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第三百八十三話 頼りになる人





 大雨の被害は各地で出ていた。

 特に避難民をまとめて集めている避難村は、ほとんどの建物が使えなくなった。

 手の空いている騎士たちを動員して、復興に力を注いでいるがなかなか進まない。

 騎士たちの手が遅いわけじゃない。

 手伝っている避難民たちが遅いのだ。

 せっかく形になってきたのに。そんな感情が彼らのやる気をそいでいるのだ。

 誰も彼もが暗い表情を浮かべている。


「まずいな……」

「皆さん、沈んでいましたね……」


 フィーネと共にツヴァイク侯爵領の屋敷に戻った俺は、各地の様子について報告を受けていた。

 しかし、どこも報告は似たり寄ったり。

 避難村があるのはツヴァイク侯爵領だけじゃない。

 被害が少なかった領内でいくつもつくられていた。

 だが、どこも壊滅的な被害を受けた。

 命は助かった。それは喜ばしいことだが、生きる希望が失われた。

 この先どうなるかと不安が先に来て、生きていたことを喜べるような状態ではない。


「各領主へ、至急の伝令を出せ。避難民への保護を手厚くせよと厳命するんだ。その補償は俺がする」

「よいのですか?」

「今は惜しんでいる場合じゃない」


 しかし、これは諸刃の剣でもある。

 俺たちに根拠地はない。

 ツヴァイク侯爵領の屋敷を間借りしているだけであり、元となるモノは何も持っていない。

 補償をするならばツヴァイク侯爵家がすることになるだろうが、ツヴァイク侯爵家にも限界がある。

 なにせ、大きな戦をしたあとだ。

 食料の備蓄も少ない。どこの貴族も本来なら避難民を抱える余裕なんてない。

 こちらの援軍がいつ来るか。

 それによっては避難民の怨嗟が俺に向くだろう。

 

「そろそろ着いてもいいはずなんだがな……セバス。ラインフェルト公爵の下へ向かったフィンはまだ戻らないのか?」

「はっ。いまだに」


 セバスの返答に俺は少しの落胆を覚えた。

 ラインフェルト公爵ならば素早く行動に移してくれると思っていた。

 そのためにフィンを遣わした。

 しかし、いまだに動きは見られない。

 何もしていないということはないだろう。

 何かあったのかもしれない。


「なかなか思い通りにはいかないな……」

「私が父に手紙を書いてみます!」

「西部貴族は王国との戦線を支えている。向こうだって余裕はない」


 直接参加していなくても、兵糧の供給くらいはやっているはずだ。

 北部ほど切羽詰まっていなくても、ギリギリであることは考えられる。

 北部のために西部に犠牲を強いるわけにはいかない。


「ですが……」

「いざとなれば父上に頼むさ」


 頼まなくても動いているだろうけど。

 せっかく修復しつつある北部との関係を崩すようなことはしないだろう。

 しかし、それがいつになるか。


「いざとなればシルバーで食料運搬だな」


 背に腹は代えられない。

 慈善活動ということでやるしかない。

 そんな決意を固めつつ、俺はまた大量にやってきた伝令の対応に移ったのだった。




■■■




 大雨から一週間。

 北部ではグライスナー侯爵家の竜騎士たちが伝令として、あちこちを飛び回っていた。

 しかし彼らが運んでいるのは避難民とそれを抱える領主たちの悲鳴だった。


「そろそろ……ツヴァイク侯爵家も限界よ」

「わかっている。むしろ良く持った」


 苦しい中でツヴァイク侯爵家は各地の貴族に援助し続けた。

 しかし、使えば減る。それが真理だ。

 もはやどの領地にも余裕はない。


「手を考える。少し時間を」


 仕方ないと諦めた時。

 俺の言葉を遮るようにして伝令が駆け込んできた。


「報告! 東より商人が到着いたしました!」

「商人が? 商機のわかる奴もいたもんだな。受け入れろ」

「そ、それが……一人ではないのです! とにかく外をご覧ください!」


 そう言って伝令は俺を急かす。

 俺はシャルと顔を見合わせたあと、伝令についていった。

 そして屋敷から城壁へと移る。

 そこでは何十台の馬車が渋滞していた。


「これは……!? アルが呼んだの!?」

「そんなわけあるか。俺じゃない」


 俺がしたのは頼りになる人に手紙を書いただけだ。

 助けてほしいとお願いしただけ。

 厚かましい話だが、俺に借りがあるはずだから。

 そしていつぞやの借りを返すために、全力を注いでくれたらしい。

 これほど頼りになる人もそうはいまい。


「おい! 早く通してくれ!」

「ちょ、ちょっと待て! 受け入れ態勢がまだ!」

「頼むぜ本当! 東部の商人はほとんど全員来るんだ! 俺たちはほんの一部だぞ!」

「東部の商人が全員!?」


 騎士たちがてんやわんやしていると、俺の視界に一頭の白い飛竜が見えた。

 そしてその下には多数の騎馬団。


「で、殿下! 軍勢です! 東より軍勢が来ます! 数は二万は超えています!」

「東部に二万を動員できる貴族がいるなんて……」

「一つの家で二万の騎士を動かせるわけがない。かき集めたのさ」

「ほかの貴族と協力して? でも、短期間であれだけの騎士を集めるなんて……」

「可能なのさ。東部であの人に借りのない貴族はいない。もちろん商人もな」


 だからこれだけの規模でやってくることができた。

 軍勢だけで来られたら迷惑極まりない。こちらには余裕がないからだ。

 だから商人たちを先に動かした。

 相変わらず気の利く人だ。

 そんなことを思いつつ、俺は正門を出て出迎えの準備をする。

 そして騎士の軍勢の中から一人が抜け出してくる。

 背は低く、ずんぐりとした体形のその人は、お世辞にもかっこいいとはいいがたい。

 それでも堂々と俺の前に馬を進めてきた。

 そして俺の前で膝をつく。


「東部諸侯を代表し、ユルゲン・フォン・ラインフェルトがアルノルト殿下にご挨拶いたします。東部の商人たちと騎士二万と共に殿下の下に参陣いたしました」

「よく来てくれました。ラインフェルト公爵」

「殿下の頼みとあらばどこへでも」


 そう言ってラインフェルト公爵は人の良い笑みを浮かべる。

 そのままラインフェルト公爵は横にいるシャルへ視線を向ける。


「ツヴァイク侯爵とお見受けします。ユルゲン・フォン・ラインフェルト公爵と申します。以後お見知りおきを」

「シャルロッテ・フォン・ツヴァイク侯爵です。大きなご支援に感謝いたします」

「お気になさらず。我ら東部の貴族は北部内乱には関われなかった。協力できなかった不義理はここで清算させていただきます。商人たちには前払いで料金を払ってあります。まずは被害を受けた方々に補償をしましょう」

「ま、前払い……? すべてですか……?」

「貯めたお金は盛大に使うのが僕の主義でして」


 ラインフェルト公爵はクスリと笑う。

 そこに自慢気な様子は一切ない。

 だが、東部の商人たちをほとんど全員動かしたんだ。

 かかったお金はとんでもないものだろう。

 おそらくシャルでも見たことないレベルの金が動いたはずだ。


「ラインフェルト公爵。ご厚意に甘えてばかりで申し訳ないのですが……」

「ご安心を。彼らもちゃんと連れてきていますよ」


 ラインフェルト公爵は騎士たちのほうを振り返る。

 するとその軍勢の中から不釣り合いな背の低い人々が現れた。

 ドワーフだ。

 これが北部復興の要。彼らの力を借りれば建物の不安はなくなる。


「先に百名ほどついてきてもらいました。残りはドワーフ王と共に後日到着いたします」

「何から何まですみません」

「それはこちらの台詞です。遅くなって申し訳ありませんでした。できるだけ急いだのですが、思ったよりも遅くなってしまいました」


 これだけの規模の人を動かせば、下手をすれば数か月くらいかかる場合もある。

 たかが数週間で来たというのに、公爵からすれば遅いらしい。

 大した人だ。


「それで……その……姉上は……どちらに?」


 周りを警戒しながら俺が問いかける。

 ヤバい女筆頭のリーゼ姉上も一緒に来るはずだ。

 わざわざ別々に来る必要はない。

 しかし、リーゼ姉上と軍の姿は見えない。


「リーゼロッテ殿下は一千の精鋭を率いて北部国境へ向かいました。下見だそうです」

「ああ……なるほど……」


 意気揚々と向かうリーゼ姉上の姿が目に浮かぶ。

 やる気十分ということか。


「ちなみに機嫌はどうでした?」

「道中は上機嫌でしたよ。まぁあの方は不機嫌でもお美しいので、判断が難しいのですが」

「あれほどわかりやすい人もなかなかいないと思いますけどね……」


 そうラインフェルト公爵に突っ込みつつ、俺たちは商人の受け入れに移ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] フィーネだけ正妻の余裕があるな。
[良い点] あ、義兄うえ~ええええええええええぇぇぇぇえええぇl マジ最高です さすが物語の良心筆頭、しびれる [一言] 最強姉上きてしまったか
[一言] 義兄が超有能で将来が楽しみすぎる
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