第三百八十二話 大雨・下
明日は出涸らし皇子のコミカライズの更新日です!
チェックお忘れなく!(・ω・)ノ
そしてタンバは原神で16レべまで行きました( *´艸`)
小説より頑張った!(*'ω'*)
「やれやれ……」
びしょびしょになった髪をタオルで拭く。
場所は止めてある馬車の中。
川から離れたところに、いくつもの馬車を連結させて、とりあえずの仮拠点を作った。
とにかくこの目で状況を見ないと話にならないため、川を見てきたが思った以上に水位が上がっていた。
氾濫が起きかけているのはツヴァイク侯爵領に位置する橋の近く。
元々、水位が上がることを想定していない場所だったせいで、かなりまずい状況になっている。
現在、騎士たちが川の周りに土塁を作って補強し始めている。
根本的な解決にはならないが、とにかく弱いところを補強しないと何の手も打てない。
そんなことを思っていると、俺の馬車の中にシャルとエルナが入ってきた。
言い合いをしながら。
「信じられないわ! 勇爵家の神童が水を怖がるなんて!」
「水が怖いんじゃなくて、大量の水が溜まっている場所が苦手なだけよ!」
「変わらないわよ! どうしてついてきたの!? 川に近寄れないのに!」
「か、川に近づかなくてもやれることはあるわよ!」
「声が震えてるわよ!」
俺はため息を吐きつつ、二人に新しいタオルを渡す。
シャルには騎士たちの指揮を、エルナには補強材になりそうな物を片っ端から集めることを指示していた。
ここに来たということは一段落したんだろう。
「どうだ?」
「とりあえず土塁の基礎は完成したわ。あとはこれを強化するだけね」
「エルナはどうだ?」
「周辺の石をできるだけ運んだわ。あとは加工すれば使えると思うわよ」
「よろしい。なるべく急ぐぞ。正直、時間がない」
雨は強まってはいないが、弱まってもいない。
このまま続けば川は間違いなく氾濫する。
そうなれば住む場所だけでなくて、多くの農作物が被害を受ける。
北部の復興は大幅な遅れを見せるだろう。
そんなことは許容できない。
「よし、行くぞ。今が頑張りどころだ」
そう言って俺はシャルとエルナと共に再び大雨の外へ出たのだった。
■■■
「殿下! 雨足が強まってきました! 川からお離れください!」
マルクがそう言って俺を制止する。
しかし、俺は完成した土塁の上に立つ。
急造にしては立派なものだ。しかもエルナが集めて、加工した石がそれを補強している。
一番弱かった部分の補強はどうにか完了した。
しかし、雨はやまない。
根本的な解決にはならないというわけだ。
「補強は済みました! あとは天に任せましょう!」
「天頼みは嫌いだ!」
「そう言ってもやれることはやりました! 殿下がここにいて何になるんです!?」
「わからないか!?」
「さっぱりです!」
「セバス! お前はわかるか!?」
「まぁ、ある程度は察しがつきますな」
少し離れたところにいたセバスがそう答える。
そんなセバスの答えに俺はニヤリと笑う。
さすがに悪だくみも筒抜けか。
俺はマルクを手招きする。
マルクは仕方ないとばかりに土塁へ上り、俺の傍に寄ってくる。
「俺の策を知りたいか!?」
「ええ! 知りたいですが、後にします! とりあえず降りてください! ここは危険です!」
「危険だけど、お前がいれば大丈夫だろう?」
「私にも限界があるんです!」
「そうだろうか?」
マルクに苦笑しつつ、俺はゆっくりと体重を川側に倒す。
マルクは慌てて俺の腕を掴む。
「殿下!! 殿下が落ちるぞ! 手を貸せ!!」
「はっはっはっ! 助けてもらうのは三度目だな?」
「笑ってる場合ですか!? 早く上がってきてください!!」
「いやぁ、俺の腕力じゃきつい。引っ張り上げてくれ」
「まったく……! 体を支えておいてくれ! 殿下を引っ張り上げる!!」
周りに来た騎士たちに自分の体を固定させ、マルクは両腕で俺を引っ張り上げる。
さすがに近衛騎士だけある。
見事に俺を引っ張り上げたマルクは、荒い息を吐きながら仰向けで倒れた。
「……生きた心地がしませんでした……」
「そうか。まぁ大ピンチだったしな」
「何を悠長な!? ご自分のお立場を理解しているんですか!? あなたは北部を治める皇帝陛下の名代です! 北部における皇帝なのですよ!?」
「ああ、まったくもってその通りだ。それが死にかけたとなれば一大事だな?」
「その通りです! わかっているならさっさと離れてください! 川は危険です!」
そう言ってマルクは俺を土塁から下ろす。
そんなマルクに俺は訊ねる。
「マルク、拡声の魔法は使えるか?」
「はい? 使えますが……」
「じゃあ頼む。エルナに伝えたいことがある」
エルナは川から少し離れた場所の空で待機している。
周囲の状況を見るためだ。
しかし、それを指示したのは俺だ。
本当の役割は違う。
勇者の役割は勇者以外にないのだ。
『聞こえるか? エルナ・フォン・アムスベルグ』
『聞こえてるわよ! アル!? 危ないからさっさとそこを』
『皇帝の名代である俺はこの場において皇帝と同じ立場にある。その俺が死にかけた。この状況は非常に危険だ。帝国の危機と言っていい』
俺はエルナの言葉を遮る。
ここからは余計なことを言われては困るのだ。
ニヤリと笑う俺を見て、セバスがやれやれと首を振る。
シルバーがやれない状況だ。しかし、シルバーの代わりはいる。
誰かにやってもらいたい状況だった。ならばやってもらおう。
俺がわざわざ出張ったのはその条件をクリアするため。
『帝国の危機に際して、北部全権代官・第七皇子アルノルト・レークス・アードラーは皇帝・ヨハネス・レークス・アードラーの名代として命じる。勇者よ、その手に聖剣を取れ!』
俺の意図を察したのかエルナは空に手を掲げる。
そして。
『我が声を聴き、降臨せよ! 煌々たる星の剣! 勇者が今、汝を必要としている!!』
エルナの手に白い光が握られた。
それは眩い光と共に聖剣へと姿を変える。
帝国どころか大陸最強の武器。
よほどのことがなければ使ってはいけない奥の手。
しかも威力の高さゆえに周りへの被害も大きい。
だから最優先で補強をした。
余波で氾濫とか笑えないからだ。
だが、その心配は消えた。
あとは実行あるのみ。
『俺が許す。勇者よ――天を裂け!』
『はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
俺の命令を受けてエルナが聖剣を天に向けて振りぬいた。
巨大な光の奔流が北部を覆う巨大な雨雲を一気に切り裂く。
文字通り天を裂いたのだ。
少し遅れて聖剣の余波が俺たちを襲う。
突風によって吹き飛ばされそうになるが、騎士たちが固まって陣を作って耐える。
そしてそれが過ぎ去った頃。
空を覆っていた薄暗い雨雲が消え去り、蒼い空が顔を出した。
幻想的な光がそこから大地に降り注ぐ。
「さすが聖剣だな。自然すら敵じゃないか」
空に放った分、エルナも遠慮がなかったんだろう。
明らかに威力が今までとは違う。
無意識にセーブしていた部分が解放された結果がこれか。
やっぱり化け物だなと心の中で呟きつつ、俺はドヤ顔で降りてくるエルナを出迎えたのだった。