第二百七十二話 不遜なる者を滅さんがために
12時更新分。
今年中には終わる! はず!!(/・ω・)/
ドラゴンという規格外。
その登場に帝国の者も驚いたが、それ以外にも驚く者がいた。
「はっはっはっはっ!!!! まさか守護聖竜まで貸し出してくれるとはな! さすがは連合王国だ! これで勝ったぞ!! ウィリアム!!」
「私は……聞いていない」
目の前に現れた二体のドラゴンは間違いなく連合王国の守護聖竜。
赤の聖竜の名はブラッド。緑の聖竜の名はリーフ。
どちらもウィリアムが幼い頃から触れ合ってきた老竜だ。
竜には幼竜、成竜、老竜のランクがある。長い寿命を持つ竜にとって、老竜になるのは全盛期を迎えることを意味する。
そして長い寿命の中で、二体は長く連合王国と共にあった。
王の要請ならば他国に出向くこともありえるだろう。
だが、そんなことをウィリアムは聞いていなかった。
「ウィリアム殿下! ご無事でしたか!」
「なぜ連れてきた!? 誰の指示だ!?」
ウィリアムは二体と共に現れた竜騎士にそう問いただした。
二体を他国に向かわせるなど王にしかできない。
しかし、王が独断でそこまでするとは思えなかった。
「え? 国王陛下の指示ですが……帝都の防衛に使うようにと。それまでは藩国で待機していたのですが」
「なに……? なぜその指示で今連れてきた!!??」
「いえ、それが……もうじき帝都は占領可能になるという情報が入ったので……」
「どこからの情報だ……? 私は何も指示していないぞ!!」
「そ、そんなはずはありません! 藩国に駐在している皇国の大使が、ウィリアム殿下からそう言われたと! それで皇国は連合王国につく準備をしていると!」
「皇国の大使と連絡など取りあってはいない!!」
「え……?」
嵌められた。
誰が、どうやって。そんなことはどうでもよかった。
今、このタイミングで竜という規格外が来たことのほうが問題だった。
「すぐに撤退させろ……」
「はい? せっかく連れてきたのに使わないのですか?」
「使えるわけがなかろう! 早く撤退せよ! こちらはまだ帝都の占領を完了していない! いまだに帝都を攻める側だ! ゴードンが玉座に座り、要請という形をとるならまだしも! 今、竜を使えば冒険者を敵に回す!!」
「ど、どうしてそこまで怒っておられるのですか? 我が国の聖竜は冒険者ギルドすら恐れたほどです。出てきたところで叩き潰せばよいではありませんか」
無知。
そこを突かれた。
ウィリアムは歯軋りして、強い怒りを感じた。
連合王国は聖竜に守られた国ゆえ、聖竜への自信は強い。冒険者ギルドが聖竜を容認したのも、連合王国には聖竜を恐れたように映った。
そもそも連合王国は島国。竜に勝るモンスターが現れることもない。ゆえに連合王国では聖竜は最強の生物という認識があった。
だからこそ、冒険者ギルドが誇る五人のSS級冒険者。大陸屈指の実力者でも聖竜は討伐できない。そんな思い込みを抱いていた。
無知故に自信過剰。他国の大使の言葉を信じ込み、まんまと国境を越えるような行為をしたのは、気が大きくなっていたからに他ならない。
何が来ても倒せる。そう思っているからこそ、確認もせずにつれてきた。
しかし、ウィリアムは知っていた。
「SS級冒険者は……古竜すら討伐する……」
老竜と古竜は同じ竜ではあるが、明確に違いがある。
太古の昔、この地の竜は古竜のみだった。やがて時代が下り、古竜の子孫の中で時代に適応し、長い休眠期を取らずに済む竜が現れた。それが今の竜だ。
古竜と呼ばれる竜は太古の血筋を色濃く残した強き竜。老竜とは格が違う。
竜の王族ともいうべきが古竜なのだ。
それを討伐することで名を挙げたSS級冒険者がいる。
帝都を拠点とし、帝都から帝国全土を自在に移動する魔導師。
これまで姿を現さなかったのは、自分がバランスブレイカーと自覚しているからだ。
しかし、連合王国は自国の守護聖竜を侵略目的で使った。実際はそうでなかったとしても、そう見える構図ができてしまった。
「どうした? ウィリアム。何を恐れる?」
「恐れるに決まっている! 銀滅の魔導師がこの帝都にはいるのだぞ!?」
「奴は手を出せん。守護聖竜はギルド本部によって討伐対象から外れているではないか!」
「そんなことを気にするわけがないだろう! 王国に侵攻したとき! 私はSS級冒険者に会っている!! 断言しよう! 奴らはギルド本部が決めた取り決めなど気にはしない!! 奴らの中にあるのはただ一つ! 民のためという基本原則だけだ!!」
民の生活を脅かすモンスターはすべて敵。
そして今、帝都を脅かす竜が現れた。
動かないわけがない。
するとウィリアムは上空に嫌な気配を感じた。
言い知れぬ圧迫感。体は強張り、震え始める。
自らが乗る竜もどこか動揺し始めていた。
そして。
「来るぞ……!」
雲を裂き、銀の光を纏って黒い魔導師が姿を見せた。
まるで神のようではないか。
そう思いながらウィリアムはボロボロと自分の心が折れていくのを感じた。
■■■
正直、ミアが何もしなければ敵に幻術を見せて、ちょっと介入しようかと思っていたのだが、それをしなくて済んで安心していた。
だから竜が現れるというとんでも展開には驚いている。
とはいえ、驚いてばかりもいられない。竜が現れた段階で俺はクライネルト公爵家の騎士たちとフィーネたちに結界を張った。
帝都の中層では反乱軍は敗走し、ほとんど戦いは起きていない。唯一、エルナとラファエルが激しい戦いを繰り広げているが、エルナなら問題ないだろう。
城もアリーダを筆頭として、エストマン将軍とその部下たちが制圧しつつある。
戦いは帝都の外へ移った。
そして只人たちの戦いから、規格外の戦いへと移行した。
「連合王国も連携が取れてないみたいだな」
そう言って俺は転移門を開き、その中に手を入れる。
繋がっているのは俺の爺さんのコレクション箱。この銀仮面もそこにあった。
魔導師ならば涎が止まらない秘蔵コレクションの数々。そこから俺は一つの腕輪を取り出した。
そこにはいくつもの宝玉が取り付けられていた。
霊亀戦からあまり時間が経っていない。魔力が完璧に回復したわけでもないのに、魔奥公団の支部を潰し、この反乱でもかなり魔力を使った。
正直、魔力はだいぶきつい。
空という表現はあくまで表現だ。人間は限界を超えて魔力を振り絞れる生物でもある。
帝国南部でレオがそうしたように、俺もやろうと思えばそれができる。しかし、それをするとしばらく動けない。
シルバーとして動けなくなるのは好ましくない。だが、今は魔力をガンガン使う場面だ。
せっかくの参戦機会。
逃すのは惜しい。それにやりたいこともある。
だから俺は魔道具に頼ることにした。
その腕輪は魔力消費を肩代わりしてくれる。通常の魔導師なら強力な補助アイテムになる。とはいえ、俺が使えば使い捨てだろう。
爺さんに怒られるから使いたくはないが、他の手を考える時間もない。
「さて、閉幕といこうか」
そう言って俺は腕輪をつけると詠唱を開始した。
≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫
≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫
≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫
≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫
≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――≫
詠唱は終わる。
あとは発動するだけという状態で俺はゆっくりと降下を開始したのだった。