第二百七十六話 目覚め
お待たせしました。今日から第八部開始です(`・ω・´)ゞ
「はぁ……まったく。考えうる限り最悪の展開だ」
部屋の中でそう俺は愚痴る。
そんな俺に対して、フィーネがニコニコと笑う。
「そうでしょうか? 私は楽しみです」
「悪いことは言わないから、その楽しみは今すぐ捨てたほうがいい。〝奴ら〟は君が思うような連中じゃない。大陸屈指の実力者であり、同時に大陸屈指の性格破綻者どもだ」
「ずいぶんな評価ですね。ちなみにその括りにあなたは入りますか?」
「俺はまともだ。あいつらと比べたら常識人だと思われる程度には、な」
「なるほど。それについては会ってから考えますね」
クスクスと笑いながらフィーネは答える。
困った人だと言わんばかりの態度に、俺は仮面の中で顔をしかめる。
くそっ、だから他の奴らと関わるのは嫌なんだ。同じ階級というだけで、同類のように扱われる。
非常に不愉快だ。
「いいかい? フィーネ。同じSS級冒険者だからといって、俺をあいつらと同列に置かないでくれ。一緒にされるのは心外だ」
「大陸に五人しかいないSS級冒険者。多少、性格に難があるのは仕方ないのでは? 突出した方は普通の人からは変わり者に見えるものですから」
「俺はごくごく普通だ。普通人だ」
はいはいと言わんばかりの笑みをフィーネは浮かべて、俺の言葉を受け流す。
なぜだ……。
もう、何もかもギルド本部の馬鹿どものせいだ。
シルバーへの査問なんて馬鹿なことを言い出し、それをきっかけとしてSS級冒険者に介入しようだなんて愚かな考えを抱くから。
「奴らの手を借りる羽目になるなんて……」
呟きながら俺は転移門を開く。
査問対象である俺だけでは押し切られかねない。
SS級冒険者を集めて連れてくる。それが今の目的なのだ。
落ち込む俺の後ろには、終始笑顔のフィーネがいる。
その笑顔に元気をもらい、俺は転移門に歩き出したのだった。
■■■
深い闇の中。
いつまでも沈み続けていた俺の意識は、突然覚醒した。
「うっ……」
待っていたのは眩しい光と渇きだった。
ひどく喉が渇く。
目を薄っすらと開けて、手で水を探す。
すると手に水が差しだされた。
それを勢いよく飲み干し、それからようやく俺は周りを確認した。
「おはようございます、アルノルト様。良いお目覚めですかな?」
「……セバスか……」
いつも通りな俺の執事は、ベッドの横で涼し気な表情で馬鹿なことを聞いてきた。
良い目覚めなわけないだろうに。
「どれぐらい寝ていた……?」
「一か月半といったところですな。周りにはザンドラ殿下の部屋を漁ったときに呪いにかかったと説明しています。混乱が大きかったので疑念は抱かれていません」
「そうか……そんな寝ていたか……」
「積もり積もった疲労とも言えますからな」
セバスの言葉に俺は頷く。
帝位争いに参加すると決めてから、魔力の消費の連続だった。回復が追い付かず、徹底的に使った結果がこれだ。いずれこうなるだろうとは思ったが、先延ばしにしたせいか長かったな。
「状況は?」
「では帝国内部の情勢から。撤退したゴードン殿下は帝国北部の三分の一を制圧し、そこを拠点として帝国北部全体を取りにかかりました。それに対して皇帝陛下はレオナルト様を総大将として軍を派遣、現在は睨みあいを続けております」
「睨みあい? 一気に制圧しなかったのか?」
「皇帝陛下は信用できる軍以外は使わないと決めておられるようです」
「なるほど……」
帝国軍の規模を考えれば、ゴードンの残存戦力くらいなら潰そうと思えば潰せる。しかし、誰がゴードンと通じているかわからない以上は使いづらいということか。
裏切られたらたまったもんじゃないってことだろうが……。
「信用できる軍がそこまで少ないとは思えないが?」
「はい。大半は西部国境に回されています。王国軍は本格的に侵攻を開始し、それを西部国境にて食い止めています。そちらには聖女レティシア様が向かい、自らの生存と王国には大義がないことを説いております。その護衛としてエルナ様も西部に」
「王国は日和見を決めると思ったが……ゴードンが反乱に失敗し、シルバーに脅されたにも関わらず攻めてきたか。強気だな」
「はい、そこについては意外でした。その他の国境ですが、東部国境にはリーゼロッテ殿下がお戻りになり、北部国境は連合王国と藩国の猛攻により、一部国境を突破されました。これによりゴードン殿下は両国の支援を受けられています」
「北部国境が突破された? 奇襲を止めたのにか?」
藩国と連合王国の奇襲が成功していたのならば、北部国境が突破されても不思議ではない。しかし、奴らの動きは一度止めた。突破は困難なはずだが。
「当初は敵軍を跳ね除けていたのですが、ゴードン殿下の配下が北部国境の砦将を刺し、そこで指揮系統が乱れたところを突破されたそうです」
「そうか……内側から崩されたか」
「はい。砦将はその後、無理をして指揮を取り、敵軍に多大な損害を与えましたが……その無理のせいで命を落としました」
「国境を任された責任か……」
「おかげで北部国境の守備ラインは一部を除き、いまだに保てています。藩国と連合王国の軍が雪崩れ込んできていれば、陛下は全軍を投入しなければいけなかったでしょう」
「そして裏切りが発生し、疑心暗鬼が広がる。大した戦果だが、命を落としちゃしょうがない。今回の原因は皇族だ。砦将が死ぬことはなかった」
国境守備軍を任せられる将軍は少ない。得た戦果は大きいが、失った者を考えればメリットは薄い。
惜しい人を亡くしたな。
しかし、惜しんでばかりもいられない。
「状況は理解した。だが、終わりじゃないんだろ?」
「はい。冒険者ギルド本部が諸外国からの抗議を受けて、シルバ―に対して査問会議をすることを決定しました。それに対して、帝国からはフィーネ様がギルド本部に大使として赴いています」
「シルバーを弁護するためか」
「表向きは」
「裏の目的は?」
「時間稼ぎです。あなたが目覚めなければシルバーは姿を現さない。姿を現さないということは、やましいことがあるのだと判断されかねません」
「良い判断だ。フィーネの考えか?」
「はい」
フィーネらしい気の利いた動きだ。
だが、そうなると、俺がするべきことは限定される。
「まずはシルバーの問題を片づけないとか」
「それがよろしいかと。北部の戦況はどちらも決め手に欠けます。しばらく膠着状態でしょう」
「二足のわらじは履けないからな。俺が起きたことは伏せて、シルバーとして行動するか。シルバーの正体に気づかれても困るからな」
「そうですな。帝都での一連の動きであなたに対する評価は上がっています。今ならシルバーと関連づける者もいるかもしれません」
「それなら誤魔化しは任せてもいいか? 一応、幻術は残していく」
「かしこまりました。それと、最後に報告が」
「まだあるのか……」
寝ていた俺が悪いとはいえ、報告が多すぎて嫌になる。
そんな風に思っていると、セバスがとんでもないことを告げた。
「ザンドラ殿下に対する刑が執行されました。ザンドラ殿下は帝毒酒を飲み、苦しむ姿は帝都の民に公開されました」
「なに……?」
「陛下はアルノルト様が起きるまで待つつもりだったのですが、帝都の民の不満が膨れ上がっていましたので……」
「今……何日目だ? もう死んだのか?」
「今日が最終日です」
それはつまり、今日、この日。
ザンドラが死ぬということだった。




