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第二百八十八話 話し合いの結果

なんだか、出涸らし皇子の更新再開を知らない読者さんが結構いるみたいです!

みんな拡散拡散(・ω・)ノ




 丁寧な口調。だが、声は高くもなく、低くもない。男とも女とも取れる。

 声はもちろん、雰囲気から性別を判別することもできない。俺の仮面と同じ効果があるんだろう。

 顔も名前も性別も年齢も、あらゆることが不明なのがノーネームという人物だ。


「用件か。言わなくても分かっているんじゃないか?」

「まるで私が仕組んだことのような言い方ですね。あなたの査問については私はノータッチですよ。評議会の方々が諸外国からの圧力に屈しただけです」

「査問については、か」

「ええ。お察しだと思いますが、霊亀が出現したときは評議会に文句を言いました。あなたばかり手柄をあげるのは如何なものか、みたいな感じですが」

「やっぱりお前だったか」

「私的にはあなたが帝国に愛想を尽かし、S級が討伐に失敗した霊亀を私が討伐して、私が新たな帝国のSS級冒険者というシナリオを描いていたんですが、見事にひっくり返されてしまいました」


 さすがSS級冒険者というべきだろうか。

 俺を嵌めたというのに悪びれる様子が欠片も感じられない。まるで他人事だ。


「それは残念だったな」

「ええ、残念でした。正直、もう皇国は潮時ですから」

「お前が見つけたダンジョンを即座に攻略するからだろう」

「ダンジョンが一番効率がいいので。大抵のモンスターは私の魔剣の力を感じると逃げてしまうんです。ダンジョンなら逃げ場はありませんから」

「皇国の価値はダンジョンだけか。皇国の民が聞いたら泣きそうだな」

「泣けばいいと私は思っていますよ。個人的に亜人差別の皇国は嫌いなので」

「ほう? お前から個人的な意見が出るとは驚いたぞ。それならなぜ皇国を長らく拠点としてきた?」


 俺の言葉にノーネームは軽く肩をすくめておどけてみせた。

 それが演技なのか素なのか。俺にも見分けがつかない。そういう見分けは得意なんだがな。


「私にだって個人的意見はありますよ。ただ、個人的意見よりも目的のほうが優先順位は上ということです。私の魔剣が強くなればなるほど、ダンジョンは必要になる。そのダンジョンを見つけることに積極的で、冒険者にも協力的な国家が皇国だった。それだけです」

「そして必要じゃなくなったから鞍替えすると?」

「ええ。帝国は良い国と聞いてますし、未発掘のダンジョンも多いと予想されますから。ただ問題なのはSS級冒険者が二人も同じ国にいることをギルドは容認しないということです」

「それはそうだろうな。帝国も容認しないだろ。薬も過ぎれば毒となる」


 モンスターに対処する冒険者は国にとっては薬だ。SS級冒険者はその中でも劇薬といえるだろう。それが二人もなんてことになれば、どんな毒よりも強力な劇毒になりかねない。

 だからノーネームが望む結果を得るためには、俺を排除するしかない。


「その通り。だから私が帝国に行くにはあなたが邪魔で、あなたは今、ギルド評議会に目をつけられている。私はそれなりにギルド評議会からは気に入られていますから、あなたが査問にかけられた後、帝国に行きたいと言えば通るとみてます」

「帝国が認めると思うのか?」

「認めますよ。内外に争いを抱えているのに、SS級冒険者がいなくなればモンスターも警戒しなければいけなくなる。帝国は最近、モンスター被害が多いですからね。そして帝国の冒険者の質は低い。対モンスターについてはあなたに依存しているといってもいい」


 だから認めます。

 ノーネームはそう告げた。

 なるほど。大したもんだ。そこまで考えて動いているとは恐れ入る。

 だが。


「だそうだが? フィーネ嬢」

「はい。残念ながら、帝国はあなたのことを受け入れません。ノーネーム様」

「その権限があなたにあるのですか? フィーネ・フォン・クライネルト嬢」

「ご存じでしたか」

「もちろん。滅多にみることない美女に蒼い鴎の髪飾り。気づかないわけがない。しかし、残念です。あなたはシルバーの味方のようですね?」

「私は帝国を代表し、大使としてギルド本部に派遣されました。その私の考えは帝国の総意です。シルバー様は帝国のために全力を尽くしてくれました。査問など認められませんし、それに乗じてシルバー様にとって代わろうとするなど認めません」

「ほう?」


 貴族の令嬢。

 そうフィーネを見ていただろうノーネームだが、フィーネの返しを受けて見方を変えたようだ。

 フィーネはその知名度だけで大使に選ばれたわけではない。

 大使として天性の素質を持っており、これまで多くの暗躍に付き合ってきた経験もある。

 諸外国の外務大臣とだって渡り合うだろう。


「認めないというと、どうするおつもりですか? 貴国は大変な状況だと思いますが?」

「そのとおりです。しかし、大変な状況にした一因はあなたにもあります」

「それは申し訳ない。それは働きで返すつもりです」

「結構です。シルバー様がもしも査問を受け、帝国から離れることになったとして、後釜となるSS級冒険者はすでに帝国内にいます」

「……エゴール翁ですか。あの老人が帝国に未だいるとは驚きですね。しかし、あの老人はジッとできない性分です。長く帝国にはいないかと」

「構いません。内乱鎮圧と諸外国の迎撃。これが終わるまで居ていただければ、その後はシルバー様にもう一度帝国に戻っていただきます。諸外国の圧力に屈する評議会なら、諸外国の侵攻を退けた帝国の圧力にも屈するはずですから」


 エゴールはソニアのためにドワーフの里にいる。

 少なくともゴードンの反乱鎮圧まではほぼ確定で帝国にいる。その後どうなるかはあの人の気分次第だが、そこまで居てくれれば問題ないというフィーネの意見は正しい。

 そこまで持ちこたえれば、帝国は戦勝国として各国にギルド評議会への圧力をやめるように伝えることができる。そうなればギルド評議会は俺に対して何か言う根拠を失う。


「嫌われたものですね」

「あなたの目的が目的ですので」

「……私は聖剣を超える魔剣を作り上げたいだけです」

「それは勇者を超えることにほかならず、勇者は我が国の象徴です。あなたがその目的を抱く限り、帝国があなたに協力することはあり得ません」

「なるほど。大した御令嬢ですね。ちなみにシルバー。私のところに来たということは、ほかのSS級冒険者の協力は取り付けているんですよね?」

「もちろんだ。お前は一番、俺に協力しなそうだからな」

「私の目的のためです。あなた個人を嫌っているわけじゃありません。しかし、わかりました。査問については協力しましょう。私がギルド評議会側についたところで、SS級冒険者が四人も揃えば査問はひっくり返される。私にできるのは私を贔屓する評議員を数名庇うことくらいでしょうが……彼らのために不利益を被るのはごめんです。それで私の目的が妨げられては元も子もない」


 そう言ってノーネームは降参と言わんばかりに両手をあげる。

 フィーネを連れてきたことで、帝国がノーネームを受け入れないことをより強く思い知らせることができた。これで俺と反目する理由はノーネームにはない。


「帝国は諦めて、他の国に行け」

「そうすることにします。しかし、私が帝国行きを望んだのはダンジョンだけではありません」

「ほう?」

「私が帝国行きを望んだのは現状の確認です。我が魔剣は今、聖剣とどれほどの差があるのか。それを私は知りたかった」

「……勇爵家の神童に喧嘩を売るつもりだったのか?」

「まさか。ただ、この目で聖剣を見てみたかっただけです。しかし、あなたはその目で聖剣を見ている。あなたほどの実力者なら私の魔剣と聖剣を比べることもできるはず。なので、私が協力する対価はあなたとの勝負です。シルバー」


 そう言ってノーネームは俺に漆黒の魔剣・冥神ディス・パテルを突きつけた。

 結局、こうなるのか……。




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― 新着の感想 ―
[一言] せっかく長期睡眠したのに…ここで、勇者に近づこうと半世紀近くもコツコツと魔剣を育成していたSS級冒険者との戦闘…。 いっそ、エルナが聖剣を使うタイミングに出会えれば転移で見物できるように……
[一言] 「更新再開を知らない読者さんが~」 休載期間の間隔が長くなってるので仕方ないですね。 面白いだけに、 チェックしてガッカリを何度も繰り返すのはキツイ。
[一言] 協力の対価としてはちと弱いかな? 帝国内の未探索ダンジョンの幾つかくらいは交渉のテーブルに乗せると思ってた
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