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第二百話 それぞれの立場

合同PVを作っていただきました!

気になる方は活動報告に乗っけてあるので見てみてください(/・ω・)/


 後始末をセバスに任せ、俺は城へ転移した。

 式典でてんやわんやの城の中で、多くの者が俺の姿を見てギョッとしたような表情を浮かべるが、気にせずどんどん上へ登っていく。

 目指すのは最上階。玉座の間だ。

 上へ行くごとに上級貴族や大臣たちともすれ違う。

 俺の姿を見るたび皆が慌てる。何事かとオロオロとしているが、誰も後を追おうとはしない。行き先には見当がつくが、SS級冒険者と皇帝の間に入ろうとするほどの物好きはいないのだろう。

 そして俺は玉座の間にたどり着く。

 護衛につく近衛騎士に冒険者カードを見せ、そのまま扉を開ける。

 すると玉座の間には先客が何人かいた。


「シルバーか。祝いの言葉を言いに来たという感じではないな?」


 父上が俺の姿を見てため息を吐く。

 そんな父上とは打って変わって、怒りを露わにするのはウィリアム王子と共に挨拶に来ていたゴードンだった。


「シルバー! 無礼にもほどがあるぞ!」

「確かに無礼ではあるな」


 そう言ってゴードンの言葉に乗るのはエリク。

 その横には皇国の要人もいる。たしか皇国の大臣職についている人だ。血筋的にも王家と繋がりある人で、外務大臣であるエリクにとっては交渉相手でもある。

 しかしエリクはこちらの様子をうかがっており、狙いを見極めようとしているようだった。怒りを露わにするゴードンよりは一歩引いている立ち位置だ。

 そんな二人の皇子と要人たち。この先客たちをすべて俺は無視した。


「お話がある。人払いを」

「ほう? 皇子たちには聞かせられない話か?」

「そうだ。残念ながらあなたの息子たちを俺は信用していないのでな」

「そうか……二人とも下がれ。ウィリアム王子、マルティン大臣。挨拶中にすまない。またあとで来ていただけるか?」

「父上! 要人方よりも冒険者風情を優先されるのか!?」


 ゴードンが怒りを爆発させるが、それに対する父上の反応は冷ややかなものだった。


「そう言っている。早く下がれ」

「くっ……」


 きっぱりと言い切られてゴードンは黙るしかなくなった。

 エリクや要人たちは口答えはせず、大人しく一礼して下がっていく。ゴードンよりは大人だな。さすがに。

 そして四人が立ち去り、玉座の間には父上と俺、そして父上の横に控えているフランツしかいなくなった。


「フランツも下げるか?」

「その必要はない。これは宰相にも見ていただきたいからな」


 そう言って俺は魔奥公団の拠点から持ち帰ったいくつかの資料をフランツへ渡す。


「これは……?」

「出涸らし皇子に厄介な犯罪組織の拠点制圧を依頼された。帝都の地下に犯罪組織の拠点があるというのも気持ちがいい話ではないので引き受けたわけだが、予想以上に厄介なことになっているようだ」

「そうか、アルノルトが言っていた魔奥公団は確かに帝都で動いていたか……手間をかけたな」

「まったくだ。捜査をさせるならもう少し戦力を与えたほうがよいだろう。あの皇子は最近、面倒事は真っ先に俺へ持ち込むようになっている」


 そう俺が言うと父上は苦笑する。

 そしてフランツから資料を受け取って、それに目を通していく。すると徐々に表情が険しいものに変わっていった。


「聖女を使った魔法実験か……」

「その計画書だ」


 そう、あの拠点にあったのは〝聖女をどう使うか〟。そういう資料ばかりだった。

 まだ手に入っていないものを必死に研究していたということだ。

 それはあまりにも不自然だろう。


「聖女の警備は厳重だ。にもかかわらず、奴らは誘拐の計画ではなく、その先の計画をしていた。この意味がわからないあなた方ではあるまい」


 聖女の守りがいくら強固であろうと関係ない。

 奴らには手に入れる算段があったということだ。近衛騎士に守られたレティシアの身柄を、だ。

 レティシア自身も聖杖の使い手。生半可な戦力では捕らえることなどできない。

 しかも奴らはそれに対する準備をしている様子はなかった。聖女を拉致しようと思えば、必ず大がかりになる。どこかに綻びが出るはずなのに、その綻びが見えなかった。

 つまり聖女を捕らえるのは魔奥公団ではないということだ。


「魔奥公団とは魔法の秘奥を求める研究者たちだ。聖女を欲するのもわかる。その拠点にこのような計画書しかなかったというなら、奴らに協力する者がおり、その協力者が聖女を拉致する役目を担っている。そして我々はその協力者を割り出せてはいない。だから危険だとお前は言うわけだな? シルバー」

「ご名答だ。今すぐ聖女を王国に帰すべきだろう」

「ずいぶんと肩入れするな? これは政治的な問題だぞ?」

「人の命が掛かっている」

「なるほど……結論を伝えよう。彼女は王国には帰さん。このまま予定通りに式典とその後の祭りまで楽しんでもらってから帰国してもらう」

「……何かあってからでは遅いのだぞ!?」


 俺の言葉に父上は深く頷く。

 わからないわけがない。この国で聖女が誘拐されるということがどんなことに繋がるのか。

 暗殺のほうがまだましだ。彼女の身柄が魔奥公団の手に渡れば、その研究の被害を受けるのは帝国となるだろう。

 内部では魔奥公団。外部からは怒れる王国。最悪のシナリオだ。


「まず一つ聞きたい。拠点内にこれしか資料がなかったのは処分されたからではないか?」

「そんな痕跡は見当たらなかった。もしもそうだとして何が変わる? 魔奥公団が聖女を狙っているという事実は変わらないし、その手段も俺たちにはわからない。危険があるから王国に帰す。それのどこが間違いだと?」

「だが、魔奥公団の拠点はお前が壊滅させたのだろう? 危険はグッと下がったと言えるのではないか?」

「……聖女に死んでほしいのか? 王国との戦争がお望みか?」

「シルバー。陛下としても取れる手段は少ないのです」


 フランツが口を挟んでくる。

 その顔には渋い表情を浮かんでいた。


「どういう意味だ?」

「……王国は帝国との戦争を望んでいます。この式典は皇太子殿下を失い、さまざまな事件で弱体化したと思われている帝国の健在をアピールする意味もあるのです。そこで危険だからと聖女を送り返せば、王国は帝国の弱体を確信してしまうでしょう」

「そうなれば王国は攻め込んでくる。連合王国や藩国も動くだろう。ゆえに弱気は見せられん」

「体面を気にしている場合ではないはずだ。聖女が帝国内で誘拐されれば同じことが起きるぞ?」

「ですが……王国という国はひどく弱体化します。王国内には親帝国派と反帝国派がおり、聖女の所属は親帝国派。彼女が誘拐されたとすれば、親帝国派は反帝国派の差し金と思うでしょう。一枚岩でなくなればいくらでも付け入る隙はあります」

「どうせ戦争になるならば聖女がいない王国のほうが与しやすいと……? 今動けば救える命があるのだぞ!?」

「王国に帰したところで聖女の命は長くはない。王国の主流は反帝国派。彼女はいずれ暗殺されるだろう。彼女自身がそうわしに告げた。帝国との平和を願っているが、力及ばず申し訳ないと。王国に残っている彼女の支持者たちも状況は理解している。聖女の死を受け、怒りに任せて暴走することはない。王国は確実に一枚岩ではなくなる」


 一枚岩でなくなればいくらでも分断できる。

 そう父上の目が語っていた。

 そのことに俺は唇をかみしめる。言っていることはわかる。だが、それを受け入れてしまえばきっとレオが深い傷を負う。それだけは許容できない。


「シルバー。お前とわしとでは立場が違う。救えるからといって彼女を救えば、きっと彼女は殺されるか、戦争に利用されるだろう。帝国にとって最悪なのは後者だ。王国は彼女にとってすべてだ。いざとなれば彼女は帝国と敵対する道を選ぶ。それが王国のためだと納得したならば、な。そうなれば命を散らすのは我が国の兵士たちだ。わしは皇帝。帝国のことを最優先に考えねばならん」

「……死んでくれたほうが帝国のためだと? それがあなたの答えか?」

「そうだ。もちろん守りはする。万全の体勢でな。すでに仙姫殿に依頼して、彼女の部屋には結界を張ってある。彼女が開かなければ誰も侵入できん。お前とて短時間では難しいはずだ」

「仙姫殿の結界は確かに強固だ。俺もそれは認める。だがどのような守りにも欠点はある」

「万全は尽くしている。そのうえで彼女にもしものことがあれば、それはそれだ。フランツと共にその時のことは考えて動いている」


 現実的な考えを伝えられて、俺は何も言えなかった。

 冒険者の立場としても、皇子としての立場としてもこれ以上、俺には何も言う権利はなかったからだ。

 レオのために彼女を助けたいとは思っていた。皇子としては彼女の死を受け入れたが、シルバーとしては別だ。

 助けられる命は助ける。それがシルバーの信条だ。

 だが、事は国家レベルの問題だ。そうであるならば皇帝の決定は絶対となる。


「そうか……あなたの考えはわかった」

「失望したか?」

「いや……立場は理解できる」

「そうか。それは助かる。彼女が……帝国の者なら別なのだがな」


 そうだ。皇子としてもそういう結論に達した。帝国に属する者にとって、王国の者を助けるのは無理がある。

 結局はそこに至るのだ。

 もはや冒険者の立場でも彼女を救うことはできない。国家としての決定を無視してまで彼女を助ければいくらシルバーでも問題視されるだろう。これはもはや政治だからだ。

 つまり……レオに期待するしかないということだ。

 俺は諦めて踵を返す。だが、すぐに立ち止まって最後の質問をした。


「皇帝陛下。聖女を狙う以上、外部だけの犯行は不可能だ。間違いなく城の中に協力者がいるだろう。目星はついているのか?」

「フランツに調査はさせている」

「……皇子たちには気を付けることだ」

「わしの息子たちが帝国を裏切ると? ありえん。帝位を手に入れれば帝国はその者の物だ。自らの物を傷つける奴がどこにおる?」

「他人の物になるくらいなら壊してしまえという破滅的な考えを持つ者もたまにはいる」

「わしの息子はそこまで愚かではない」


 そう言った父上の顔には信頼が見え隠れしていた。

 根本の部分で帝国を裏切らないと確信しているようだった。もちろん普通はそうだ。だが、今回の帝位争いは少し勝手が違う。

 それはフランツも感じているのだろう。

 父上の横でフランツは思案顔を浮かべていた。

 主君が信じるのは悪いことではない。もしもその信頼が外れたとしても、臣下がフォローすればいい。そして父上には名参謀がいる。

 余計な心配だったなと俺はそのまま玉座の間を立ち去ったのだった。

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― 新着の感想 ―
>彼女が……帝国の者なら別なのだがな レオに婚約させて身内にしていまうんですね!
どうせレオに求婚させるんだろうが、、、 全員生存では物語が陳腐になると思うが、どう持っていくのか、、、
[気になる点] うーん。なんか思考の論理性に大幅なブレが生じてるんだよな。 「ココで聖女を返してしまえば帝国は弱まったと戦争を仕掛けてくる。」 ↑強引すぎるがそんな感じの文化なら思考もそうなるのか…
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