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第四百三話 ラファエルVSエルナ



 国境に向かったエルナはすぐさま調査に移った。

 アルが何かあると判断し、自分を送り込んだ以上、目立つ何かがあるはずだと思ったのだ。

 しかし、空から見る限り国境付近に異変はなかった。

 だが。


「血と焦げた匂いね」


 エルナは何の変哲もない森の中に降り立った。

 そこは護衛部隊が拠点としていた場所だった。

 大きな爆発があっただろう跡と、無数の死体。


「ほとんど抵抗していないわね」


 死体を見れば、どれもやられ方が一緒だった。

 部隊同士で戦ったのではなく、手練れの奇襲によって全滅させられたのだ。

 しかし、百人規模の部隊をあっさり全滅させられる者など限られている。

 そしてエルナは犯行の手口的に一人、思い当たる者がいた。


「どうせ見ているんでしょ? 出てきなさい、ラファエル」

「――怖いなぁ。まさかバレてるなんて」


 森の中で気配を消していたラファエルがスッと姿を現した。

 護衛部隊の様子を見に来た者を殺そうとラファエルはこの場を監視していた。

 藩国の王女を捕らえるのは藩国軍に任せるつもりだったが、そのお膳立ては整える必要があったからだ。

 しかし、予想以上の相手が出てきた。


「さすがは出涸らし皇子。最強のカードを惜しみなく切るなんて、普通ならできない判断だ」

「最近、その言葉を聞かずに済んでたのに……あなたを殺したい理由がまた一つ増えたわ」


 そう言ってエルナは剣を抜き放った。

 そして。


「近衛騎士団の隊長たちは誰があなたを討つかで揉めていたけれど……私にチャンスが巡ってきたようで嬉しいわ」

「舐められたものだ。近衛騎士団の隊長たちの大半は相手にならないよ。それこそ上位三隊の隊長じゃなきゃね。僕の首も安く見られたものだ」

「調子に乗るんじゃないわよ。第十隊長」

「爪を隠すって言葉を知らないのかい? あの出涸らし皇子の幼馴染の癖に」


 ラファエルも剣を抜き、互いに臨戦態勢となる。

 睨み合いがしばし続く。

 殺気と殺気がぶつかり合い、息苦しい空間が出来上がった。

 互いに一歩も退く気はなかった。

 ここで相手を仕留めるという姿勢を見せているからこそ、迂闊に動けない。

 動けば即座に必殺の一撃が放たれる。

 まるで張り詰めた糸のような緊張感。

 切っ掛けは些細なものだった。

 互いの前を蝶が通り過ぎる。

 視線がお互いに切れた。

 瞬間。

 どちらも一歩踏み出していた。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 エルナは真っすぐ踏み込んで上段から剣を振り下ろし、ラファエルは下段から剣を振り上げる。

 速さはほぼ互角。

 そのことにラファエルは顔をしかめた。

 速さに関しては自分のほうが上だと自負していたからだ。

 そして自覚していることがもう一つ。


「はぁっ!!」

「くっ!!」


 威力はエルナのほうが上だというのが共通認識だった。

 ゆえに速度が互角であれば打ち負けるのはラファエルだった。

 剣と剣が激しくぶつかり合うが、押し負けたのはラファエルだった。

 自分の剣の勢いまでを飲み込んで、エルナの一撃がラファエルを吹き飛ばす。

 ラファエルは大きく吹き飛ばされるが、なんとか体勢は崩さない。

 そのままラファエルは帝国側のほうに後退を開始した。

 このまま戦い続けて、藩国側にいけば計画が崩れてしまうからだ。


「相変わらず逃げ足が速いわね!」

「そういう君は相変わらず考えが至らないね」


 最初の攻防で先手を取られたラファエルは、その後もずっと守勢だった。

 後退するラファエルと、それを追うエルナという構図が崩れないからだ。

 しかし、その中でもラファエルはエルナに対する揺さぶりをかけていた。


「考えが至らないのはそっちでしょ? 帝国を裏切るなんて本当に馬鹿だわ」

「その帝国はだいぶグラついているみたいだけど? ここで出涸らし皇子が暗殺でもされたら大変なんじゃないかな?」


 誘い出した。

 そう言う風に思わせようとラファエルは言葉を操る。

 実際のところ、アルの暗殺は計画にはない。

 エルナが出てきたことは予想外だった。大前提としてエルナはアルの傍を離れないと誰もが思っていたからだ。

 だが、今、エルナはアルの傍にはいない。

 暗殺するというならこれ以上ない展開だった。

 しかし。


「やってみなさい。私の部下がそう簡単に暗殺を許すわけないわ」

「部下を信じているのかい?」

「ええ、近衛騎士隊の護衛を掻い潜れる暗殺者なんてそうはいないもの。そんな相手がいるなら、近衛騎士隊長クラスでしょうね」


 言いながらエルナはラファエルの腹に蹴りを加えて、思いっきり吹き飛ばした。

 それは大したダメージを与えるモノではない。ただエルナが苛立ちを発散させるためのものだった。


「足癖が悪いな……!」

「ほかに言うことはないのかしら?」


 そう言ってエルナはゆっくりとラファエルとの距離を詰める。

 エルナに油断はない。

 ラファエルの言葉は動揺を誘うためのものとエルナは判断した。

 最初のやりとりで、ラファエルはエルナが来たことに驚いていた。

 誘い出したならそんなことを言うわけがない。

 ならばエルナがすべきことはラファエルを徹底的に抑えること。

 自由に動かせばアルの暗殺すら可能な手練れだからだ。


「どうやら僕を逃がす気はなさそうだね」

「当たり前よ」


 ラファエルは帝都の時とは違うと感じていた。

 帝都でのエルナは様々なことに気を取られていた。

 ゆえに逃げることに専念したラファエルを討つことができなかった。

 しかし、今はラファエルにだけ集中している。

 そのことにラファエルは笑う。


「嬉しいよ……対等と認めてくれているなんてね」

「自惚れるのはいい加減にしなさい。あなたは私の足元にも及んでないわ。私は私のやるべきことに専念しているだけよ」

「なるほど……」


 そう言ってラファエルはゆっくりと剣をおろした。

 両手をだらりと下げた体勢は一見、攻撃の意思がないようにも見える。

 まるで殺気も闘志も感じられない。

 すべてを放棄したような虚無のような体勢だ。

 しかし、エルナはそれが構えだと見抜いた。


「脱力からのカウンター狙い? それにしては極端ね」


 おそらく攻撃を受け流し、隙をつくための構え。

 しかし構えというのは本来、防御のためのもの。それを捨てるというのはあまりにも極端だった。

 近衛騎士隊長クラスの戦いで、防御を捨てて攻撃をもらえば致命傷となる。

 それをエルナ相手にやるという点で、ラファエルの胆力は相当なものだった。

 だが。


「攻撃してほしいって言うなら攻撃してあげるわ」


 エルナは薄く笑って剣を構える。

 そして全身全霊の突きを放った。

 だが、寸前のところでラファエルはその突きを逸らし、逆に隙だらけのエルナに対して突きを放った。


「貰ったぁ!!」


 ラファエルもまた全身全霊の突きを放った。

 風の魔法を纏わせた最速の突き。

 避けようがない。

 エルナは攻撃後の〝脱力〟に入っていた。

 完全に横を通ったラファエルにとって、今のエルナは隙だらけもいいところだった。

 完璧なカウンターだと踏んで、ラファエルは腕を突き出した。

 しかし、突きは寸前のところで躱される。

 そして。


「なにぃ……?」


 乾いた音が響き、ラファエルの剣が折れた。

 脱力からのカウンター。

 それをエルナも行ったのだった。

 あえて晒して、相手の攻撃を誘う。

 危険すぎる行為だが、エルナにとって難しいことではなかった。

 そう言う技が勇爵家にあったわけではない。ただラファエルの構えで仕組みを理解しただけ。

 エルナにはそれで十分だった。


「面白い技だったけれど……対策も簡単だわ」


 そんな馬鹿なと思いつつ、ラファエルは足を動かそうとする。

 だが、その前にエルナの手がラファエルの首を掴んだ。


「かはっ……!」

「自分の必殺の技を破られてショックかしら? それなら私の気分も晴れるわ。ただ殴るだけじゃ気が済まないと思っていたから」


 ぞっとするほど冷たい目でエルナはラファエルを地面に叩きつけた。

 何もできず、ラファエルは痛みに顔をしかめる。

 このままエルナはラファエルを絞め落とす気でいた。

 殺してやりたい気持ちはあったが、捕らえられるなら捕らえるべきだという理性がわずかに勝った。


「眠りなさい。起きたら腕の一本や二本無くなってるかもしれないけど」

「ぐっ……」


 まずいと思ってもラファエルにはどうすることもできない。

 もがこうにも意識が朦朧とし始めた。

 このまま捕まるわけにはいない。

 なんとかしようとラファエルが天に手を伸ばした時。

 真っ黒なローブに身を包んだ人物がエルナの後ろに立った。


「っっ!!??」


 ラファエルを絞め落としている最中とはいえ、後ろを取られたことにエルナは驚きながら片手で剣を振るう。

 だが、その剣は受け流されてエルナは蹴り飛ばされた。


「ぐっ!? 何者!!??」


 すぐに立ち上がり、エルナは攻撃体勢に入る。

 だが、そこより先に進むことができなかった。

 一歩でも前に出れば不気味な黒いローブの人物の間合いに入ると直感が告げていた。


「ごほっ……ごほっ……助かりましたよ……」

「依頼されたので」

「まぁ、なんでもいいです……二人で仕留めてしまいましょう」


 そう言ってラファエルは折れた剣を握る。

 風を纏わせればまだ戦えるという判断だった。

 しかし。


「剣士が剣を折られたら敗北です。諦めて退きますよ」

「……僕にはまだ切り札があります」

「そういう計画なら止めませんが、私は協力しませんよ」


 黒いローブの者に言われ、ラファエルは舌打ちをしたあとに剣を投げ捨てる。

 それを見た黒いローブの者が黒い球を放り投げた。


「では、エルナ・フォン・アムスベルグ。いずれ、また」

「待ちなさい!!」


 エルナが黒い球の意味に気づいた時。

 すでに手遅れだった。

 それは古代の魔導具。

 ごくまれに遺跡で発掘される〝転移の魔導具〟だった。

 古代魔法の転移を再現できるそれによって、二人は黒い穴に飲み込まれて消えてしまった。

 すぐに穴も消え去り、追うこともできず、エルナは苛立ちのあまり剣を振るう。


「何者なの……?」


 あそこまで綺麗に後ろを取られたのはいつぶりだろうか。

 間違いないことが一つ。

 あの助っ人はラファエルよりも強かったという点だ。

 悔しさを抱えながらエルナは剣をしまう。


「とにかく報告に戻らないと」


 あれほどの助っ人がいるならどんな行動もありえる。

 悔しがっている場合ではない。

 自分を心の中で叱咤しながら、エルナはアルの下へ戻るのだった。


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― 新着の感想 ―
父親に「だからラファエルに逃げられる」とか「二度目は無い」とか言わせてそのラファエルと再戦する流れにしといてサクッと退場させないってじゃあ何のために訓練挟んだんだよ。 フィーネには過剰に見せ場作るわり…
自分こそが有能な勘違い野郎が結構多い件。
[気になる点] 生半可なヒロイズムが鼻につくんです……実力がないのに。 父親の薫陶は無駄になりき。
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