第三百七十四話 皇子凱旋
長らくお待たせして申し訳ありませんm(__)m
今日から連載再開です。
またよろしくお願いします(・ω・)ノ
レオがゴードンを討ってから二週間後。
帝都は喜びに沸いていた。
反乱者を討った英雄皇子が凱旋してきたからだ。
「レオナルト皇子―!!」
「さすが英雄皇子だ!」
「我らがレオナルト皇子に乾杯!!」
帝都を混乱と絶望に落とした憎き反乱者・ゴードンを討ちとったレオの評価はうなぎ上りだった。
大歓声を受けながらレオとレオが率いる軍は帝都に入り、そのまま帝剣城へと入城したのだった。
レオが見えなくなっても歓声はやまない。
そんな歓声を聞きながらレオは帝剣城の最上階。
玉座の間にやってきていた。
「帰還のご挨拶に参りました。皇帝陛下」
「うむ、反乱者の征伐。ご苦労だったな」
「時間がかかってしまい、申し訳ありません」
「お前のせいではない。よくやった。お前を誇りに思うぞ、レオナルト」
「ありがたく」
短い会話のあと、皇帝ヨハネスは玉座に背を預ける。
形式的な挨拶はこれにて終わりということだ。
レオも伏せていた顔をあげる。
そして思わず苦笑する。
皇帝ヨハネスが明らかに不満顔をしていたからだ。
「さて……とりあえず聞きたいことがある」
「はい。何でしょうか?」
「ワシはお前とアルノルトの帰還を命じたはずだが? なぜお前しか帰ってきていない?」
頬を引きつらせるヨハネスに、レオは曖昧な笑みを浮かべる。
たしかに命令は両皇子の帰還だった。
しかし、帰ってきたのはレオのみ。
明確な命令違反だ。しかし、大事にはならない。
それだけの戦果があるからだ。
「それについては手紙を預かっております」
そう言ってレオは懐から手紙を取り出した。
アルが書いたものだ。
ヨハネスはさらに顔をしかめつつ、宰相経由でその手紙を受け取り、乱暴に開封した。
そこにはヨハネスが思った以上にちゃんとした文章が書かれていた。
『このような手紙でのご挨拶をお許しください、父上。俺はまだ帝都に戻るわけにはいかないのです。理由は北部が不安定であるからです。大黒柱であるローエンシュタイン公爵を失い、北部は戦勝よりも悲しみのほうが大きい状態です。彼らには支えが必要です。そのために俺は北部に留まります』
最初のほうの文章を読み、ヨハネスは鼻で笑う。
そんなことはヨハネスも重々承知の上だった。
元から北部貴族の信を集めたアルに対して、自らの名代として北部の維持を任せるつもりであったのだ。その任命を言い渡すために呼び出したのだ。
しかし、アルはそれを拒否した。
何か理由があるはずだとさらに手紙を読み進める。
『すでに報告を聞いておられるとは思いますが、ローエンシュタイン公爵は早くから俺に接触し、俺に助言を与えてくれていました。時期を待っていたのです。北部貴族の忠誠は常に父上の傍にあります。俺の手柄はすべて彼らの手柄です。それを証明すると約束しました。俺の皇子の地位にかけて。彼らに褒賞を。そしてこれからは尊重することをお約束ください。それが果たされるまでこの場を動くことはありません。それが果たされたのなら、どのような命令でもお受けします』
ヨハネスはしかめっ面を少し緩めた。
アルの手紙はヨハネスへの脅しだった。北部貴族の信を勝ち取った皇子が北部にいるということは、第二のゴードンになりかねないということだ。
実際、ヨハネスが北部貴族を罰するようなことがあれば、アルは実力行使に出るだろう。帰ってこないということはそういうことだった。
しかし、ヨハネスはそれに対して顔をしかめることはしなかった。
「……ワシの失策の尻ぬぐいを息子がしてくれるそうだぞ。フランツ」
「北部貴族への冷遇は陛下がなされたことではありません。陛下はお止めにならなかっただけです」
「知っていて傍観し、止められるのに止めなかった。さぞやワシのことが憎かろう。在位中に関係の修復はできぬと思っていた。皇帝として臣下に頭は下げられぬ。自らの罪を認めればこの玉座が揺らぐからだ。それは帝国が揺らぐことを意味する」
しかし、今回のことできっかけができた。
アルではなく、北部貴族が戦功をあげたのだ。褒賞を与えることも、他の貴族へ釘をさすことも容易となった。
すでにヨハネスの下にはローエンシュタイン公爵がアルに宛てた手紙が届けられていた。
その真偽をヨハネスは問わなかった。
偽造などいくらでもできる。だが、北部貴族は最初から皇帝側であり、戦功をあげたという事実のほうが都合がよかった。
「この場で宣言しよう。此度の北部貴族の活躍は目を見張る。第七皇子アルノルトを動かし、見事な戦功をあげた。後日、すべての北部貴族に褒賞を与える。彼らは英雄である。以後、彼らへの非難は功労者への非難であり、ひいてはワシへの非難である。決して許さん。すべての者に伝えよ」
そう宣言し、ヨハネスは手紙の裏側を見る。
そこには先ほどとは打って変わって砕けた字で文章が書かれていた。
『と、言うのは建前で、皇旗を無断で持ち出したのを怒られるのが嫌なので帰りません。国のためにしたことです。許す気になったら言ってください。そのうち帰ります』
「あの馬鹿息子め! その件については絶対に許さんぞ! 一言断わってから行け! 帰ってきたら礼儀というものを叩き込んでやる!!」
思わず手紙を投げつけ、ヨハネスはそう叫ぶ。
何事かと宰相が手紙を拾い。さっと目を通す。
そして。
「しばらく帰る気はなさそうですな」
「癪だ! 腹が立つ! あやつが北部にいることが国のためになるというのが余計にだ! 怒られたくないだけの癖に偉そうに!」
「まぁすべて織り込み済みでしょう。予定通りということでよいですな?」
「……仕方あるまい」
苦虫を嚙み潰したような顔をして、ヨハネスはそう絞り出す。
そして玉座から立ち上がり、この場にいる全ての人間に聞こえるように宣言した。
「第七皇子アルノルト・レークス・アードラーは北部貴族と協力し、大きな戦功をあげた! その戦功の報酬として我が名代として!〝北部全権代官〟として北部の統治を任せることとする」
「兄に代わってお礼申し上げます」
レオがそう口を開く。
そんなレオにヨハネスはため息を吐いた。
「たまにはアルノルトを引きずってくるくらいのことをしてもいいと思うが?」
「僕は兄さんには勝てませんので」
「まったく……しばらく英気を養え。王国側の戦線が膠着状態だ。軍を入れ替える。トラウゴットを呼び戻し、お前が王国側の戦を取り仕切れ」
「かしこまりました」
また前線行き。
それにレオは文句を言わない。
王国との戦争。自分の手で決着をつけねばと思っていたからだ。
「レオナルト……もしも王国側との戦争。良い形で終わらせることができたなら……お前の願い、叶えてやろう」
「ありがとうございます」
それは北部に出陣する際。
レオがヨハネスと二人きりで話したときにお願いしたこと。
聖女レティシアとの結婚を認めてほしいという願いだった。
しかし、あの時の状況はあまりに悪すぎた。
だからヨハネスは明確な答えを返さなかった。
しかし、今は違う。
王国側の主戦派は聖女レティシアを排除しようとした一派。それを打ち破ることができれば、聖女レティシアは王国の象徴に戻る。
帝国の英雄皇子と王国の聖女との結婚となれば、両国は新たな道を歩んでいける。
「全身全霊をかけてご期待にお応えします」
「あまり張り切りすぎるな。決着を急ぐ必要はない。お前のペースで頑張ればよい」
そう声をかけてヨハネスは玉座の間を去ったのだった。