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第三百五十四話 総大将 



「まったく……計画が台無しだぞ? ライナー」

「いやいや、兄上が忠義者に仕立て上げられた時点で前線には出る羽目にはなっていましたよ」

「そうであってもウィリアム王子の前で泣くなりしておけば、先鋒は任されることはなかったのではないか?」

「ウィリアム王子はボクらを警戒していました。こっそり警戒されるより、前線に出たほうがマシでしょう」

「だが、どう動く?」


 ゴードン軍の最前線。

 先鋒に配置されたホルツヴァート公爵家のロルフとライナーは、対陣するレオの軍を見ながら今後のことについて話し合っていた。

 元々の計画では、ギードの失態を受けて後方に配置され、レオとゴードンが争っている間にゴードンの支配領域を制圧する予定だった。

 しかし、ウィリアムの策略でギードは忠義者とされ、そのままホルツヴァート公爵家も先鋒を任されてしまった。

 後ろが味方である以上、余計な動きはしづらい。


「普通に戦うしかないでしょうね」

「相手は英雄皇子だが?」

「まともに戦わなきゃいいんですよ。向こうの狙いはゴードン皇子の首。ボクらなんて眼中にありませんよ。隙を見せればそこを突破してくれます」

「なるほど。先鋒を引き受けたが、奮戦するとは言っていないからな」

「そのとおりです。地形の関係上、ゴードン皇子は山から離れない。仕掛けてくるのはレオナルト皇子です。ボクらの騎士団は山側に配置して、そのほかの騎士団を川側に配置しましょう。ボクらの陣形が固ければレオナルト皇子は川側を突破します」


 貴族軍はおよそ五千。そのうちの三千がホルツヴァート公爵家の騎士たちだった。

 練度も数も他の貴族たちとは比べ物にならない。

 ほぼ間違いなくレオは他の貴族の騎士団を狙うだろう。

 そうなればホルツヴァート公爵家の役割は終わる。


「一時的に北側に逸れて、敵側面に展開するか。そうすれば我々は第三勢力だ」


 北にはハイナ山があるわけだが、そこを登らずに北に逸れる。先鋒ゆえに可能なことだ。

 山を登ればウィリアムに良いように使われてしまう。

 敵の側面に出れば、敵の警戒を受けて動けないと言い訳もできる。

 ゴードンが劣勢になった段階で、裏切ればいい。


「ボクらがあっさり突破されれば戦況もレオナルト皇子優勢になります。不利を承知でこの場に出てきたんです。向こうも手があるんでしょう。ゴードン皇子は勝てないでしょうね」

「だが、ライナー。忘れるな? 敵の領地を制圧できない以上、弱ったゴードンかウィリアムの首が必要だ。そうすればレオナルト皇子の戦功は飛びぬけたものでなくなる」

「わかってますよ。上手くやりましょう」


 そう言って親子は嗤う。

 そんなホルツヴァート公爵家の後方。

 全体の指揮を執るゴードンは、敵軍の様子をじっと見つめていた。 

 そんなゴードンに声をかける者がいた。

 それは軍人ではなかった。


「敵は何やら策がある様子。我々の出番ですかな? ゴードン殿下」

「貴様らの出番があるとしたら最後の最後だ。万が一の保険。出しゃばるな」


 黒いフードを被った魔導師。

 怪しげな雰囲気を持つその魔導師にゴードンは嫌悪感を隠さない。

 それでも傍に置いているのは、利用価値があるからだ。


「我々もそうであってほしいですな。そう簡単に作れるものでもありませんので」

「わかっている。切り札を切らないに越したことはない。戦いはこれからも続くからな」

「まぁ万が一のときはいつでも声をかけてください。準備はできておりますので」


 そう言って魔導師は自分専用の天幕に下がっていく。

 そこで何が行われているのか、ゴードンの側近ですら知らなかった。

 ゴードンはそんな魔導師を睨みつけ、そしてまたレオの軍に視線を戻した。

 すると敵軍が何やら動き出す雰囲気を見せていた。


「来るか……レオナルト!」


 敵軍の攻撃。

 それを察知して、ゴードンは軍の前衛に防戦準備を通達したのだった。




■■■




「レオナルトは正面から攻撃を仕掛けてきたか」


 山中の陣にいたウィリアムはレオが攻撃を開始したのを見て、中腹にいる部隊へ伝令を走らせていた。

 山中はすべてウィリアムによって要塞化されており、中腹には多数の弓矢部隊を配置していた。

 レオの先鋒は目の前の敵と同時に、山から降り注ぐ弓矢とも戦わなければいけない。

 備えは万全。

 それはレオも承知のはずだった。


「殿下、何かお悩みですか?」

「ロジャーか……敵の策が気になってな」

「殿下が考えてもわからないなら、自分にはさっぱりですな」


 わっはっはとロジャーは豪快に笑う。

 その姿にウィリアムは苦笑しつつ、肩の力を抜いた。

 考えてもわからない以上、何にでも対応できるようにするしかない。


「報告! 敵航空部隊! こちらを目指しています!」

「おお! 来たか! 殿下! 出ます!」

「気を付けていけ。元々、あの魔導杖は竜騎士には向かない武器だ。この前の試運転で掴んだ感じでは、何発が限度だ?」

「十五発と言ったところでしょうな。向こうはいくらでも撃てるようですが」

「化け物だな。まさしく」

「ですが、止めなければ制空権を取られてしまいます。ご安心を。このロジャーが止めてみせます」


 そう言ってロジャーはニヤリと笑うと、敵に備えるために走っていった。

 そのまま各地で戦闘が起きていく。

 空はロジャーに任せ、ウィリアムはゴードン軍の動きに合わせて山中の軍を指揮していく。

 上下での連携に苦労していたレオの先鋒部隊だが、貴族軍の脆弱な部分をついて、ゴードン軍の先陣を突破することに成功した。

 ホルツヴァート公爵家の騎士団はそれを見て、一時戦場を離脱して敵軍の横につく。 

 それを見てウィリアムは舌打ちをした。

 徹底抗戦すれば敵を押し返すこともできたはずだが、それをしないため容易く先陣を抜かれた。


「元々アテにはしてないが……始末しそこねたか」


 全滅してくれれば不安材料が消えたというのに。

 ウィリアムはため息を吐きながら、軍の一部を動かそうとする。

 しかし、その瞬間。 

 ウィリアムの背中に悪寒が走った。

 幾度も戦場に出たウィリアムの勘が告げていた。

 まずいと。


「っっ!!?? 待機中の竜騎士は空に上がれ! ついてこい! 後方に向かう!!」


 予備戦力として待機していた竜騎士たちを連れて、ウィリアムはゴードン軍の最後方に移動した。

 そんなウィリアムの耳に角笛の音が聞こえてきたのだった。

 それはウィリアムだけでなく、戦場全体に響いた。


「くそっ……! やはり後方が鬼門だったか!」


 言いながらウィリアムは急いで降下したのだった。

 その目には万を超える騎士が映っていた。

 掲げる旗は色とりどり。北部諸侯の戦旗だ。


「迎撃体勢!! 騎士たちが突っ込んでくるぞ! 弓隊を前に出せ!」


 混乱するゴードン軍の後方に指示を出しながら、ウィリアムは迅速に防衛準備を整える。

 そんな時。

 敵軍の中央にひときわ大きな旗が立った。

 赤地に黒と白の交差した双剣。


「双剣旗です! 北部貴族はレオナルトについたようですね!」


 近くを飛ぶ竜騎士がそう言うが、ウィリアムはその旗に違和感を覚えた。 

 すぐにその違和感は解消される。

 剣の配色が逆なのだ。

 それ以外はすべて同じ。

 ミスではない。

 その確信があった。


「違う……剣の配色が逆になっている」

「え? 慌てて作ったのでしょうか……」

「帝国がそんなお粗末なことをするものか。あれは意図的だ。そしてレオナルトの旗と酷似している旗を使う者などただ一人!」


 ウィリアムは一気に降下すると後方にいた魔導師に拡声の魔法を使わせる。 

 そして戦場全体に告げた。


「後方に北部諸侯連合軍! 率いる総大将は帝国第七皇子! アルノルト・レークス・アードラー!! 出涸らし皇子と侮る者はこの私が斬る! 気を引き締めろ! 帝都での敗戦は双黒の皇子が出揃ったからだ! 決して合流させるな! 帝都での借りを返すぞ!!」


 そう言ってウィリアムが後方軍の士気を上げる。 

 だが、そんな後方軍の士気を飲み込むような勢いで、北部諸侯連合軍は雄たけびを上げながら突撃を開始したのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の盛り上げ方を心得てますね、流石です。 [気になる点] アルとレオが一緒に戦うのに、自分がそこに居られない事に不満を漏らしそうな幼馴染がいる。 後で理不尽にアルに当たりそう、一段落してギ…
[一言] 登場するたびに思うけど、ウィリアム様ほんと人間離れしてるな。ゴードンも何かやってるけど、存在感が霞むなあ。やっぱり、ナニカサレテルことで本来の能力発揮できてないんじゃなかろうか。
[一言] タンバさんって盛り上げるの上手いよなぁ。
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