第二百五十一話 本物と偽物
今回の話で百万文字超えました!! なんとか今年中にはと思っていたので達成できてよかったです!( *´艸`)
出涸らし皇子の二巻の発売日は一月一日! 連動特典もありますが、一巻を持っている方は二巻を買うだけで手に入れられます!(*'ω'*)
コミカライズも二十五日に連載開始なのでお楽しみに!!(/・ω・)/
情報が出せるようになったらどんどん出していきます! チェックをお忘れなく!
「ちょっとあんた」
「はっ!」
「紅茶とお菓子持ってきなさい。喉が渇いたわ」
「はっ! では他の者に」
「あんたに言ったのよ! さっさと持ってきなさい! まずかったら殺すわよ!」
見張りとして部屋の中にいた兵士に俺はそう脅しをかける。
まさかの要求に兵士は震えあがり、部屋を出て紅茶を用意しにいった。
これで部屋には俺とエストマン将軍だけだ。
俺は幻術を解くとすぐにエストマン将軍の下に駆け寄った。
「非礼をお詫びする」
「よい……これからどうする気だ……?」
「あなたを救いだし、上層の兵士に味方になってもらう」
「簡単に言うな……周りは敵だらけだぞ……?」
「策はある」
そう言って俺はザンドラの姿に戻った。
少しして、緊張した様子で先ほどの兵士が戻ってきた。
その兵士が恐る恐る差し出したカップに入っていた紅茶を飲み、俺はそのカップを兵士の近くに投げつけた。
「ひっ!?」
「不味いのよ! 死にたいの!?」
「も、申し訳ありません!」
「もういいわ! エストマン将軍の側近たちを全員連れてきなさい! この将軍の前で殺してやるわ!!」
「で、ですが……」
「私の言うことが聞けないの!? あんたでもいいのよ!」
そう言われた兵士はまた逃げるようにして外へ出た。
その間に俺は作戦を説明した。
「あなたに幻術をかけ、兵士に見せる。ザンドラ皇女に痛めつけられた兵士を演じて、部屋から出ろ」
「そのあとはどうする……?」
「騒ぎを起こし、追手は出させない。城の中層。アルノルト皇子の部屋まで行け。そこで皇子が隠し通路を開いて待っている」
「殿下が……情けない……本来、お守りするのが私の務めだというのに……」
「そう思うならこれから務めを果たすことだ。まだ何も終わってはいないのだから」
「そうだな……貴殿の言う通りだ……私は私の務めを果たそう」
そう言ってエストマン将軍は歯を食いしばり、机に腕をかけて立ち上がった。
片足で不安定な中でも、その目の強さは衰えていない。
温厚な好々爺という印象があったエストマン将軍だが、やはり歴戦の強者。人生の多くを戦場で過ごしてきただけはある。その姿からは覇気が満ち溢れていた。
そんな中、兵士がエストマン将軍の側近たちを連れてきた。
全員が俺をにらんでいる。
そして俺に脅された兵士が部屋の扉を閉めた瞬間、俺はその兵士を幻術で夢の中に封じ込めた。
今頃、幸せな夢を見ていることだろう。
「将軍を連れて逃げてもらう。準備しろ」
「え……?」
「これは一体……」
ザンドラの姿のままだったことを思い出し、俺はグラウの姿を側近たちに見せた。
するとエストマン将軍が口を開いた。
「味方だ……脱出し、城の上に向かうぞ……」
「は、はい! 了解いたしました!」
「演技に付き合え。今からエストマン将軍はザンドラ皇女に痛めつけられた兵士だ」
短く伝えると、俺はザンドラの姿に戻る。
そしてそのまま近場の兵士に物を投げつけた。
「将軍の可愛い側近たちがこのままじゃ死ぬわよ!!」
そう言って俺は何度も兵士に物を投げつけるが、側近は俺の演技について来れてない。
だから俺はすぐに小声で注意する。
「叫べ。助けを呼べ」
「え? その……」
「早くしろ。将軍を助けたくないのか? それとも本当に痛めつけたほうがよかったか?」
「い、いえ……う、うわぁぁぁぁぁぁ!! 助けてください! ザンドラ様!!」
「将軍!! これでも積極的に協力する気にはなれないの!? ならあんたと同じ目に合わせてあげるわ!!」
そう言って俺は物を兵士の左足に当てる。
意図を察した兵士が大げさに倒れて叫ぶ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!! 足が!! 俺の足がぁぁぁぁぁ!!」
これを聞けば、外にいる者はザンドラが暴れて兵士の足を斬ったと思うだろう。
しばらく演技を続けたあと、俺はエストマン将軍に幻術をかけて兵士に見せる。
そして側近たちはエストマン将軍を抱えて部屋を出た。
「あーもう!! むしゃくしゃするわ!!」
他の者が部屋に入らないように、俺はすぐに部屋から出て大声で悪態をつく。
ザンドラを恐れ、部屋の周辺には誰も近づかない。
そりゃあそうだろう。ザンドラの機嫌を損ねれば、即座に魔法が飛んできかねない。
俺は周囲の物に当たり散らし、部屋を出たエストマン将軍たちに注意が向かないように仕向ける。
だが、そうしていると意外な人物がその場に現れた。
「まったく! なんなのよ! 酷い目に遭ったわ! 私に幻術をかけるなんて許せない! 絶対に殺してやるわ! いいえ! 殺すだけじゃ済まさない! できるだけ死ぬ寸前で生かして、苦しんで苦しんで苦しみぬいて! 自分の行いを後悔させてから殺すわ!」
本物はヒステリックの格が違うな。
演技じゃあれは再現できない。
妙なところで感心しつつ、俺は現れた意外な人物、ザンドラを見つめる。
その場にいる兵士たちはあっけに取られた様子で一言もしゃべらない。
そんな兵士たちに俺は大声で告げた。
「どうして私の偽物がいるのよ!? 捕らえなさい!」
「なっ!? どういうこと!? どうなってるの!?」
俺の言葉に兵士たちは迷いながらも動く。
ザンドラという人間を良く知っていれば、さきほど足を斬り落として癇癪を起こしている俺のほうが本物っぽいと思うからだ。
それに対してザンドラは鬼のような形相を浮かべて俺を指さす。
「あんたね! 私に幻術をかけたのは! 絶対に許さないわ!」
「下手な嘘をつくわね! 私は禁術を操る皇族一の魔導師よ! そんな私が幻術になんてかかるわけないでしょう!!」
そう言って俺は兵士たちに顎でザンドラに向かえと伝える。
今の話で兵士たちの中でこの問題は片付けたらしい。
ザンドラは皇族一の魔導師。禁術をいくつも操るザンドラが幻術にかかるわけがない。
そう思ったのだ。
しかし、それに対してザンドラは怒り狂う。
「なに言ってるのよ! 早くその偽物を捕まえなさい!!」
「黙れ! 偽物が!」
「調子に乗るんじゃないわよ!! あんたなんていつでも殺せるのよ!? 殺されたくないならさっさとその偽物を捕まえなさい! 幻術使いよ!」
「そんな話、信じられるか!」
「あっそ、なら死になさい」
怒りが頂点に達したんだろう。
突然、ザンドラは冷静な声でそうつぶやいた。
そして腕を振って、風の刃を生み出し、兵士の首を落とした。
馬鹿な奴だ。お前なら必ずそういう実力行使に出ると思ったよ。
「許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない……全員皆殺しよ!!」
「こっちのセリフよ! 捕まえなさい! 私の偽物なんて許せないわ!」
兵士たちは迷いながらも身構える。
どちらが本物であれ、ぼーっと突っ立っていたらザンドラに殺されてしまうからだ。
すでにザンドラは皆殺しモード。兵士たちは抵抗するしか生きる道はない。
そんな中で、俺はその場にザンドラの幻術を残してその場を離れた。
「さて、これでしばらくは下は大混乱だろうな」
いずれザンドラが本物だということはわかるだろうが、そうだとしてもザンドラは自分を疑った兵士たちを許さないし、被害を出したザンドラを兵士たちも許さない。
元々、溝のあるザンドラとゴードンだ。これでさらに溝が深まるだろう。
いい気味だ。
そのうち仲間割れを起こして崩壊してくれると、とても助かるんだがな。
そんなことを考えつつ、俺は転移で自分の部屋に飛び、皇子としての姿に戻る。
「あとはエストマン将軍が無事にたどり着いてくれるかどうかだな」
万が一、エストマン将軍がたどり着けない場合、残念だがエストマン将軍抜きで動くことになる。
別にそれでも問題はない。ただアリーダの負担がわずかに増加し、反乱に乗り気じゃない兵士たちの血が無駄に流れるだけの話。
ただ、それはあまりにも忍びない。
だからエストマン将軍には頑張ってここにたどり着いてほしいものだ。
「脱出組は無事だろうか……」
やれることはやって送り出したが、心配は心配だ。
城の外にも兵士はたくさんいる。
それを掻い潜って父上の下にたどり着くのは中々に難しい。
「信じるしかないか……」
呟きながら俺は部屋から帝都の街並みを見下ろすのだった。