第三百六十一話 友のために
最初に仕掛けたのはウィリアムとロジャーだった。
前に出るのはウィリアム。ロジャーはその後ろから魔導杖を構えた。
足を痛めているロジャーに配慮した形だ。
それに対して、レオとフィンは双方動かなかった。
連携が取れていないわけではない。
相手はウィリアムとロジャー。幾度も同じ戦場を飛んできた戦友ともいえる相手だ。
連携で勝負しようなどという考えは二人ともなかった。
ウィリアムとロジャーの狙いは、散開したどちらかを狙い撃ちにするというもの。
だから二人は動かなかった。
「動かないというなら私が討つまで!」
そう言ってウィリアムが槍を突き出す。
レオはそれを正面から受け止めた。
「いつになく積極的ですね。ウィリアム王子」
「お前の兄が何かする前に決着をつけたいのでな!」
「ご安心を。僕の兄は何もしませんよ」
そう言ってレオは微笑む。
戦局の硬直。
それがアルの狙いといっていい。
圧倒的優勢だったゴードン軍は動きを止められた。
地上で決着がつかないならば、空での戦いの重要性は増す。
そしてアルは空での戦いに負けるわけがないと思っていた。
レオを信頼しているから、ではない。
レオを信頼していても、ウィリアムに絶対勝てると思うほどアルは馬鹿ではない。空でのアドバンテージはウィリアムにある。
どこまでいってもレオは経験に劣る。戦場ではそれがモノを言うことが多い。
だが、そんな経験不足も圧倒的戦力を持っていれば補える。
布石はすでに打たれていた。
「最強の竜騎士という称号はもはや連合王国のモノではありません」
「どうかな!」
幾度かの攻防のあと、ウィリアムはその場で愛竜を回転させる。
するとウィリアムの後ろからロジャーの火球が飛んできた。
ウィリアムとロジャーによる阿吽の呼吸。一つ間違えればウィリアムに当たってしまうタイミングでの攻撃だ。
火球を弾けばウィリアムに隙を見せる。かといって動けばウィリアムに背中を取られる。
だからレオは動かなかった。
すでにフィンが配置についていたからだ。
雷撃が真横から飛んできて、レオに向かう火球を相殺する。
隙を狙っていたウィリアムは、万全の状態でレオに槍を受け止められた。
そしてレオがニヤリと笑う。
「気を付けたほうがいい。空の常識はもう壊されているのだから」
いつの間にかウィリアムとロジャー、どちらにも射線が通る真横に移動していたフィンはそこから雷撃を連射する。
接近戦のできないフィンを孤立させるために、ウィリアムは突撃した。
間違いなく、レオが受けて立つとわかっていたからだ。
接近していればフィンの雷撃は怖くないと思っていた。レオに当たることを恐れるはずだと。
だが、その心配はフィンにはなかった。
アルが現れるまで、フィンも遊んでいたわけじゃない。
六二式を使いこなすために練習をし続けた。
何度も何度も撃ち続けた。
ノーヴァの全力運動中でも的を外さないほどの精度。
それを求めて。
十分すぎるほどの活躍をした。それで満足することもできた。それでも努力を重ねた。
六二式を受け取ったとき、フィンは感謝を口にした。だが、アルは感謝はいいと言った。感謝で勝てるわけじゃないと。
その時からフィンは決めていた。
この恩は戦功で返そうと。
だから自分に満足はしない。より強く、より高みへ。
一人で戦局を左右できるほどの竜騎士になろうと決めていた。
そんなフィンの雷撃が雨のようにウィリアムとロジャーを襲う。
「くっ!!」
二人は雷撃を弾きつつ後退する。
なんとか距離を取って、移動しなければやられるという判断だった。
しかし、フィンの雷撃は止まない。
二人とも防戦一方だった。
「殿下!!」
なんとか状況を打破しようとロジャーが火球をフィンに向かって放つ。
だが、雷撃の雨の前で一発の火球など焼石に水だった。
フィンの邪魔をすることもできず、雷撃によって相殺されてしまう。
「これほどまでかっ!!」
ウィリアムは雷撃をなんとか弾きつつ、レオの姿を探す。
この雷撃の雨。それに気を取られた瞬間、レオが攻撃を仕掛けてくるはず。
そう思いながらウィリアムはレオの姿を探す。
だが、どこにもレオはいなかった。
「死角かっ!」
ウィリアムは愛竜を反転させて後ろを見る。
そこにレオはいた。
しかし、ウィリアムのほうへ詰め寄る素振りは見せていない。
ロジャーとウィリアムの後方に回り込んだだけだった。
雷撃の雨の中に入るのは、さすがにレオといえど危険と判断したからだ。
「殿下!! レオナルトは囮です!!」
ロジャーは雷撃を弾きながらそう叫ぶ。
三度もフィンと戦っているロジャーは、雷撃に慣れていた。
足を怪我していても大剣で防ぐことはできた。
だが、ウィリアムは違う。集中しなければ雷撃を弾けない。
それがわかっているからレオは後方に回り込んだ。
ウィリアムがレオを警戒し、雷撃への対応を疎かにすると踏んでいたからだ。
そして実際にそうなった。
気づいたウィリアムは迫る二つの雷撃のうち、一つを片手で弾く。
そして残る一つ。
だが、それは今までの雷撃とは違った。
収束された雷撃。
威力は通常の雷撃以上。
それを片手でウィリアムは弾こうとしてしまった。
「ぐっ!? うおおぉぉ!!」
必殺の一撃。
それをウィリアムは何とかそらすことに成功した。
自らが持っていた槍を手放すことで。
ウィリアムにとって戦場で槍を手放すのは屈辱以外の何物でもなかった。だが、そうしなれば雷撃の餌食だった。
そして隙をついてくるだろうレオの餌食にもなっていた。
「簡単にやられると思ったか!!??」
ウィリアムは腰の剣を抜き、見もせずに接近してきたレオの一撃を防いだ。
ウィリアムとレオの視線が交差する。
しかし、そこはレオの間合いだった。
レオはウィリアムの剣を巻き込むと、そのまま上へはねあげた。
収束する雷撃を弾いた時点でウィリアムの握力はなくなっていたからだ。
「その首――もらった!!」
レオの一撃がウィリアムの首を狙う。
やられたとウィリアムですら思った。
だが、その一撃はウィリアムには当たらなかった。
「殿下ぁぁぁぁ!!」
ロジャーがウィリアムの飛竜に体当たりをして、その体で剣を受け止めたのだ。
深々とロジャーの横腹にレオの剣が突き刺さる。
しかし。
「捉えたぞ!!」
ロジャーは自らの大剣をウィリアムに放り投げ、空いた両手でレオの剣を掴む。
もはやロジャーの体は満身創痍だった。
ウィリアムを庇いにいったロジャーをフィンが見逃すはずがない。
雷撃を何発も食らいながら、ロジャーはウィリアムを庇ったのだ。
そして止めの一撃をウィリアムに託した。
「お構いなく!!」
「許せ!!」
ロジャーはレオを道連れにする気だった。
一言で察したウィリアムはためらわない。
ロジャーごとレオを斬る気で大剣を振り下ろす。
だが、そんなウィリアムにまたも体当たりをする者がいた。
フィンだ。
「やらせるか!!」
雷撃で止まらぬロジャーを見て、フィンは真っすぐレオの下へ駆けつけていたのだ。
耐えられるとわかっているなら、接近するまで。
接近はしてこないと思っていたフィンが突撃してきたことで、ウィリアムはバランスを崩す。
「邪魔を、するな!!」
だが、すぐに立て直してフィンとノーヴァを愛竜の尻尾の一撃で吹き飛ばす。
元々小柄なフィンとノーヴァは接近した状態では、大きさの差で弾かれてしまう。だから戦場では使えないと判断していた。
しかし、その突撃が時間を稼いだ。
雷撃ならば耐えるだけだった。しかし、ゼロ距離から放たれたらまずいとウィリアムは咄嗟に判断して最大の好機を逸した。
ウィリアムの目にロジャーの体から剣を引き抜いたレオが映る。
だが、まだウィリアムのほうが早い。
崩れ落ちるロジャーを見ながら、ウィリアムは気合と共に大剣を振り下ろした。
「勝つのは――我々だぁぁぁぁ!!!!」
多くの犠牲を払ってきた。
理不尽なこともあった。納得できないこともあった。
そのたびに〝それでも〟と歯を食いしばってきた。
すべては友のために。
友に勝利を届けるために。
レオを討てば敵は崩壊する。いくらアルでも立て直せない。
ここが勝利の分かれ目だとウィリアムは体中の力をかき集め、大剣に込める。
一方、レオはその一撃に対して意外な対応を取った。
跳んだのだ。
自らの鷲獅子であるノワールを土台として、ウィリアムの飛竜へと。
すると大剣の間合いからレオは外れてしまう。
大剣から片手を離し、何とか引き戻そうとするが、レオは飛竜の首に着地して再度跳んだ。
「あなたたちの想いはわかる。だけど、兄さんと組んで負けるわけにはいかないんだ!!」
そう言ってレオはウィリアムとすれ違い様に剣を振るう。
肩から横腹への斜めの斬撃。
内側に入られたウィリアムは成す術がなかった。
「がはっ……」
血を吐き、ウィリアムはそのまま前のめりに倒れる。
だが、そんなウィリアムを守ろうと愛竜がレオから距離を取った。
足場のなくなったレオは空中に投げ出されるが、それは予想済み。
「ノワール!!」
レオは落ちながらノワールの名を呼ぶ。
ノワールはレオが呼ぶ前に傍まで来ており、早く乗れと言わんばかりの顔をしている。
苦笑しながらレオは手綱を握り、ノワールに跨る。
そして体勢を立て直すと、フィンも駆けつけてきた。
「ご無事ですか!?」
「なんとかね。だけど、確実に仕留めたわけじゃない」
傷は軽くない。
それだけの手ごたえはあった。
だが、確実というほどでもない。
だからこそ、追撃をかける場面だった。
だが、ロジャーとウィリアムを庇うようにして多くの竜騎士が立ちはだかった。
「殿下と隊長を山へ退避させろ!! 時間を稼ぐぞ!!」
「お二人を必ず助けろ!!」
空で第六近衛騎士隊やグライスナー侯爵家の竜騎士たちと戦っていた竜騎士たちだ。
そして追撃をかけるレオたちと、守る竜騎士たちの戦いが始まったのだった。




