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第百八十七話 暗躍者の考察

書籍版、あちこちで売り切れも出始めたそうです!

QRSSは初回限定なのでお早めに!!(`・ω・´)ゞ



「――ということがありました。一応逃げた男が逃げ込んだ建物までは把握しております」


 翌朝。

 セバスからの報告を受けた俺は盛大に顔をしかめることになった。


「藩国の義賊がどうして帝国にいるんだ?」

「組織を追ってきたようです」

「ふん……その魔奥公団グリモワールってのはどんな組織なんだ? 昔、お前から名前を聞いたことがあるくらいだが」

「私も詳しくは知りません。元々は魔法を研究する魔導師たちの集まりと聞いていますが」

「どうしてそれで犯罪組織になるんだ? 禁術でも研究してたのか?」

「それも一つあります」


 禁術は分類としては現代魔法にあたる。とはいえがっつり禁止されているような禁術の性質は古代魔法に近い。先人の賢者たちが危なすぎて禁止したわけだしな。

 各国はそういう先人たちの教えを守って、禁術の研究を禁止している。ザンドラみたいに許可をもらって研究しているような奴もいるものの、黙って研究してたら間違いなく捕まる。

 ザンドラが魔導師たちに支持された理由はまさにそこだったわけだが、魔奥公団とかいう連中はそういう権力者を支持する方向には走らなかったらしい。


「彼らは魔法というものを極めたいと願い、そのために手段を選ばなくなった集団です。禁術の研究や魔法アイテムの蒐集はもちろん、研究のためには先天魔法の使い手を殺すことすら厭わない。魔導師が主体となっている犯罪組織の中では最悪でしょうな」

「各国や冒険者ギルドは対処しないのか?」

「基本は研究組織ですからな。あまり表には出てこないのです。彼らは研究対象さえあればいくらでも部屋に閉じこもっている類の人間でしょうから」

「なるほど。穴倉から出てくるタイミングで叩かないといけないってことか」

「もしくは繋がっている人間たちを捕まえるかです。そういう意味では藩国が拠点というのは納得できます。あそこは貴族の腐敗もありますし、そのせいで冒険者も動きづらい国ですからな」

「帝国に迷惑をかけないなら正直どうでもいいんだが……今、問題なのはそいつらが帝国領内で何かをしようとしているということだ。聖女に関係ないとしても放ってはおけない。まぁ四宝聖具とその使い手の聖女……研究対象としては面白いだろうな」


 王国よりは帝国にいるときのほうが狙いやすいと考えるのはわからんでもない。

 王国内での聖女の警護は厳重だ。しかし、帝国での警護も甘くはない。


「近衛騎士が護衛につくくらいは想像できると思うが、それでも狙うと思うか?」

「私なら狙いませんな。あえて狙うなら移動中ですが」

「鷲獅子に乗ってる聖女を狙うってのも難しいわな」

「はい。何か仕掛けがなければ不可能でしょうな。もしも……アルノルト様が狙うとしたらどうなさいますかな?」

「俺ならか……」


 セバスの質問にしばし考える。

 古代魔法で強行突破なんてのは考えない。そういうことをセバスは聞いているんじゃない。

 シルバーとしてではなく、アルノルトとして。

 どれだけ厄介な犯罪組織としても、エルナみたいな強者を抱えるのは難しい。となるとそこそこの戦力での達成が求められる。


「うん、無理だな。だから……俺なら警備に穴を空ける。内側からな」

「つまり協力者を作るということですかな?」

「そういうことだ。外から無理なら内から。そういう観点ならこの国はうってつけだ。なにせ帝位争いの真っ最中。勢力が乱立している。条件次第じゃ協力する奴もいるだろうな。これまでの行動を見れば」


 帝国内で聖女が死ねば責任問題になる。

 それは帝国にとってデメリットだ。ふつうならやるわけがない。

 だが、そういう普通というのは捨てたほうがいい。


「聖女が暗殺されるなんて現実的じゃないと思っていたんだが……ちょっと現実味を帯びてきたな」

「ご本人も何か感じておられるのでは? そうでなければ最後などという言葉は使わないと思いますが……」

「その本人が自分のことだと言ったんだ。彼女の性格はよく知っている。自分で言ったことは変えたりしない。超頑固だからな。俺に話さないのは迷惑をかけたくないから。そう思われている時点で俺から聞き出すのは無理だ。可能性があるとするならレオだろうけど……事情を説明すれば上手くいかないのは目に見えている」

「レオナルト様の手腕に期待するしかありませんか。まぁ女性相手なら大丈夫では?」

「いつもなら天然で落とせると思うんだが……相手が相手だからな。まぁどうにかしてもらうとしよう」


 こればかりは暗躍でどうにかなる問題ではない。

 本人が本人の力で勝ち取ってもらわねば。


「夜になったら俺もついていく。仮面の義賊に興味があるからな」

「よろしいのですか? 姿をさらすことになりますが」

「帝国のために皇子が動いているのは変ではないだろ?」

「それはもちろんそうですが、出涸らし皇子という評判はよいのですかな?」

「他国の人間だ。しかも仮面を被った陰気な客人でもある。俺が真面目なところを見せても問題ないだろ?」

「完全にブーメランですが、まぁいいでしょう。此度は全力ということですな?」

「そういうことだ。父上は帝位争いは休戦といったが、相手が犯罪組織なら問題はないだろう。結果的に帝位候補者たちがかかわっていたとしても帝国を守るための戦いだ。許してくれるだろ」

「そうですな。しかしもしも聖女様の一件に魔奥公団がかかわってない場合はどうなさいますか? そちらを追っても聖女様の危機が回避されない場合はまずいと思いますが?」


 セバスの言葉に俺はしばし考え込む。

 たしかにそれが一番厄介だ。放置するという選択肢はない。だが二つが繋がっていなかった場合、片方の問題が解決しない。

 戦力を分けるべきかどうか。

 レオの傍に戦力を置けば、それだけで聖女の護衛を強化することにつながる。

 だが……。


「近衛騎士が護衛についている以上、一定以上の守りは保証されている。それを内側から掻い潜るとするなら……一人二人増員したところで無理だろう。そこもレオに任せるとしよう」

「よろしいのですか? そのような不確かな方法で」

「ほかに手がない。それにレオなら何とかするだろ。犯罪組織までかかわっていて、大がかりな暗殺計画ならまだしも、王国周辺の裏切り者程度の暗殺ならレオがどうにかする。あいつは俺の双子の弟だ。きっとあいつも嫌な予感を覚えてるはずだからな」


 双子の俺たちは互いが自分の分身のようなものだ。

 能力に差があるかもしれない。性格に差があるかもしれない。

 だけどそこらへんによらない感覚的なものは共通している。

 レティシアの言葉に俺が嫌な予感を覚えたように、レオもレティシアの様子に嫌な予感を覚えるはずだ。

 それが俺たちの強みでもある。

 俺たちは互いのことを良く知っている。

 言葉は必要ない。


「俺は犯罪組織を追う。レオは聖女の傍にいる。それでいこう」

「かしこまりました。ジーク殿にはまた手伝ってもらいますか?」

「いや仮面の義賊を引き入れる。ジークにはクリスタたちの護衛をしてもらわないといけないからな」


 そう言って俺はニヤリと笑う。

 魔奥公団の連中は暗躍しているつもりだろうが、暗躍はお前たちだけのものじゃないってのを教えてやるとしよう。


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