第四百十三話 帝都の歓迎
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では、またお付き合いください(・ω・)ノ
「もうすぐ帝都に到着致します」
護衛につく近衛騎士の言葉に俺は頷いた。
そして馬車の隣に座る藩国の王女、マリアンヌへと目を向けた。
「マリアンヌ王女。もうすぐ帝都だそうです。言わなくても分かっていると思っていますが」
「大丈夫です……覚悟はできています」
マリアンヌはそう気丈に告げた。
しかし、その顔は蒼白だ。
藩国の王女が帝都に入るということの意味をよく理解しているんだろう。
帝国は藩国に恨みがある。太陽のようだった皇太子を殺されたという恨みだ。
皇太子さえ健在だったなら帝国の未来は安泰だった。今のような帝位争いは起こらないし、他国に攻められるような事態にもならなかっただろう。
すべて藩国のせい。
辛い状況にある人間ほど、そう思っているだろう。
怨嗟の矛先はきっとマリアンヌへ向く。
帝都に行くということはそういうことだ。
「……辛いようなら裏門から入るという方法もあるが?」
「私は国を売った藩国の王女です……すべてを受け止める責任があります」
立派な覚悟だ。
同じ立場で同じことができるだろうか。
賞賛に値する。なにせマリアンヌには責任がない。王女というだけだ。
三年前の時点でマリアンヌは連合王国の人質になっていた。止めようにも止められない。それなのに王女というだけで、すべての責任を背負おうとしている。
あまり酷なことはしたくない。
だが、本人が覚悟しているのに俺が余計な気を回すのも違うだろう。
いずれにせよ、マリアンヌは怨嗟に晒される。ここで逃げても必ず怨嗟の鎖はマリアンヌを縛り付けるだろう。
「一々気にするだけ無駄とだけ言っておこう。気休めだけどな」
「ありがとうございます。アルノルト皇子」
そう言ってマリアンヌは頭を下げる。
その手が少し震えているのは気づいた。
だが、俺には何もできない。
一緒に居てやることくらいだろう。
そんなことを思っていると、馬車が止まった。
「どうした?」
「アル……それが……」
一団の先頭にいたはずのエルナが慌てた様子でやってきた。
俺は馬車を下りて、様子を見に行く。
もう帝都の正門は目の前だ。
「藩国の王女を許すな!」
「今すぐ公開処刑しろ!」
「亡き皇太子殿下の恨みを忘れるな!」
見ると正門の前には多くの民が立ちふさがっていた。
その数は百や二百じゃ済まない。
帝都の守備隊が何とか解散させようとしているようだが、抗議している民は解散する素振りを見せない。
「藩国の王女を帝都に入れるな! 今すぐ処刑しろ!」
「そうだ! 恨みを忘れるな!」
「……恨みは根深いか……」
俺はそう呟き、どうするべきか考える。
強制的に解散させるのは難しくない。近衛騎士を投入すればいいだけだ。
しかし、それでは解決にはならない。
あまりにも民がマリアンヌの処刑を望めば、父上も無視できなくなる。
今の父上にマリアンヌを処刑する意図はないだろうが、それが覆りかねない。
せめて沈静化させなければマリアンヌの命に関わる。
「どうする? 裏門に回る?」
「目の前で逃げれば怒りが増すだけだ。いや……何をしても怒りが増す」
もはやどんな行動でも許さないだろう。
どれほど謝ろうが許さない。自分の気が済むまでマリアンヌで憂さ晴らしをする気のはずだ。
皇太子の死など口実だ。攻撃する大義名分があるから攻撃している。
性質が悪い。
「しかたない。俺が話し合ってくる」
「話が通じると思ってるの!?」
「思ってないが、こうしていても始まらない」
「皇帝陛下の命で私たちは動いているわ! 強制的に排除しましょう!」
「それじゃ何の解決にもならない」
「解決なんてできないわ! 三年前の恨みは消えない!」
「消えなくても何とかしなくちゃいけないんだ。俺は皇太子の弟だ」
そう言って俺はエルナの制止を振り切り、正門に集まっている民の下へ向かおうとする。
そんな中、突然帝都中に声が響いた。
『自分は帝国第四皇子、トラウゴット・レークス・アードラーであります』
魔法による拡声だ。
おそらく城からの声だろう。
珍しいことだ。滅多なことではトラウ兄さんは表に出てこない。
だから俺は足を止めた。
「アル……?」
「トラウ兄さんに任せよう」
「大丈夫?」
「あの人が本気なら問題ない」
そう言って俺は馬車へと戻った。
その間にもトラウ兄さんの声は続く。
『現在、帝都の傍には藩国のマリアンヌ王女が来ているであります。多くの帝都の民はこの一件について納得していないことは承知しているであります』
トラウ兄さんは皇族内でも特別だ。
亡き皇太子の実の弟。
皇后の唯一の子供だ。
皇太子が関わる問題において、トラウ兄さんほど説得力のある人間はいない。
『そのうえで――自分のスタンスを明かしておこうと思うであります。藩国が我が兄、亡き皇太子ヴィルヘルムを殺したことは事実。これは変えられない。それから帝国は暗雲に包まれたであります。辛いこともたくさんあった。我が兄がいれば、そんなことはなかったかもしれない。幾度、亡き我が兄を求めたことか……』
きっとこの言葉に偽りはない。
真摯な言葉だから民も耳を傾ける。
『それでも帝国は立ち直った。問題は数知れず起きたが、すべて解決してきた。帝国はいつだってそうあってきたであります。困難に打ちひしがれても、必ず立ち上がって困難を乗り越えてきた。そういう国であります。だからこそ……怨嗟も乗り越えられるであります。自分は皇太子の実の弟としてここに宣言するであります。これ以後、我が兄を理由として藩国を責めるようなことはしないと。弟である自分はよく兄のことを理解しているであります。自分の死が原因で、二つの国がいがみ合うことを良しとはしない。そういう人物だった。だからこそ、自分はこの問題を清算するであります』
この問題は帝国の問題であるが、本質的には皇族の問題だ。
もっとも中核に位置する人間が清算を口にした。
それは大きな出来事だ。
誰も触れようとしなかった問題だからだ。
『悲しみはある。悔しさはある。それでも前を向くであります。太陽はいずれ昇る。兄が死したとしても、新たな太陽が帝国を照らすであります。いつまでも下を向くのはやめるであります! もはや兄は過去の人間! これよりは先を見るであります! 帝国の民よ! 亡き兄が愛した皆ならわかるはず! 民のために国を捨てた王女にふさわしいのが称賛か、非難か! 誇り高い帝国の民は……自らを貶めるようなことはしないと自分は信じているであります』
トラウ兄さんは演説が上手だ。
思ったことを口にするから、すっと胸に入ってくる。
『それでも非難したい者はするであります。個人の恨みについてとやかく言う気はないであります。止めはしない。だが、我が兄の死を理由とするのは許さないであります。これより、それを理由とする者は亡き兄を侮辱したと見なすであります。それをする者は、たとえ皇帝であろうとこのトラウゴットが許さない。だから……笑顔で出迎えるであります。優しい隣国の王女を』
そう言ってトラウ兄さんの声は消えた。
声を荒げていた正門の前の民たちも、勢いをなくしている。
大義名分がなくなった。他に理由はないのだ。
藩国に子供を殺された親はいるだろう。友人を殺された者もいるだろう。
だが、残念なことに帝国の軍人はそれ以上に殺している。
戦争だった。それで片付いてしまうのが悲しいところだ。
そしてそういう人たちの恨みや怒りは戦争を起こした者に向かう。マリアンヌはその対象外だ。
そうなると声高らかにマリアンヌを非難する者は少ない。
「いつもああだと助かるんだがな」
「誰のことでしょうか……?」
馬車に乗り込み、俺はそう呟く。
横にいたマリアンヌが顔を伏せたまま聞いてくる。
「俺の自慢の兄のことさ」
そう答えると馬車は前進し始める。
正門の前に立ちはだかっていた一団は自然と解散し始めていた。
そして正門が開かれて、馬車が帝都の中に入った。
その瞬間、歓声が上がった。
見ればズラリと民が列をなしている。
無数の花びらが撒かれて、歓迎ムード一色だ。
「どうかな? 帝国は」
「素晴らしい……国だと思います……」
横でマリアンヌは顔を覆って涙を流す。
そちらから視線を逸らし、俺はこちらに向かって手を振る民たちを見ることにした。
気分は悪くない。




