第三百六十話 空の一騎打ち
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レオの軍の航空部隊は第六近衛騎士隊とグライスナー侯爵家の竜騎士団の混成部隊だった。
一方、敵は黒竜騎士隊を中心としたウィリアム直下の精鋭竜騎士団。
数の上ではウィリアム軍のほうが上であり、質という点でもグライスナー侯爵家の竜騎士たちよりも上。
それでも互角に戦えているのは第六近衛騎士隊がいたからだ。
竜騎士団を率いるカトリナはそんな状況に焦りを覚えるが、その焦りをなんとか抑え込む。
地上では一進一退の攻防が繰り広げられている。わかっていたことだ。
どれだけ上手く攻めても山を取られている以上、地上で敵に致命傷を与えるのは難しい。
結局は制空権がモノをいう。
だからこそ、カトリナは攻め急ぐようなことはしなかった。
「二人一組で戦いなさい! 一人墜ちるだけで周りの負担が増えるわ! 生き残ることを徹底しなさい!!」
指示を出しながら、自らも槍を振るう。
下から攻めてきた敵を迎撃するためだ。
上に抜けていく敵竜騎士を追いはしない。
グライスナー侯爵家の竜騎士たちは自らが劣ることをよく理解していた。だからこそ、挑発されても陣形は崩さず、深追いはしなかった。
全員の共通認識があった。
攻めるときは自分たちのエースが勝ったとき。
「フィンが戻るまで耐えるわよ!」
そう言ってカトリナは声を張り上げる。
そんなカトリナたちのさらに上。
交差する竜騎士が二騎いた。
フィンとロジャーだ。
開戦と同時に二人は一騎打ちを始めていた。
好きで一騎打ちになったわけじゃない。
二人の動きについてこれる味方がいないのだ。
必然、二人の一騎打ちになる。それはつまり、どちらかが墜ちれば戦況が傾くということだった。
「いつまでも一騎打ちというわけにはいかんのでな!」
フィンの雷撃を大剣で受け止めたロジャーは、突然そう叫ぶと真っすぐ突っ込んだ。
長引けば不利なのはロジャーだった。
二度の戦いでフィンはロジャーの戦いを理解しており、攻略するために腰を据えてゆっくりと攻めてきていた。
ロジャーがそう何度も魔導杖を使えるわけがないと直感で見抜いていたからだ。
しかし、それもロジャーは承知していた。
あくまで魔導杖は手段の一つ。
それに頼りすぎるようなことはなかった。
だからロジャーが頼ったのは竜騎士としての技術だった。
真っすぐ突っ込んでくるロジャーに対して、フィンは距離を取りながら雷撃を放つ。
だが、ロジャーはそれを紙一重のところで避けて、どんどん距離を詰めた。
「くっ!」
「そろそろその首をもらうぞ! フィン・ブロスト!!」
叫びながらロジャーは大剣を振るう。
それに対して、フィンは雷撃を大剣に向かって連射した。
振るった大剣が押し戻され、その間にフィンは大きく距離を取った。
そのままフィンは六二式をロジャーへ向ける。
「俺もやられるわけにはいかないんです」
「さすが好敵手! だが、今のは二度も効かんぞ!」
攻めるロジャー、防ぐフィン。
この構図が変わることはない。
攻める側は何とか仕留めたいという思いを抱き、防ぐ側は焦燥にかられる。
フィンにとって時間をかけるということは、それだけ味方を危険に晒すということだった。
フィンがいないため、空の戦いは互角になっている。時間が経てばグライスナー侯爵家の竜騎士たちが墜とされ、不利に変わっていくだろう。
だが、フィンはその焦りを封殺した。
「焦るな……みんなを信じるんだ」
自分に言い聞かせるために呟く。
必ず機会はやってくる。
それまでは耐えるんだと心に決めていた。
自分が墜ちれば空の戦いは敵に傾く。そうなれば全体の戦況も敵に傾いてしまう。
焦りから安易な攻めをするのだけは避けなきゃいけない。
「来るよ、ノーヴァ」
「キュー!」
相棒に声をかけて、フィンはまた突撃してきたロジャーの迎撃に移る。
雷撃を放ちながらフィンは隙を探す。
そしてそれは唐突にやってきた。
「殿下!?」
ロジャーの視界にレオと戦うウィリアムが映ったのだ。
ロジャーはほんの一瞬。そちらに気を取られた。
その一瞬をフィンは見逃さなかった。
ロジャーの前からフィンとノーヴァが消え去る。
そして気づいたときにはロジャーは頭上を取られていた。
二人が戦い始めてから初めて。
攻守が逆転した瞬間だった。
「ちっ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
大きな舌打ちをしながら、ロジャーは大剣を盾代わりにしながら降下していく。
それに対してフィンは雷撃を連射しながら追っていく。
急降下中の戦闘。
フィンもロジャーも地面との衝突を考え始めなければならない高度になっても、攻防を繰り返していた。
一瞬の判断ミスが命に関わる。
それでもとフィンは必死に雷撃を放った。
こんなチャンスは二度も来ない。その確信があった。
「ノーヴァ!!」
「キュー!!」
フィンはさらに降下速度を上げる。
ロジャーはその行動に目を見開く。
ここからさらに速度が上がったというのと、上げたという自殺行為が信じられなかったからだ。
「勝利を焦ったか!」
ロジャーはギリギリのタイミングで降下をやめた。
だが、フィンはその横を通り過ぎるようにして雷撃を放つ。
決死の一撃。
それを避けることはロジャーにもできず、ロジャーは右足に雷撃を食らった。
「ぐうぅ!!」
不安定な飛竜の上でバランスを取るうえで足は大切だ。
これでロジャーは全力で動けない。
だが、その代償としてフィンは地面に激突する。
今からでは間に合わない。
そうロジャーは思っていた。
しかし、フィンは違った。
「アードラーの竜騎士を……舐めるなぁ!!」
通常の竜騎士ならば地面に激突するはずだった。
だが、フィンとノーヴァは無理やり真横に進路を変えた。
そしてフィンはゴードン軍の上をスレスレで飛んでいく。
そのままフィンは置き土産とばかりに拡散する雷撃をゴードン軍にお見舞いし、味方の軍の前で急上昇して見せた。
雷撃を食らったゴードン軍は動揺し、超絶機動を見たレオの軍はそれに歓声をあげた。
そして舞台はまた上空へ。
右足の感覚がなくなったロジャーは、フィンを迎え撃ちにいこうとするがそれをウィリアムが引き留めた。
「やめておけ。ロジャー、その足では勝ち目がないぞ」
「勝ち目がなくとも……自分がやらねばならんのです」
「そう意地を張るな」
そう言ってウィリアムはロジャーと肩を並べる。
意図を察したロジャーは驚いた表情を浮かべたあと、豪快な笑みを浮かべた。
「なるほど。悪くありませんな」
「そうだろ?」
笑い合う二人の前にレオが現れる。
そしてそんなレオの隣に上昇してきたフィンがついた。
「やぁ、フィン。良い一撃だったね」
「光栄です、殿下」
「向こうは二対二をご所望のようだよ?」
「どんな形であれ、負けません」
「良い返事だ。兄さんが待ちくたびれる前に戦況を変えよう」
「はい!」
そう言って一騎打ちは二対二へと移行したのだった。