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第百八十四話 嫌な予感

すでに発売してる書店もあるようですが、一応正式発売日は明日です!(/・ω・)/

今回はかなり自信がある書籍化なので――買ってくれると嬉しいな!|ω・`)チラ




 朝。

 城は大騒ぎだった。


「じゃあクリスタを頼むよ」

「はい。お任せください」


 そう言ってフィーネがクリスタとともに部屋を出ていく。

 騒ぎの理由は突然エルフの要人が現れたからだ。

 帝国は四方に人を放っていたのに、帝都に入ってくるまで存在にすら気づかなかった。

 おそらく通常の魔法ではなく、エルフ秘伝の魔法だろうな。

 それで隠密行動をしていたんだろう。

 おかげでこちらはバタついているんだが、そういう配慮のなさがエルフらしいといえばエルフらしい。

 俺はバルコニーに出て様子を見る。

 すでにエルフの要人は馬車から降りていた。

 美形のエルフたちに囲まれて、青い髪の女エルフが立っていた。

 ほかのエルフも綺麗だが、そのエルフは一段と美しい。


「あれがエルフの長老の孫娘か」


 スレンダーな体つきの大人っぽい女性だ。

 トラウ兄さんとジークの好みからは外れている。

 ロリではないし、エロイわけでもない。まぁジークは綺麗なら関係ないところはあるが、優先度としては肉体的に豊満な女性を好む。

 エルフだから綺麗であることは覚悟していたが、よかった。あれでどちらかの好みに偏っていたら心配事が増えていたところだ。

 ただ青い髪のそのエルフを見ているとなんとも言えない違和感がわいてくる。

 じっと観察しながらその違和感の正体を探ろうとするが、そんな俺に声をかける人物がいた。


「アルノルト皇子」


 声を聞き、俺は青い髪のエルフから視線を外して後ろを振り返る。

 オリヒメならこっちの都合を優先させてもかまわないが、この人が相手ではそういうわけにはいかない。


「これは聖女レティシア。お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりですね」


 そう言ってレティシアは俺の正面に立つ。

 身長は百六十くらいか。五年前のときは大して背が変わらなかったから、少し目線の低い彼女を見るのはなんだか変な気分だ。


「背が伸びましたね」

「そりゃあ双子ですからね。レオが伸びたのに俺が小さいままってのはないですよ」

「それもそうですね。ただ性格は相変わらず正反対のようですね」

「性格まで似てたら気持ち悪いでしょ? レオは真面目なんで、俺はこれくらい適当でいいんですよ。それで何の御用ですか? レオの対応にご不満でも?」

「いえ、レオナルト皇子は良くしてくださっています。ただあなたにも直接挨拶をと思っただけです」


 そう言ってレティシアは笑みを浮かべる。

 邪気のない笑みだ。

 そういうところは昔から変わらない。

 まぁ変わらないのはそういう部分だけじゃなさそうだけど。


「そうですか。堅苦しすぎて鬱陶しいんじゃないかと思ってましたが、無用な心配でしたね」

「鬱陶しいだなんて……そんな風になんて思っていませんよ」

「では堅苦しいとは思ってるんですね?」

「そ、そういうわけでは……ただ」

「ただ?」

「もう少し親しく接してくれてもいいのではと思っているだけです。決して! 文句とか不満とかではなくてですね! あえて改善点をあげるならばということで!」


 必死に不満ではないと弁明するレティシアを見て、俺は苦笑する。

 相変わらず不器用な人だ。

 悪意ある行動には毅然と対応できるが、善意にはとことん弱いせいか、困っていても言い出せないのはレティシアの弱点といえる。

 五年前、母上のところで話をしていたのもそういう話だった。

 侍女たちが当たり前のように浴室に入ってくると、困ったように話していた。レティシアの生まれはそこまで高位じゃない。

 聖杖に認められて今の立場にいるが、元々は違う。浴室に自分以外の誰かが入ってくるというのは慣れてないことだった。

 だから元々平民の母上のところに相談しにいったのだ。

 一言必要ないと言えばいいのだが、侍女たちが善意でやっているため断れなかった。結局は母上がそれについて一言侍女たちにつげて解決したそうだが。

 今もその弱点は変わってないようだ。


「な、なんですか!? その笑いは! 人が困っているのに笑うというのは悪意があると思いますよ!」

「困っているんですか?」

「こ、言葉の綾です! 困ってはいません! ただ少々他人行儀すぎるのではと思っているだけです!」

「ではご自分でそうレオに言ってください」

「そ、それは……」


 困った様子でレティシアはごにょごにょとつぶやく。

 わざわざ俺のところに来たのは挨拶はもちろんだが、レオの生真面目すぎる対応をなんとかしてほしいからだろう。

 そもそも俺とレオのどちらかを指名したのはそういう対応をしてほしくないからだ。

 考えればわかりそうなもんだが、レオは真面目だから精一杯丁寧に接待している。

 それがやりにくいんだろう。かといって一生懸命なレオに何か言うわけにもいかない。

 そんなところだろう。

 だから俺はクスクスと笑いながら了承する。


「わかりましたよ。俺のほうからレオに伝えておきます。もっと肩の力を抜けと。聖女様は堅苦しい対応が嫌だからお前を指名したんだって」

「ありがとうございます! やはりアルノルト皇子は良い方ですね……はっ!? それがわかっていたのにとぼけていたのですか!?」

「素直に迷惑だって言わないのでちょっとからかっただけです」

「からかうだなんて!? その行動には悪意を感じますよ! アルノルト皇子! お忘れかもしれませんが、私のほうが年上なんですからね!」

「そうでしたか? 年上らしいところを見たことがないので」

「なっ!? 今のは聞き捨てなりません!」


 昔からレティシアは年上アピールが激しい。

 背が少しだけ高かった頃はそこらへんで自分が年上だと言い張っていたが、今はそれもできない。

 どうやって年上アピールをするのか興味がわいたので俺は再度レティシアをからかう。


「どこからどう見ても年上です! 私は落ち着いた女性ですから! 年上の余裕です!」

「落ち着いてますか?」

「落ち着いています!」


 どこが? といった風に聞き返したが頑なに返されてしまった。

 自分で落ち着いていると思っている以上、たぶん何を言っても無駄だな。そういう人だし。

 ただ落ち着いてる人は鷲獅子には乗らん。


「まぁそういうことにしておきましょう」

「なんでしょうか……その言い方には何か含みがあるような……」

「含みなんてありませんよ」


 笑いをこらえながら俺は返す。

 明らかに怪しんでいる視線が飛んでくるが、それを受け流す。

 そろそろからかうのはやめておいたほうがいいだろうしな。

 機嫌を損ねたら大変だ。


「ではレオへの対応は任せてください。上手く言っておきます」

「お願いします。私も……最後くらいは楽しみたいですから」

「最後くらい?」

「こちらの話です。ご安心を。ご迷惑はおかけしません」


 そう言ってレティシアは笑顔を浮かべて背を向ける。

 その背はどこか寂しそうに見えた。

 何か声をかけるべきか迷い、俺はやめにした。

 何も情報がないときに動くのはトラブルの元だ。


「セバス」

「はっ、ここに」


 姿は見えないがいるだろうなと思いつつ、俺は執事の名を呼ぶ。

 するとバルコニーにセバスが姿を現した。


「彼女は何か問題を抱えているようだ」

「そのようですな」

「探れ。なんでもいいから情報がないと動けん」

「他国の事情に深入りするのはやめたほうがよいかと思いますが」

「それを判断するにも情報が必要だ。彼女は最後という言葉を使った。彼女らしくない。きっと何かある」

「それだけですか? 帝国に来るのが最後という意味では? 結婚でもすれば今のように動けないでしょうし、そういう意味では?」

「それならそれでいい。彼女が王国の事情で誰と結婚しようとこちらには関係ない。だが、違う問題なら厄介だ」

「つまり……聖女様が命の危機にあるかもしれないと?」

「そういうことだ。帝国内で聖女が命を落としてみろ? 大問題だ。しかも接待役はレオだ」

「考えすぎな気もしますが……」


 セバスがそうつぶやく。

 そうだ。考えすぎの可能性のほうが高い。

 最後なんて誰でも使う。

 ただその言葉を聞いたとき。


「嫌な予感がした。残念なことに俺の嫌な予感はわりと当たる」

「そういうことでしたら調べてみましょう。しかし、私がそちらに動くとフィーネ様たちの護衛が手薄になりますが?」

「近衛騎士がつく。よっぽどのことがなければ問題ないだろう」


 そういう意味ならレティシアの身の安全も保障されているといえるんだが。

 それでも嫌な予感は見逃せない。


「もしも命を狙われていて、命の危機を感じているなら必ず情報が転がっている。それだけ彼女は大物だ」

「かしこまりました。お任せください」


 そう言ってセバスがその場から姿を消す。

 ふと視線を下に戻すが、すでに青い髪のエルフの姿はない。クリスタたちと城に入ったんだろう。

 あの違和感を探るのもまた今度になりそうだ。


「まったく、休ませてもらえないもんだな」


 そう一人愚痴りながら俺はバルコニーを後にするのだった。

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