第百九十八話 S級とSS級
祝二百話!(`・ω・´)ゞ
まぁ登場人物紹介とかで誤魔化してたりしてますが( ´艸`)
文字数も八十万字を超えてきましたし、百万字が見えてきました!
これからも頑張りますので応援よろしくお願いしますm(__)m
「はっはっはっ!! どうした! シルバー!!」
「ちっ!」
イグナートはフェイントを巧みに使いながら接近戦に持ち込んでくる。
それに対して俺は両手に魔力を集中させてイグナートの魔剣を弾きつつ、距離を取ろうとしていた。
「防戦一方だな! その程度か! SS級ってのは!」
「喋るなんて余裕だな」
そう言いながら俺は手刀を使って、振り下ろす。そこから発生したのはカマイタチだった。
イグナートは咄嗟に魔剣で受け止めるが、その勢いに押されて大きく後ずさることになった。
「ちっ! 魔導師風情が!!」
「その魔導師風情に接近戦でようやく互角といったところじゃS級も落ちたものだな」
「この……! その言葉! 後悔させてやる!!」
イグナートは魔剣にさらに魔力を込める。
すると剣を包む炎が一気に膨れ上がるが、すぐに静かに剣に纏う程度に収まった。
不発というわけじゃないだろう。
強大な炎が圧縮されたとするなら魔剣はより強化されている。
「SS級には特別な戦功が必要になる。俺になくてお前にあったのは、その戦功足り得るモンスターと出会ったという一点だけだ!!」
「つまり自分はチャンスさえあればSS級冒険者になり得たと?」
「そうだ! それをこれから証明してやる!!」
そう言ってイグナートが突っ込んできた。
ただ真っすぐ突っ込んでくるだけのため、再度手刀でカマイタチを作り出す。
しかし、さきほどは受け止めたそのカマイタチをイグナートは苦も無く叩ききって、さらに直進してきた。
「こんなもので止められるかっ!!」
「ほう?」
さすがはS級冒険者というべきか。
なかなかにやる。
俺は正面に強固な結界を張って、イグナートの魔剣を受け止めた。最初に試しで受け止めたときは違う。
しっかりとした結界だ。
「そっちも本気じゃないってか!」
「さぁな」
俺は動きの止まったイグナートの胴体を貫こうとする。それをイグナートは体をひねって躱すと、俺の腕を絡めとるようにして投げ飛ばす。
飛ばされた俺は空中で体勢を整えて着地するが、その隙を狙ってイグナートがまた突進してくる。
徹底的に接近戦での一撃を狙ってきている。たぶん距離を空けた攻撃では俺の防御を突破できないというのと、俺に得意な距離で戦わせたくないという二つの狙いがあるはずだ。
そういうところを徹底してくるあたり、腐っても冒険者というところか。
「もらったぁぁぁ!!」
「くっ!」
俺の胸に向かって突き出された魔剣を俺は両手の平で挟み込んで受け止めた。
普通は高温の剣を掴んだら手のほうがやられるが、それを危惧して両手には魔力を集めている。
だが、それでも熱さを感じるあたりなかなかにまずい魔剣といえるだろう。
「もう結界も張る余裕もないか?」
「そうだな……苦手なんだよ。接近戦は」
そう言って俺はイグナートに向かって蹴りを出すが、イグナートは咄嗟に魔剣から手を離し、蹴りをよけて俺の腹部にお返しとばかりに突きを放つ。
俺はその突きで後退を余儀なくされ、魔剣からも手を離す。その魔剣を空中でイグナートは握った。
「ぐっ……」
「魔力で強化された蹴りか。威力は十分だろうが、そんなお粗末な技術であてられるわけないだろ?」
魔力でどれほど強化しても素体となる俺自身が欠片もセンスがないからな。
多少はましになるとはいえ、戦闘のプロとは比べるのもおこがましいレベルだ。
そんな俺の体術ではイグナートを上回ることはできない。
まぁわかってたことだが。
腹部を押さえながら俺は立ち上がる。ダメージはあまりない。しかし内容では向こうのほうが上だ。そのうち良い攻撃をもらいかねない。
それがわかっているからイグナートは余裕の表情を浮かべている。
「どうした? お得意の大魔法を使えよ! まぁ帝都の地下で使えば、上にも被害が出るだろうけどな!」
「よくわかってるじゃないか。だから俺は大魔法は使わない」
「民のために、か。馬鹿馬鹿しいぜ! お前がそんなこと気にしなきゃ、こんな展開にはなりはしないだろうに! 自分の命よりも民のほうが大切だってのか!?」
イグナートの問いに俺は答えない。
答えるまでもない問いだったからだ。
古代魔法を使うSS級冒険者。それがシルバーであり、帝国の守護者として振る舞ってきたからこそ容認されてきた異端者だ。
それが民のためにという鉄則を破ればどうなるかなんて目に見えている。
理想の冒険者でいるからこそ、シルバーは帝国に君臨することができている。
だからシルバーは帝国の民を見捨てない。たとえ自分が死のうとも。
「はっ! 理想に生きるのは勝手だが、そうしているならお前の命は長くねぇぞ!!」
そう言ってイグナートは魔剣を上段に構えた。
強力な一撃を放つ気か。
「一々自分のやる技に名前はつけねぇが、その中で唯一名前をつけているのがこの技だ」
「切り札というわけか……さすがはS級冒険者。引き出しが多いな」
「その余裕……この技の後でも保てるかな!」
魔剣が大きな炎に包まれる。
その炎はこれまでイグナートが見せてきた炎の中でもとりわけ赤く強い炎だった。
煌々と燃え盛るそんな炎はイグナートが深呼吸するごとにどんどん小さくなっていく。イグナート自身が炎を取り込み、剣との同調率を高めているといったところか。
そしてしまいには魔剣を包む炎は消えてなくなった。
しかしそれは嵐の前の静けさに近いものだろう。
「終火葬」
イグナートがつぶやいた瞬間、イグナートの姿が消え去った。
そして俺の懐にイグナートはいつの間にか潜り込んでいた。
速い。今までとは段違いだ。瞬間移動に近いそのスピードは、魔剣が生み出した炎をイグナートが取り込んだからだろう。
身体能力が爆発的に増したのだ。
元々、魔剣士としてS級冒険者になったイグナートの身体能力は高いレベルにあった。それがさらに上がったのだ。
そのままイグナートは突きに移行した。その魔剣からは膨大なエネルギーが感じられた。
制限を加えられている俺では回避不能だった。
元々、魔導師である俺はこんな閉鎖空間では全力を出せない。イグナートと相対していた距離は本来なら絶対に侵入させない距離だ。
いつもなら排除するか距離をとるかする。
しかしここではそれができなかった。転移魔法で仕切りなおすという手もあっただろうが、そんなことすればせっかくの手掛かりを失う。
かといって大魔法で攻撃すれば地下室が崩壊するだろうし、地上の帝都にまで被害が出る。
だから俺は八方ふさがりと言っていい状況だった。
ゆえに。
「ご苦労。そういう攻撃を待っていた」
「な、に……?」
イグナートが放った突きは俺に触れる前に結界に止められた。
それはただの結界ではない。
「俺の魔法は閉鎖空間では強すぎるんでな。手加減するのすら難しい。だからお前の攻撃を利用するのが一番楽なんだ」
「まさか……!?」
「ああ、安心しろ。俺は本気だったぞ。全力ではなかったがな」
「くっ!?」
出現した結界がどういうものか察したイグナートは俺から距離を取ろうとするが、もう遅い。
そもそもここは閉鎖空間。逃げ場なんてない。
結界の名前は反射結界。その名のとおり相手の攻撃を反射する。
イグナートの突きはため込んだエネルギーを一気に開放したが、それはすべて一度結界に吸い込まれ、イグナートに向かって改めて跳ね返された。
「ぐわぁぁぁぁっっ!!??」
自らの切り札をもろに浴びたイグナートだったが、とっさに魔剣を持っていた右腕で体をかばっていた。そのため、イグナートの体自体は軽いやけどで済んでいる。とはいえ、全身に広がっているため重症といえるだろう。
そして右腕は炭化していた。
ボロボロと右腕が崩れ去り、イグナートも意識を失う。
そんなイグナートを結界で捕縛すると、俺は踵を返す。
「さて、調査の続きといくか」
さすがにイグナート以上の護衛はいないだろう。
あとは幹部を逮捕するだけだ。
さっさと終わらせるとしよう。ここはストレスがたまる。そのうちストレスで、ついつい魔法を放ってしまいそうだ。