第四百十七話 残った意味
年末の関係で、明日から出涸らし皇子の五巻が発売するところもあります!
今回は紙の特典に漫画がつく豪華回!
是非手に取ってください(・ω・)ノ
エルナと話した後。
俺は夜にもかかわらず、後宮に向かっていた。
目的は母上と話すことだ。
母上もそう思っていたのか、衛兵に止められることもなく俺は母上の部屋にやってこれた。
ただ、その部屋には意外な人物がいた。
「失礼します。母上、それと……トラウ兄さん」
「いらっしゃい。アル」
「お邪魔しているでありますよ」
どうしてトラウ兄さんが母上の部屋にいるのか?
謎はあったが、トラウ兄さんにも聞いてほしい話だったからちょうどいい。
「その顔だと答えが出たみたいね?」
「相談だと思わないんですか?」
「あなたは私に相談したりしないわ。そういう風に育てたもの。あなたはあなたの責任で答えを出すの。他でもない。あなたのことだから。さぁ、聞かせてちょうだい」
敵わないな。
この人には。
そう思いながら俺は一言告げた。
「俺は誰とも結婚しません」
「帝都に留まれば、あなたは厄介な問題に巻き込まれるわ。それはわかっているのよね?」
「レオと対立する気もありません」
「帝位候補者の二人を除けば、直近のあなたの手柄は群を抜くわ。あなたが望もうが望むまいが、あなたを担ぎ出して権力を握ろうとする者が出てくるわよ?」
「覚悟の上です。俺は今を気に入っている。レオをサポートして、俺はレオを皇帝にします。そのスタンスを変えるつもりはありません。俺を担ぎ出そうとする者がいるなら……排除します」
「随分な覚悟ね」
それは敵を作るということだ。
帝位争いはより激しくなるだろう。
だが、誰かと政略結婚するのは逃げだ。未来は今の積み重ねだ。今、逃げれば未来にも影響を及ぼす。
だから俺は逃げない。
「さすがミツバ殿ですな」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味でありますよ。ミツバ殿はアルノルトは結婚を選ばないと……そう読んでいた」
「息子のことくらいわかるわ。母だもの」
「読み通りですか……じゃあこれから言うこともわかりますね?」
「陛下を説得してほしいというんでしょう? 構わないわ。けれど、その前にトラウゴットの話を聞いてもいいんじゃないかしら?」
「自分も用もなしにここには来ないでありますよ。アルノルトに話があってきたであります」
「話?」
トラウ兄さんはめったに動かない。
それは性質的に俺に似ているというのもあるが、自分が影響力ある皇子だと理解しているからだ。
帝位を狙ってはいないが、影響力は人一倍ある。
皇后の息子で、亡き皇太子の実弟。加えて本気になれば能力もある。
だから動かない。
動けば一気に状況が変化するからだ。
「アルノルト。自分も結婚には反対であります。感情的な部分を除いても、この状況での政略結婚はアルノルト、レオナルト双方にマイナスでしかないであります。一人を選ぶということは、誰かを切り捨てるということ。帝位を目指す以上、協力者は多いほうがいい」
「まったくその通りです。現状維持が一番メリットがあります」
「しかし、アルノルトの評価が上がった今、レオナルト勢力のナンバー2では収まらなくなってきた。このまま帝都にいれば、よからぬ考えを持つ者が動き出すのは必然。自分なら間違いなく、分断を図るであります」
「俺でもそうします。レオは西部から離れられませんしね」
「我らが父上がアルノルトを藩国に向かわせたいのも、それが理由であります。今の帝国に新たな火種を抱える余裕はない。だから……アルノルトには帝都を出てもらいたいであります」
「出るのは簡単です。しかし、どこにいても火種になります」
「ならば、帝都で迎え撃つ。その考えはわかるでありますが、もう少し視野を広げてほしいであります」
「というと?」
考えた結果だ。
今の俺には大して選択肢はない。大人しく結婚するかしないか。しないなら帝都に留まる以外に手はない。
リーゼ姉上のように役職をもって国境辺りに行くのも考えたが、父上が認めないだろう。
なるべく国境守備軍は中立がベストだ。
万が一、父上が認めても他の重臣が認めない。ゴードン兄上が反乱を起こしたばかりだ。
帝位候補者の双子の兄で、常に協力しあっていた俺に巨大な守備軍を与えるのは危険だ。すでにレオが西部戦線の軍を預かっている。その気になれば武力行使で帝国を制圧できてしまう。エリクも全力で阻止するだろう。
だが、トラウ兄さんには違うものが見えているらしい。
「自分はレオナルトに次代の皇帝になってほしいであります。そのためにできることはしてあげたい。亡き兄のようにいつでも手助けはできないでありますが、一度くらいは助けられるでありますよ。自分が――藩国の王になるであります」
「トラウ兄さんが!? それはつまり……マリアンヌ王女と結婚するということですよ?」
「もちろん承知の上であります」
「そうですか……その……いいんですか……?」
「これは政略結婚であります。個人の考えは関係ないであります。正直……この城を離れるのも、怠惰な日々も惜しいでありますが……誰かが受けるべき役目であります。そして兄らしいことをするなら、今しかないでありますよ」
そう言ってトラウ兄さんは笑う。
まさかトラウ兄さんが結婚の話に手を挙げるなんて。
絶対にないと思っていた。だから、考えもしなかった。
しかし。
「とても……ありがたいんですが……根本的な解決にはなりません」
トラウ兄さんが藩国に行ってくれれば、藩国行きの話は断れる。だが、それでも根本的な解決にはならない。
それにトラウ兄さんも頷く。
「その通りであります。だから……アルノルトも来るであります。藩国に」
「どういう意味です?」
「藩国はつい最近まで敵国だった国。同盟国にするには、皇族が王になるだけでは困難であります。しかも一人では排除される可能性もある。ならば数を増やすのが定石。王には自分がなるであります。アルノルトには宰相をお願いしたいであります。一時的に」
「藩国の宰相を……俺に?」
「それで丸く収まるであります。勢いのある今は、アルノルトを担ぎ出そうと考える者も多い。しかし、時を置けばそうではなくなる。頃合いを見て、帝都に戻ってエリクと決着をつけるであります。その時は藩王として全面的にレオナルトを支持することを約束するであります」
「トラウ兄さん……」
「皇太子もゴードン、ザンドラ女史も逝ってしまった……エリクは変わり、リーゼロッテ女史は国境、年長の皇族はどんどん帝都からいなくなるであります。自分がまだ残っているのはこういう時のためだと……そう思ったであります」
かつて、皇太子が存命だった頃。
帝国の最盛期。
有能な皇族が皇太子を支えていた。
滅多に動かないトラウ兄さんだったが、ときたま動くことがあった。影ながら兄と周りにいる兄妹たちを助けていたのだ。
だが、その時代の皇族はもうどんどんいなくなっている。
トラウ兄さんの目はどこか寂し気だ。
「ただ……これには大問題があるであります」
「なんです?」
「マリアンヌ王女に拒絶されたら終わりであります」
それを聞いて俺と母上の表情が固まった。
勝算が高いとはいえない戦いだったからだ。




