第三百二十二話 制空権確保
出涸らし皇子、10万部突破です!(σ≧▽≦)σ
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「敵は第六近衛騎士隊だ! 隼など竜には勝てん! 所詮は儀礼部隊! どちらが空を制する騎士団か思い知らせてやれ!」
敵の号令を聞き、ランベルトはニヤリと笑って部下たちに密集を命じた。
そのほうが火力が集中できるからだ。
「敵の陣形が乱れた隙を撃て!」
「隙などできるか!」
「できるさ」
そう言ってランベルトは自らも六一式を構えた。
挑発と受け取った敵の隊長は、部下と共に突撃を開始した。
しかし、その瞬間。
空からの雷撃で竜の翼を撃ち抜かれた。
「なにぃ!!??」
撃ち抜かれたのは隊長の竜だけではない。
先頭付近にいた飛竜たちは全員撃ち抜かれていた。
突撃状態の中、先頭が動きを乱したのでは陣形など組めない。
そしてその隙を逃す第六近衛騎士隊ではなかった。
「撃て!!」
号令を受けて六一式から多数の火球が発射された。
翼をやられ、どうにか飛んでいる飛竜では避けられない。
槍で一発受け止めても、焼石に水だった。
「くそぉぉぉぉぉ!!!!」
肩に火球を受け、敵の隊長が絶叫しながら下へと落ちていく。
助けに行こうにもその他の竜騎士も火球の雨を受けていた。
なんとか個別で離脱した竜騎士も、今度は機動性に優れる天隼に追われることになった。
「各自散開! 残敵を掃討しろ!」
指示を受け、続々と第六近衛騎士隊の隼騎士たちが竜騎士を狩って行く。
それはもはや作業だった。
完全に陣形を崩され、協力することもできない。個々の実力で乗り切ろうにも相手が悪すぎた。
「時間をかけるな! 急げ!」
部下たちを急かしつつ、ランベルトはゆっくりと自分の傍に降下してきたフィンに視線を向けた。
「ご苦労だったな。大したもんだ」
「いえ、敵が油断していただけです」
「それもあるだろうがな。それでも敵をあれだけ引き付けられるのはお前の実力だ。胸を張っていい」
「……作戦がよかっただけです。それに敵の主力はまだ残っていますから」
フィンの言葉にランベルトもうなずいた。
敵軍の情報は入っている。
連合王国が誇る精鋭竜騎士隊、黒竜騎士隊。
ウィリアムの直下部隊として、この竜騎士隊がいるはずだが姿は見えない。
気性が荒く、騎竜には向かないとされる黒竜。その黒竜を乗りこなす黒竜騎士隊の面々は竜騎士の中でも別格の精鋭だ。
彼らが出てくればそう簡単にはいかないことは明白だった。
「お前は下がっていろ」
「ですが、地上部隊も動いています」
「あんなところから矢を放ったところで当てられるか。気にする必要はない。敵主力に備えてお前は待機だ」
フィンに命令を下し、ランベルトは周囲を見渡す。
空に上がってきた竜騎士の大半は撃墜できた。
フィンの攻撃により、いまだ動けぬ竜騎士たちは悔しそうに空を見上げることしかできていない。
頃合いとみて、ランベルトは片手をあげる。
「制空権確保! このまま維持に移る!」
ランベルトの指示に従い、第六近衛騎士隊はぐるりと城の上空を囲う。
空中で描かれたのは円形の陣。
外からの侵入を許さぬ防陣だ。
六一式が外へ向けられ、全方位に対空砲火が可能となる。
そんな陣が完成したと同時に、空から大型の飛竜が降下し始めたのだった。
■■■
降下してきた大型飛竜が運んでいるのは巨大な籠。
それが兵糧だと察した城の兵士たちは大歓声をあげた。
「兵糧だ! 兵糧が来たぞ!」
「兵糧さえあればあんな奴ら怖くないぜ!」
「皇帝陛下は俺たちを見捨ててなかった!」
「皇帝陛下万歳! 帝国万歳!!」
そんな歓声の中、グライスナー侯爵は空を驚いたように見上げていた。
濃いめの茶色の髪を短く切り揃えた精悍な男性。それがハーゲン・フォン・グライスナー侯爵だった。
「フィンだけでなく……大型飛竜まで……あんな使い方をするとは……」
「お兄様の発案ではないですね」
そう隣で呟くのは濃い茶色の髪を束ねた少女。
凛とした雰囲気を身にまとった少女の名はカトリナ・フォン・グライスナー。
グライスナー侯爵家の長女にして、グライスナー侯爵家が抱える竜騎士隊の隊長でもある。
戦力にならないため、領地に置いてきたはずの面々がそれぞれ役割を持って、戦場に現れた。それにカトリナは驚かなかった。
将来的には可能かもしれないと思っていた運用法だったからだ。
ただ、大型飛竜による輸送には絶対的な護衛が必要であり、フィンとノーヴァのコンビが使える魔導杖は存在しなかった。
あくまで机上の空論だったはずのものが、こうして現実となっている。
現実とした者がいる。
奇抜な発想とは無縁の兄であるはずがない。
「カトリナお嬢様! 兵糧が到着しました! まだまだ来ます! フィンだけじゃありません! みんなが来てくれました!」
「ええ、そうね。最初の兵糧からいくつか食べ物を飛竜に与えてちょうだい。少し食べればあの子たちも飛べるはずだから」
グライスナー侯爵家の竜騎士たちは、籠城戦の中で数を減らしていた。
理由は敵の竜騎士が本場の竜騎士だったということと、そもそも食べる物が少なく、飛竜が万全でなかったからだ。
万全でない竜騎士がこれ以上、数を減らすのはまずいとレオは竜騎士たちが空にあがることを禁じた。それにより、敵の竜騎士が完全に自由を得たわけだが、どれだけ脅威だろうと竜騎士だけでは城を落とせない。
その指示にカトリナは大人しく従っていた。従うしかなかった。
それでも悔しさは忘れていなかった。
帝国の竜騎士としての矜持があったからだ。
「戦えないまでも、兵糧の誘導ぐらいはできるわ。時間との勝負よ。急ぎなさい」
「はい! 了解しました!」
報告に来た竜騎士は目に浮かんでいた涙を拭いて、走り去っていく。
涙は当然だった。食料は日に日になくなっていき、飛竜に満足に食事をさせることができなくなっていたからだ。
自分たちの食事を削って、飛竜たちの分を確保していたが、それにも限界がある。日に日に元気がなくなっていく愛竜を見て、心を痛ませない竜騎士など存在しない。
部下をまとめる立場でなければ、カトリナも安堵の涙を浮かべていただろう。
だが、それが許される立場ではない。
「空に上がるのか?」
「はい。できることをやります」
「任せてもよさそうだが?」
「……フィンが空で戦っているのに、自分は見上げているだけというわけにはいきません。全員同じ気持ちのはずです。私たちはずっとこの日を待っていたんです」
共に育ち、竜を育てた。
訓練し、何度も失敗した。
そのたびに励ましあってここまで来た。
技術では誰よりもフィンが優れていた。
ただ戦う術がなかった。フィンだって悔しかっただろうが、カトリナを含めた幼馴染全員が悔しかった。
いつか共に戦いたい。そう願ってきた。
それが今、叶おうとしている。
黙っているわけにはいかなかった。
「殿下へのご報告をお任せしてもよろしいですか?」
「わかった。行ってくるといい」
愛娘の行動をグライスナー侯爵は止めなかった。
戦局的にもそれが必要だったからだ。
兵糧を運ぶ大型飛竜は、籠を抱えて降下してきている。それは意外なほどに難易度が高く、お世辞にも素早いとはいいがたかった。
せっかく確保した制空権。それを維持できている間に輸送を終えたい。
ならば誘導する者たちが必要となる。
そんなことを思いながら、グライスナー侯爵はレオの下へと走った。
そしてレオがいるはずの指揮所に到着すると、グライスナー侯爵は予想外な言葉を聞かされた。
「グライスナー侯爵! 殿下からの命令です! 全軍の指揮を任せると!」
「なにぃ!? どういうことだ!? レオナルト殿下は!?」
「それが……空に上がると言われて……」
「殿下が……?」
レオはこの籠城戦で一度も空には上がらなかった。
指揮に全力を注いでいたからだ。
そのレオが空に上がった。
それは上がるほどの事態だということであり、レオが必要となるのが空だということだ。
「ほかに何か言っておられたか……?」
「僕の相手が来ると……」
「連合王国の竜王子……! 全軍に警戒を促せ! 敵の主力がやってくるぞ!!」
言いながらグライスナー侯爵はその指示が無意味だと理解していた。
戦いの舞台は空だ。
地上部隊も連動して動くだろうが、決定的な動きは空で起こる。だからレオは空に上がったのだ。
いくら地上で警戒したところで、空の相手はどうにもできない。
ましてや敵は名高い竜王子と直属の精鋭部隊。
「第六近衛騎士隊が負けるとも思えんが……」
確実に勝つという自信も抱けない。
そんな思いをグライスナー侯爵は封印して、毅然とした態度で兵糧の輸送に人員を割くように命じたのだった。