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第二百九十話 SS級対SS級・下




 


 俺が距離を取り終わった頃、光の柱が砕け散って中からノーネームが出てくる。

 いともたやすく破ってくれるもんだな。

 清々しさすら感じる。


「不意打ちの結界で足止めした程度で、何がわかったというんですか?」

「その結界よりも強力な結界を完全な不意打ちで発動したのにもかかわらず、アムスベルグの神童は逃れてみせた。俺は剣士じゃないから細かい剣技のことはわからないが……反応速度、直感、読み、危機察知能力。そういう点でお前はアムスベルグの神童には及ばない」



 同じ武器を持って戦った場合、差がつくのは身体能力や技術だ。

 エルナにしろ、ノーネームにしろ、身体能力や技術は大陸屈指なのは間違いない。多少の差はあるかもしれないが、勝負を分けるほどじゃない。

 だが、攻撃に対する反応はエルナのほうが優れている。これは勝負を分けるには十分な差だ。

 吸血鬼と戦った時、エルナは呪鎖結界から逃れてみせた。今のところ、俺の呪鎖結界が捕まえられなかったのはあいつだけだ。

 ましてやあの時、俺とエルナは共闘していた。不意を突かれたことは間違いない。なのに捕まらなかった。

 それがエルナの凄いところであり、脅威であるところだ。

 受け継がれてきた勇者の血によるものか、潜り抜けてきた厳しい鍛錬や実戦の成果なのか。どちらにせよ、戦闘モードのエルナに不意打ちはほぼ効かない。


「なるほど。防御という点で私は劣るということですね」

「剣技についてはエゴール翁に聞くんだな。そこまで差はないだろうがな」


 といっても、聖剣を持ったエルナと剣技勝負になることはあまりないだろう。

 小手先の技術など必要ないからだ。

 超強力な一撃同士の打ち合いになることは間違いない。

 それはノーネームもわかっているんだろう。防御で劣ると言われて、悔しがることはしない。大事なことではあるが、それよりも重要なことがあるからだ。


「では、攻撃も見てもらうとしましょう」


 そう言ってノーネームは冥神を上段に高く構えた。

 それに対して俺も防御の準備と転移の準備を開始する。

 間違いなく、この実験場は崩壊するだろうしな。

 そんな風に思っていると冥神の魔力がどんどん高まっていく。

 周囲から魔力を集めているという感じじゃない。冥神の内側から魔力が溢れ出てきているといった感じだ。

 その濃厚な威圧感は聖剣にも負けていない。

 その力は四宝聖具にも匹敵することは間違いない。

 だが。


「大したものだな。長年の研鑽の集大成。人の執念を感じるよ。しかしな、聖剣は四宝聖具の中でも別格。星が生み出した最強武器だ。その程度じゃ勝てんぞ?」

「言ってくれますね。ですが、まだまだ全力じゃありませんから」


 そう言って冥神から黒い影があふれ出す。それはノーネームの周囲を取り巻くと、やがては冥剣へと集束していく。

 一点集中の攻撃か。

 おそらく冥神の最高出力。

 防ぐのは容易ではない。

 だからといって喰らうわけにもいかない。


≪その盾は天を覆う神盾・叢雲のごとく天空を守護する・全天に普く存在し霞の如く消えていく・すべてを包みすべてを覆う・それは守護の代名詞・すべての弱者のために創られた・ゆえに神すら破ること能わず・ゆえにその盾は無敗無敵・その名は――ファーマメント・イージス≫


 詠唱を終えると、俺の前に雲を纏った蒼と銀の大盾が出現した。

 古代魔法にはいくつも防御魔法が存在するが、イージスと名のつく魔法は高い防御力を誇る。そのイージスの中でも最硬の強度を持つのがこのファーマメント・イージスだ。

 海竜レヴィアターノのブレスを受け止めたイージスよりもなお強力で、俺が使える防御魔法の中では三本の指に入る。

 聖剣を防げるかどうかは怪しいところだが、冥神ならば防げるはずだ。

 俺の直感が告げている。冥神は聖剣には及ばない。

 それはつまり、ノーネームは俺の幼馴染には及ばないということだ。


「さすがはシルバー。遠慮なく全力を出せます!」


 そういうと冥神が黒く輝く。

 集束していた黒い影が出口を求めて暴れているのがよくわかる。


冥神ディス・パテルよ、我が声を聴け――汝は冥府の宝剣・影を纏いてすべてを滅する・汝の主が今、冥滅を望む!」


 ノーネームが上段から大きく冥神を振り下ろす。

 そして。


「冥影集斬!!」


 黒い影の奔流が俺に向かってくる。

 それを受け止めるのは蒼と銀の盾。

 黒い影の奔流は盾を突き破ろうと直進してくるが、蒼と銀の盾はブレることなくその場に存在し続ける。

 激突はいつまでも続く。しかし、結果は変わらない。

 黒い影の奔流が蒼と銀の盾を貫くことはない。

 やがて奔流は徐々に勢いを無くしていく。

 その中でも盾は輝きを失わず、不動の姿勢を崩さない。

 しばらくして奔流は消え去ったが、盾はビクともしていなかった。聖剣が相手ならこうはいかなかっただろう。間違いなくヒビが入り、最悪押し負けていた。


「お前は勇者には及ばない。冥神も聖剣には及ばない。それが俺の答えだ、ノーネーム」

「……」


 盾は消え去り、俺の前には冥神を構えたまま黙っているノーネームのみとなる。

 さすがにショックだったのだろうか。明らかに今までと雰囲気が違う。

 動揺が手に取るように伝わってきた。

 そんなノーネームには悪いが、俺の仕込みが発動する。


「ああ、そうそう。最初に言ったとおり、文句は言わないでくれ?」

「なんの……!?」


 ノーネームは咄嗟に体を捻る。

 突然、光弾がノーネームに向かってきたからだ。

 ノーネームを足止めするために放った光弾のいくつかは、バレないように隠していた。

 動揺していたうえに、全力の一撃を放ったあとのせいか、ノーネームの反応が少し遅れる。

 それを見逃さず、俺は光弾を操作する。

 ノーネームの仮面を掠らせるような軌道を取ったのだ。

 狙い通り、光弾はノーネームの仮面に掠り、その仮面をずらす。

 多少のことではビクともしない仮面だろうが、相手は俺の光弾だ。仮面をずらすくらいの力はある。


「ほう? これは驚いた」

「っっ!!??」


 仮面がズレてノーネームの素顔が少しだけ垣間見えた。

 顔の一部しか見えないが、白い肌、紅い瞳、そして銀色の髪。

 ハッとするほど美しい少女の顔がそこにはあった。

 半世紀以上もSS級冒険者をやっているのに、いまだに若々しいのは種族由来なのか、それとも違う理由なのか。

 気にはなったが、聞いても答えてはくれないだろう。

 仮面を戻したノーネームが俺に敵意を向けるが、時間切れだった。


「潮時だな」


 俺の言葉と同時に地下実験場は崩壊を開始したのだった。

 せっかくの報酬が崩落に巻き込まれても困るため、俺は魔道具が眠る扉付近を結界で囲い、自分は転移門を準備する。

 そしてノーネームに肉薄すると、その腕を掴んだ。


「なにを!?」

「脱出に決まっているだろ?」


 馬鹿なことを聞くなと鼻で笑いながら、俺はノーネームと共に転移門に入ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖剣を越えるって魔王の末裔辺りが目指しそうな目標だよなあ
[一言] シルバー、有言実行(笑)
[一言] 外見だけだと典型的な吸血鬼の容姿だけど……果たして?
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