第三百六話 討伐後
「何やっとるんじゃ!? あっちを狙う冒険者なんてそうはおらんぞ!?」
「うるせぇな! 狙っちまったんだから仕方ねぇだろうが! クソジジイ!」
「何のために援護要員がいると思っておるんじゃ!? 酒を飲みすぎて基本的な連携を忘れたか!?」
「酒は関係ねぇだろうが! 大体、対応がおせぇんだよ!」
「わしがやらんでもシルバーがやってたわい!」
「他力本願してんじゃねぇ!」
ジャックとエゴールは城壁の上で醜い殴り合いを繰り広げている。
そのレベルの高さに城壁の上にいた多くの人間が、巻き込まれないように城壁から降りてしまっていた。
まったく……。
「いい加減にしろ。二人とも」
「もう終わったんだからわめくな! クソジジイ!」
「この馬鹿者が! 自分の懐が痛まんからといって開き直るな!」
「ああん!? ん……?」
エゴールの言葉にジャックが動きを止めて、その場で少し考え込む。
そうだ。ジャックは負けたとしても失うものはない。
ジャックが勝てば俺が報酬をやると言ったが、ノーネームはそこについては何も言っていない。
金にも困っていないとも言ってたし、あとから言い出すことはしないだろう。
一方、互いに援護をしていたリナレスとエゴールは二人で賭けをしていた。負けた以上、今回のエゴールの報酬はリナレスに移行する。しかし、ジャックは普通に報酬を貰える。
さっきの場面も、言い分的にはエゴールが正しい。城壁に俺とエゴールがいたのはさっきみたいな攻撃に対応するためだ。
ジャックが対応してしまったら、俺とエゴールがいる意味はない。エゴールとしては前線に出たほうがよかったという気分だろう。
そんなエゴールに対して、自分の懐が痛まないと知ったジャックはニヤリと笑う。
そして。
「ざまぁねぇな。クソジジイ」
「誰のせいじゃと思っておるんじゃ!?」
「勝手に賭けてたせいだろうが! 自業自得だ!」
「なんじゃと!? 酒仲間のよしみでお主についてやったというのに! お主! 酒を奢れ!」
「嫌に決まってんだろうが! 俺の金で買うのは俺の酒だ!」
「もう許せん!」
「かかってこいや!」
一度は止まった殴り合いが再度勃発してしまう。
そんな中、ノーネームとリナレスが城壁に戻ってきた。
「あらあら、仲間割れかしら? みっともないわよ?」
「仲間じゃねぇ!」
「こっちのセリフじゃ!」
リナレスの言葉に反応しつつも、二人は拳を出し続ける。
もうそこらの冒険者じゃ見ることもできない速さだ。
「……ジャック。質問があります」
「ああん?」
「隙ありじゃ!」
「ねぇよ!!」
ノーネームの言葉に反応したジャックに対して、エゴールは容赦なく右ストレートを繰り出した。
それに対して、ジャックも右ストレートを繰り出す。
どちらも狙いを外さず、互いの頬を殴って吹き飛ぶ。
「のわっ!?」
「やりやがったな!?」
どちらも再度距離を詰める気満々だったが、その間にノーネームが入った。
そしてジャックと正対する。
「質問があります」
「しつけぇな……なんだよ?」
「なぜ核を狙わなかったのですか?」
「知るか。体が動いただけだ」
「あなたほどの実力者なら咄嗟の体の反応も止められるはずです」
「……この街の酒が美味かった。それだけだ」
そう言うとジャックは舌打ちをしながら踵を返す。
どうやらもう喧嘩をする気はないらしい。
「万が一がある。一人はここに残ってほしいんだが?」
「俺が残る」
「いえ、私が残ります」
ジャックが申し出たあと、ノーネームがそう名乗り出た。
珍しいな。
「どういう風の吹き回しだ? 皇国に興味はないといっていたはずだが?」
「私が適任のはずです」
「それはそうだな。しかしお前にどんな得がある?」
「たまには冒険者らしいことをしようかと」
「ジャックとの間に差でも感じたか?」
「……想像に任せます」
そういうとノーネームは城壁を降りていく。
ジャックはずっと怪訝な表情を浮かべているが、ノーネームが残ることに反対ではなさそうだな。
「他に残る奴は?」
「おらんのぉ」
「いないわ」
「あいつが残るってんなら好きにさせるさ」
三人の意見を聞いた後、俺は冒険者ギルド本部への転移門を開いた。
そして俺たちはギルド本部へと戻ったのだった。
■■■
次の日。
俺はフィーネの部屋にいた。
「とりあえずこっち方面はどうにかなったな」
「皆さんのおかげですね」
「まぁ、問題を増やしてくれた気もするけどな」
俺がため息を吐くとフィーネは優しく微笑む。
しかし、その笑顔もすぐに真剣なものへ変わる。
「ですが、これで終わりではありません」
「そうだな。帝国の問題は何も解決してない。君は今日にも出発するのか?」
「はい。なるべく早く戻るようにします」
「無理をしなくていい。君の助けは十分すぎるほど受けた。ゆっくり戻ってきてくれ」
「そういうわけにはいきません。私が早く戻らないとオリビエ隊長も戻れませんから」
たしかにこの状況では近衛騎士隊長の存在は大事になってくる。
オリビエが帝都に戻れば、それだけ他の近衛騎士隊長が楽になる。やれることも増えるということだ。
しかし。
「それでも気を付けて戻るんだ。まぁオリビエなら心配ないと思うけどな」
「……交渉の出番はないとお考えですか?」
「……ゴードンに対しては無意味だろうな。もはや討つしか手はない」
「そう、ですか……」
フィーネは沈んだ表情を浮かべる。
ゴードンに対して情けをかけているわけじゃない。
俺かレオか。
どちらかが兄を手に掛けることに沈んでいるんだろう。
「……皇族の問題だ。皇族が始末をつけるのは当然だ」
「しかし、皇族も人です」
「そうだな。だから……俺とレオが戦場から帰る頃には帝都にいてくれ」
「はい。必ず」
フィーネは俺の手を優しく握ってそう答える。
しばし、その温もりとはお別れだ。
フィーネは帝都への帰路につくが、俺は他のSS級冒険者を送ったあとに帝都へ戻る。
フィーネたちを連れていくこともできるが、護衛も含めて全員を連れていくと魔力消費が大きい。
「それじゃあ、気を付けてな」
「はい。アル様も」
俺は手を離して、その場を去るために転移門を用意する。
あえてアル様といったのは、これからアルノルトとしての戦いになるからだ。
フィーネなりの心配なんだろう。
「……ご武運をお祈りしております」
「ああ、そうしてくれ。今回ばかりは……多くの血が流れるだろうからな」
「その血をできるだけ少なくできる方だと……私は信じています」
「無茶を言ってくれる。まぁ、頑張るよ」
苦笑しながら俺は転移してフィーネと別れたのだった。




