第二百九十一話 甲乙つけがたい
明日はコミカライズの第四話がアップされます!
一人二役の場面ですので是非みてください!!(・ω・)ノ
俺とノーネームが転移したのはダンジョンの外だった。
俺に腕を掴まれていたノーネームはすぐに俺の腕を振り払う。
「助けたというのに酷い扱いだな」
「助けてと言った覚えはありません」
「それは残念だ。報酬よりも優先したというのに」
言いながら転移門を開き、結界で守った魔導具たちを取りに戻る。
とりあえず貴重そうなのは自分で持ち、その他高値で売れそうなものを転移門を通して地上に放り投げていく。
それから少しして。
あらかた中の魔導具を移動させた後、俺は転移門から地上に戻った。
「意外だな。まだいたのか?」
「どこかに去ったほうがよかったですか? 私が姿をくらませたらあなたが困るのでは?」
「別に困らん。お前が評議会に協力しないだけでも十分だからな。万が一、俺と敵対するなら仮面の下の事実をギルド中に公表するだけだ」
「……それは脅しですか?」
「取り方は任せる。ただ、仮面を被っているということはバレたくないんじゃないか? 色素の薄い髪に病的に白い肌。とある亜人の特徴に合致するが、なぜかその亜人の最大の特徴は見えなかった」
亜人である吸血鬼最大の特徴は尖った犬歯だ。
先ほど、ノーネームの口元も見えたがその特徴が見えなかった。
一体、それはどういうことなのか?
「それ以上は言わず、考えないことです。シルバー」
「なるほど。ではこれも追及しないほうがいいか? お前は本当にノーネームか?」
「……どういう意味です?」
「聞いていた話と少し違うのでな。あのエゴール翁も含めて、多くのギルド関係者がノーネームのことを慎重で謎が多いと言っていた。だが、今回のことはとても慎重とは思えんし、俺に仮面を剥がされるような奴が謎が多いというのも納得いかん」
ノーネームとエゴールはそれなりに長い付き合いのはずだ。
そんなエゴールに謎が多いなんて言わせるなんて、とんでもない奴だ。あの老人は実力だけはSS級冒険者の中でも別格の化物だからな。
くわえて戦ってみた感じから、老練さが感じられなかった。どちらかといえば若さすら感じた。
聞いていたノーネームと実際のノーネームにはギャップがある。
「再度問おう。お前は本当にノーネームか?」
「……私がノーネームです」
「そうか」
これ以上は無駄か。
そう言い張るならこの話も終わりだ。
「わかった。当初の約束どおり、この魔導具たちは俺が貰う。査問に出席する気はあるか?」
「約束は約束です」
「律儀だな。俺が仮面を外されたらとても協力する気にはなれん」
「……そう思っているならなぜ私の仮面を狙ったんですか? 協力してほしかったのでは?」
「悪いな。俺は余裕を見せている相手から余裕を奪うのが好きなんだ」
仮面の中でニヤリと笑う。
それをノーネームは感じ取ったんだろう。
不機嫌そうに顔をそらした。
そんなノーネームに苦笑しつつ、俺はギルド本部への転移門を開いた。
「お前は他の奴らと違って、大人しくできるだろ? 査問の日までフィーネ嬢のところにいてくれ。また転移門を開いて迎えに来るのは面倒だ」
「言い方は不服ですが、いいでしょう。私も捜しに来られるのは面倒です」
そう言ってノーネームは転移門へと入ろうとする。だが、それを俺は呼び止めた。
「ちょっと待て」
「なんですか?」
「持っていくのを手伝え」
そう言いつつ、返事は待たずいくつかの魔導具をノーネームにおしつけた。
ノーネームはその行動に舌打ちをするが、何か言うだけ無駄だと思ったのか、無言でそれを持って転移門へと入っていったのだった。
「やっぱり若いな……」
長寿の亜人というのも考えられなくもない。彼らは長寿ゆえに人格形成にも人間よりも時間がかかることのほうが多い。もちろん個人差はあるが。
しかし、エゴールの評価を見るとそれは薄い気がする。たまたま俺を相手に油断したとも取れるが、冥神が俺に防がれた程度で動揺する奴を慎重で謎が多いとは言わないはずだ。
なにせ冥神は成長する魔剣。
俺に防がれたなら勇者にはまだ及ばない。もっと成長させなければいけない。
そう思考を切り替えられないなら長年、冥神を成長させることはできないはずだ。いちいち引きずってもしかたない。
ましてや全力攻撃の後で、俺は健在。反撃を警戒するのは歴戦の戦士なら当然のことだ。
そういうことを加味すると、導き出されるのは一つ。
「二代目か、もしくはもっと代を重ねているか」
二代目なら初代の目標を受け継いだのかもしれない。
もっと代を重ねているなら闇はより深い。
子孫か弟子か。どちらかで冥神の成長を続け、聖剣超え、勇者打倒を悲願としてきたということだ。
より強く、より先へ。それを支える何かがあるはずだ。
執念なのか怨念なのか。もしくは違う何かか。
「犬歯のない吸血鬼……」
嫌な予感がよぎる。
最大の特徴が一致しないのは、きっと血が薄いから。
ハーフかクォーターか、もしくはもっと薄いか。
もしも――もしも、だ。
より強くなるために、色んな血を取り込んでいるとしたら?
勇爵家はその血を守ってきた。それに対抗するために、強い血を取り込み、子孫に悲願を託してきたのだとしたら。
「まるで皇族だな」
馬鹿げた一族がまだあったとするなら、それは悲しむべきことだろう。真剣である分、より性質が悪い。
真剣さの分だけ、成果が出ている。出てしまっている。
目標に近づけているとわかっていれば、人は動けてしまうものだ。
否定はしない。馬鹿が正解を導くことなんていくらでもある。馬鹿だ馬鹿だと思っている方が間違っていることもいくらでもある。
だが、険しく果てしない道を歩くのはいかがなものだろうか。
ましてや子孫にまで歩かせるのは酷というものだと思うのは、間違っているだろうか。
大陸のすべての人を守りたい、救いたい。
大陸最強の勇者と聖剣を超えたい。
どちらが馬鹿げた目標だろうか?
「やれやれ……甲乙つけがたいな」
困ったもんだ。真剣な馬鹿が多いというのも。
そんな風に思いつつ、俺は転移門をくぐったのだった。