでは皆さん、良いお年を('ω')ノ




