表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/819

第百八十六話 乱入者

絶賛第一巻が発売中です、が!

帯のQRコードからSSを読めるということを知らない人もいるようです!

帯は捨てないでくださいね!(`・ω・´)ゞ




「さて、どうするべきでしょうか」


 夜の帝都。

 セバスはそこを駆け巡りながら情報を探っていた。

 正確には情報を持っていそうな者を探していた。

 聖女を暗殺するなんていう大事を決行するならば多くの準備がいる。その準備のために怪しい者たちは尻尾を出す。

 そう踏んでいたのだ。

 そしてそれは間違っていなかった。

 夜の帝都で怪しい人物たちを見つけたのだ。

 数人でなにやら話をしており、その動きは明らかに素人ではない。セバスでなければ気づかれていたかもしれない。

 しかしセバスは完全に闇に溶け込み、存在を悟らせない。

 話し合いを終えたのか、彼らは散り散りになっていく。捕まえるのは簡単だが、現場で動いているということは彼らは下っ端。

 その裏にある計画が聖女暗殺でなかったとしても、これだけの猛者を下っ端として使う者は放置しておけない。

 裏にいる人物を探るためにセバスは彼らを泳がせることに決めた。


「追跡としましょうか」


 そうセバスが決断したとき。

 散り散りにその場を離れようとしていた彼らを〝矢〟が襲った。


「なんだ!?」

「ぐわぁ!?」


 手練れと思われる彼らがまったく反応できずに倒れていく。

 残ったのは味方が盾となった男だけ。

 そんな男の前に矢を放ったと思われる人物が姿を現わした。


「お、お前は!?」

「わたくしを知っているということはやはり――〝組織〟の者ですわね」


 その人物は朱色の仮面をかぶっていた。

 口調と体形から女性だろうことは想像できた。

 しかしセバスが驚いたのはそこではなかった。

 彼女は男に弓を向ける。しかし、その弓には矢がなかった。


「魔、魔弓に朱色の仮面……義賊・朱月の騎士(ヴァーミリオン)か……!」


 魔弓。

 魔法を弓で放つ技術であり、特殊な才能が必要ではあるが通常の方法で放つ魔法よりも数段上の威力を出すことができる。

 それを使う義賊が藩国には存在した。

 圧政を良しとする貴族を中心に襲撃し、民から巻き上げた金を取り返したり、不正を公の下にしたりと動く義賊。その名は〝朱月の騎士(ヴァーミリオン)〟。

 同じ仮面を被る者としてシルバーとつなげる者もいる。片方は希少な古代魔法の使い手であり、片方は貴重な魔弓の使い手だからだ。

 いい迷惑だとアルが漏らしていたのを思い出し、セバスは深く同意した。

 藩国の義賊がなぜここにいるのか。

 疑問を抱きつつ、セバスはスッとナイフを取り出した。彼女の注意を引き、男を逃がそうと考えたのだ。

 ここで捕まえたところで有力な情報は得られない。

 それは暗殺者として長く闇の世界にいたセバスの経験から来る推察だった。しかし彼女にはそこまでの推察はできなかった。


「吐きなさいですわ。藩国を中心に活動していた組織がなぜ帝国に? 何をする気ですの?」

「ふん、何の話だ?」

「とぼけても無駄ですわ。藩国での拠点を一つ壊滅させたときに、帝国で何かする気だという計画書を発見したんですわ。言い逃れはできませんわよ」


 そう言ってヴァーミリオンは男に弓を向ける。

 それに合わせてセバスがナイフを投げようとする。

 しかし、その瞬間。セバスに向かって数発の魔法の矢が飛んできた。


「っ!?」


 セバスは驚きつつもナイフを的確に投げつけて迎撃する。

 ヴァーミリオンに魔法の矢を放った形跡はない。

 おそらく先程放っていた矢がまだ残っており、セバスの動きに自動で反応したのだろう。

 状況を分析しつつ、セバスは状況のまずさに思わず舌打ちをしそうになる。


「何者ですわ!?」


 そう言ってヴァーミリオンは路地裏のセバスに向けて魔法の矢を放つ。

 それを迎撃しようとセバスはするが、さきほどよりも数が多いため迎撃しきれずに避ける羽目になる。

 しかし、魔法の矢はセバスに向かって方向を変えて再度向かってきた。

 それを今度は確実に迎撃したが、その間にヴァーミリオンは路地裏に侵入してきた。

 それを見てセバスは覚悟を決めた。

 ひとまず予定とは違うが男とヴァーミリオンを引き離すことには成功した。

 セバスならば逃げた方向さえ限定できれば探すこともできる。数少ない情報への糸口をここで潰す愚は冒せない。


「護衛がいたのは意外でしたですわ」

「私も藩国の義賊がいたことは意外でした……ですがここで消えていただく」


 そう言ってセバスは連続でナイフを投げる。

 それをヴァーミリオンは事も無げに弓で叩き落とすと、お返しとばかりに魔法の矢を放つ。

 セバスは黒い短刀を持ち、それを弾き、掻い潜りながらヴァーミリオンの懐にもぐりこんだ。

 ヴァーミリオンは敵でもないが、味方でもない。ここで戦うのはデメリットもある。しかし予想外の乱入者を放置すれば、さまざまな歯車が狂いかねない。

 かつてソニアに盤面を狂わされたように、予想外の人物はアルの障害となる。

 殺さないまでもここで退場させる気でセバスは戦闘に臨んでいた。


「ふん!!」


 セバスが放った短刀の一撃をヴァーミリオンは弓で受け止めるが、予想外に力強い一撃によってヴァーミリオンの体勢が崩れた。

 その隙を逃さずにセバスは完全に密着して、距離をゼロにした。


「これで魔弓は使えませんな」

「失礼しちゃいますですわ。接近戦も得意ですわよ?」


 そういうとヴァーミリオンはセバスの腕を巻き込むようにして放り投げる。

 耐えれば腕を折られる。そう判断してセバスは自分から飛んで威力を軽減しにかかる。

 だが。


「!?」

「距離がなくても弓を撃つくらい造作もないですわ」


 そう言ってヴァーミリオンはセバスが空中に浮いた瞬間に腕を放し、そのまま流れるような動作で弓を引く。

 わずかな隙間しかないにもかかわらず射撃の体勢に持ち込んだのだ。

 そして放たれた矢はセバスに迫る。

 それをセバスは空中で無理やり体をひねることでかろうじて躱してみせた。


「まるで曲芸師ですわ!」

「いえいえ、そちらには負けますな」


 そう言いつつ、セバスは距離をとる。

 暗殺者であるセバスにとって、正面きっての戦いは本来の土俵ではない。

 とはいえ、大抵の相手には後れをとらない自信がセバスにはあった。しかし、そのセバスをしてヴァーミリオンは強いと認めざるをえなかった。

 義賊というだけあって、ヴァーミリオンはセバスを殺そうとは考えていないようであったし、何より周りの建物に配慮して矢の威力を落としていた。

 それでようやく互角といったところ。

 正面きっての戦いでは勝ち目はない。

 しかしヴァーミリオンの実力を考えれば足止めは不十分。

 すでに男は逃げ去っているが、本気で追えばまだまだ追いつく距離だ。

 もう一戦交えて、どうにか足を止めなければ。幸い、勝機はセバスのほうに転がりつつあった。

 だが、唐突にヴァーミリオンが構えていた弓を下ろした。


「……どういう風の吹き回しですかな?」

「どうもあなたは組織の者ではなさそうな気がしますですわ」

「わかりませんよ?」

「組織の者は基本的に助け合ったりしませんわ」


 そう言ってヴァーミリオンは屋根の上に視線を向ける。

 そこではジークが槍を構えて様子を見ていた。


「鋭い嬢ちゃんだな」

「まったくですな」


 ジークが来たことを察し、セバスは勝機を感じたのだがヴァーミリオンはそれも見抜いていた。

 そして互いに深手を負う前に戦闘をやめることを選んだのだ。


「わたくしは組織を追って帝国に来ました。あなた方は帝国の方ですかですわ?」

「ややこしい喋り方だな。まぁ似たようなもんだよ」

「それなら戦う理由はありませんわ」

「少しお待ちを。彼を追うのは私に任せてもらえないでしょうか? これでも元暗殺者ですので」


 話は終わったとばかりにヴァーミリオンは男を追おうとするが、それをセバスが制止する。

 少しの間、セバスとヴァーミリオンの視線が交差した。

 そして折れたのはヴァーミリオンのほうだった。


「……地の利があるのはそちらですし、お譲りしますですわ」

「ありがとうございます。手に入れた情報は共有します。どうすればいいですかな?」

「……明日の夜にもう一度この場所で。それと深追いは禁物ですわ。彼らの組織の名は〝魔奥公団グリモワール〟。大陸規模の犯罪組織ですわ」


 その名にセバスは聞き覚えがあった。

 魔導の秘奥を目指す研究会から発展した犯罪組織であり、時代の節目に顔を出す謎多き組織だ。

 それが帝国で動いている。


「なるほど。困ったものですな、あの方の嫌な予感というのも」


 そう呆れたようにつぶやきつつ、セバスは一礼して承知の意思を示す。

 するとヴァーミリオンは跳躍してその場を後にした。

 残されたジークとセバスもそれを見送ったあと、逃げた男を追うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >かつてソニアに盤面を狂わされたように、予想外の人物はアルの障害となる。  流石アルの右腕兼執事である。  アル至上主義満載。因みにNo.2。   No.1は言わずもがなエルナである。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ