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第二百六十六話 見守る影

12時更新分。

活動報告に二巻特典SSの簡単なあらすじを書きます。

SSの内容が気になるよ、という方は是非チェックしてください!


 

 



「リーゼ姉様!!」


 クリスタはリーゼが来たのを見て、思わずそう叫んだ。

 しかし、戦場の喧騒の中では声は届かない。


「殿下! すぐに離脱します。ついてきてください!」


 アルとの合流を諦め、クリスタの傍に戻ってきていたラースは、今の戦況でクリスタがここに留まる危険性をよくわかっていた。

 それゆえ、すぐに離脱を提案した。


「でも、アル兄様が……」

「あの方の傍にはリーゼロッテ元帥がいます! 上手く離脱するでしょう! 我々のほうが問題です!」

「……わかった。離脱する」

「ではこちらへ!」


 そう言ってラースは数名の部下と共に、クリスタを戦場から離脱させるために動き始める。

 すでに乱戦状態に近いため、ネルベ・リッターの多くも散り散りになっていた。

 時間をかければ再集結もできるだろうが、それをするのはあまりにも危険だった。

 なにせ、リーゼという猛将に対して真っ向勝負を危険と判断した場合、真っ先に狙われるのはクリスタだからだ。

 そしてその判断は間違ってはいなかった。


「いたぞ! クリスタ殿下だ! 捕らえろ!」

「ちっ! もう来たか!! お早く!!」


 先陣を切ってきたのは武闘派の将軍だった。

 ラースはその将軍の動きを止め、部下と共にクリスタを先に急がせる。

 クリスタは足手まといにならないように、必死で走り続けた。

 だが、そんなクリスタの足に何かが絡みついた。


「きゃっ!」


 思わず悲鳴をあげて、クリスタはその場で転んでしまう。

 足のほうを見れば、地面から木の根が生えてきており、それがクリスタの右足に絡みついていた。


「魔導師だ!」


 ネルベ・リッターは地面に手を当てている魔導師を見つける。

 ザンドラ配下の魔導師だ。

 ネルベ・リッターの隊員は、すぐに木の根を斬ってクリスタを立たせるがそうしている間に木の根はあちこちから生えてきていた。

 クリスタを狙うその木の根を斬るだけで手いっぱいになり、移動ができない。


「殿下! 走れますか!」

「なんとか……」


 クリスタは顔をしかめながら答える。

 本当は右足が痛くて仕方なかった。

 木の根が絡んだときに捻ったのだ。

 しかし、ここで弱音は吐けない。だからクリスタは痛みを我慢し、右足をひきずりながら走り始める。

 だが、木の根を自在に操る魔導師を相手にそのスピードでは逃げ切れなかった。

 一本の木の根がクリスタの体に巻き付き、クリスタを引っ張る。

 なんとかこらえようとするが、クリスタの抵抗ではたかが知れていた。

 一瞬、クリスタの体が浮く。

 まずい。クリスタがそう思って、誰にということもなく右手を伸ばす。

 しかし、ネルベ・リッターの隊員たちは木の根と周囲の敵で手いっぱいだった。

 クリスタの手を掴む者は誰もいない。

 そう思えたが、横から小さな手がクリスタの手を掴んだ。


「うぉぉぉぉぉ!!!! ど根性!!!!」

「リタ!?」


 突然現れたのはあちこちに傷のできたリタだった。

 クリスタを連れていかせまいとリタは両手でクリスタの腕を掴み、その場でこらえる。 


「頑張れ! クーちゃん!! リタも頑張る!」

「うん!」


 子供二人の抵抗。

 木の根一本では足りないと判断した魔導師は、ほかの木の根を追加しようとする。

 だが、そのせいで自分の横でユラリと現れた男に気づかなかった。


「なにを……しておるかぁぁぁぁ!!!!」

「なっ!?」


 魔導師の傍に現れたのはトラウだった。

 トラウは持っていた剣を魔導師の体に突き刺すと、飛んでいけとばかりにそのまま蹴り飛ばす。

 しかし、そのせいでトラウもふらつく。


「く、クラクラするであります……」

「大きな声は禁止といったはずです! トラウゴット殿下! 血が足りていないんですから!」


 そうトラウを注意したのはウェンディだった。

 トラウとリタはウェンディの幻術で、戦場で邪魔されずにクリスタの下までたどり着いたのだった。

 その周りには護衛であるライフアイゼン兄弟たちもいた。

 ライフアイゼン兄弟は興奮して、大きな声と運動をしてしまい、ふらつくトラウを支える。


「殿下、お気を確かに!」

「目が回るであります……」

「自業自得です! 死にかけたのに無理をするからですよ!」

「ロリフに怒られたであります……」


 落ち込んだような台詞ではあるが、トラウの顔にはなぜだか満足そうな笑みが浮かべられていた。

 ウェンディは木の根から解放されたクリスタの下へ向かうと、その足に簡易の治癒魔法をかける。


「痛みを軽減させる魔法です」

「ありがとう、ウェンディ。リタやトラウ兄上もウェンディが?」

「応急処置だけです。本来なら動いてほしくはないんですが、行くといって聞かなく……どちらも相当な怪我なのですが」

「リタは平気! 痛くない! 騎士だから!」

「またそんなことを……」


 ウェンディは呆れつつ、クリスタを立たせる。

 そして幻術でクリスタを離脱させようとするが、幻術が上手く発動しなかった。


「魔力が……」

「大丈夫。無理しないで」

「クリスタ殿下! 幻術なしで離脱します!」


 ライフアイゼン兄弟にクリスタは頷く。

 しかし、戦力が大幅に増強されたわけではない。

 トラウはほぼ動けず、そのトラウに左右から肩を貸しているライフアイゼン兄弟の動きも制限されている。

 まともに動ける戦力は、さきほどからいる数名のネルベ・リッターの隊員だけというのは変わっていない。


「見つけたぞ!! クリスタ皇女!!」


 戦場の外側にいたのだろう。

 数騎の騎兵がクリスタの姿を見つけ、戦場へと入ってくる。

 ライフアイゼン兄弟がクリスタを守ろうと身構えるが、その騎兵の横からさらに騎士が現れた。

 クリスタたちと騎兵の間に割って入ったその騎士は、呆気にとられる先頭の騎兵の首を飛ばす。

 そしてその騎士に続いてきた他の騎士が他の騎兵に突撃し、いとも簡単に吹き飛ばした。


「ご無事ですか? クリスタ殿下」

「アロイス……」

「はい。アロイス・フォン・ジンメル。ルーペルト殿下の命によりクリスタ殿下を助けに参りました。どうぞ、お乗りください。この場を離脱しましょう」


 そう言ってアロイスは馬上で優しく笑うとクリスタに手を伸ばす。

 アロイスと共に騎士たちもトラウやリタたちを後ろに乗せ、すぐに離脱する準備を整えていた。

 クリスタは恐る恐るアロイスの手を握る。

 アロイスはクリスタを引っ張り上げ、自分の背中側に乗せる。


「あまりこういうことを言うのはよくないんでしょうが、無駄足ではなくてよかったです。ルーペルト殿下に恰好をつけて出てきたので」

「ルーペルトは無事……?」

「はい、ご無事です。すでに陛下と合流しております」

「よかったぁ……ありがとう。弟を守ってくれて」

「それが僕のやるべきことでしたので」


 そう言ってアロイスは邪気のない笑みをクリスタに向けた。

 そして、全員の準備ができたのを確認し、アロイスは指示を出す。


「戦場を離脱する! 怪我人もいる! 冒険者ギルドへ向かうぞ! 近場で一番安全なのはあそこだ」


 運が良ければ治癒魔法の使える者がいるかもしれない。

 そういう可能性も考慮し、アロイスは冒険者ギルドへ向かうことに決めた。

 このまま皇帝の下へ行けば、さらなる称賛と勲章が手に入ることは間違いない。

 だが、アロイスはそういう手柄にはひどく無頓着だった。

 そんな彼らの姿を見守る人物が近くの家屋の上にいた。


「危うく老人が若者の活躍の場を奪うところでした。危ない危ない」


 そう言ってセバスは苦笑して、アロイスたちを見送った。

 アロイスやトラウたちが来なければセバスがクリスタを助けるつもりでいた。

 しかし、アロイスたちが来たためセバスは裏方の仕事に戻った。

 セバスの傍には数人の死体が転がっていた。

 兵士、冒険者、恰好はバラバラだ。しかし、全員が首元に鋭い切り傷があった。


「潜んでいた暗殺者はほぼ片づけたでしょうか」


 セバスは帝都に入ったときからリンフィアたちとは別行動をとり、戦場をかき乱す存在である暗殺者の始末を行っていた。

 そしてその活動は一段落したと判断し、セバスはポキポキと首を鳴らす。


「さて……そろそろいつもの執事に戻るとしましょうか」


 そう言ってセバスは穏やかな笑みを浮かべたあとに一瞬で姿を消したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] セバスかっこよすぎて濡れた
[気になる点] てか今回これだけの大事なのにクリスタの予知は発動しなかったのかな。
[一言] セバスはマジ完璧執事(セバス)だわ
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