第百八十二話 要人歓迎
昨日すみませんでした! 今日はふつうに更新です!
セバスの過去話は明日の19時くらいに上げようと思います。
第一部付近の話を最新話としてあげるのはちょっと違うので、別作品として投稿すると思います。
そこらへんは活動報告とツイッターでお伝えすると思うのでチェックしてみてください!
あと書籍の内容について活動報告でふれているので、そちらもよければ確認してくださいm(__)m
父上の即位二十五周年を祝う式典。
それに参加するために帝都には各国の要人が集まりつつあった。
そのピークが今日になりそうだ。
「おお!? 見ろ! アルノルト!」
「見えるわけないだろ……」
城のバルコニーにて手すりに手をかけながら外を見ていた俺だったが、暇を持て余したオリヒメが後ろから乗ってきたことで視界がとんでもなく制限されてしまった。
ぶっちゃけ、下しか見えん。
「なんと!? 小さな竜に人が乗っているぞ!? あれが噂に聞く竜騎士か!」
「連合王国ご自慢の竜騎士団か」
なんとかオリヒメを横にずらして上を見る。
不満そうにオリヒメは抵抗するが、気にしてはいられない。
空には十数騎の竜騎士が飛んでいた。
彼らが跨るのは飛竜。竜の亜種ではあるが、連合王国はそれを乗りこなす技術を持っている。
その飛竜に跨る竜騎士たちは藩国を征服したときに大活躍し、王国と戦争状態になったときも主戦力として活躍した。
そんな竜騎士を率いるのは赤い飛竜に乗った男。
帝剣城の正門近くに着地したその男は華麗に飛竜から飛び降りると、出迎えに出てきたゴードンと固く握手をした。
「何者だ?」
「ウィリアム・ヴァン・ドラモンド。連合王国の第二王子だ。通称は竜王子。見ての通り竜騎士だ」
「王家なのに竜に乗るのか。危ない奴め。常識がないとみえる」
「お前にだけは言われたくないだろうよ」
「なにおう!?」
オリヒメが俺の言葉に怒り、制裁とばかりにまた後ろからのしかかってくる。
正直重い。
「どうだ!? まいったか!?」
「はいはい。まいったまいった」
「むー、いまいち反省の色が見えん気が……」
そうは言いつつオリヒメは俺の上からどいて隣に移動する。
そうこうしているうちにウィリアムはゴードンとともに城へと入っていった。
「妙に仲がよさそうだったが……はっ!? あの王子は男が好みか!?」
「絶対、本人の前で言うなよ? 頼むから俺のいる前で言うな。即座に外交問題だ。いいか、あの二人が仲がいいのは友人同士だからだ」
「友人同士とな? 帝国と連合王国は同盟国というわけではあるまい?」
「そうだが、ゴードンは半年ほど連合王国に留学してたことがある。そのときに知り合ったそうだ。どちらも武人だから意気投合できたんだろう。年も近いそうだし」
「ふむ、そうだったのか。さすがに趣味が悪すぎると思ったが、安心したぞ」
「そもそも最初にそういう発想が思い浮かぶのがおかしいだろ……」
オリヒメの発想に呆れつつ、俺は正門近くにレオが出てきたのを見つけた。
「そわそわしすぎだろ……」
「むむ? そなたの弟はなぜあそこまで落ち着きがないのだ? 妾のほうが落ち着いておるな!」
「それはない」
「なにおう!?」
「いててっ!? 噛むな!」
「へいへいえお!!」
「そのまま喋るな! 痛いわ!」
ぶんぶん手を振り回してもオリヒメは手から離れない。
何言ってるかわからんが、どうせ訂正しろとかそんなところだろう。
しつこいので俺は心にもないことを口にすることにした。
「わかったわかった! 落ち着いているよ! お前はとっても落ち着いてる!」
「ふふん! そうであろう! そうであろう!」
ようやく離れたオリヒメはドヤ顔で腕を組み、何度も頷いている。
期待通りの言葉を引き出せたことにご満悦らしい。
単純なやつだ。
「うわー……歯型が……」
右手にはくっきりと歯型が残っていた。
まぁ獣人のオリヒメが本気で噛めば俺の手くらい軽くかみちぎれるだろうから、オリヒメにとっては甘噛み程度のつもりなのかもな。
そのせいかオリヒメはこっちの心配をしない。まぁいつもこんな感じではあるが。
「それはそうと、なぜそなたの弟はそわそわしてるのだ?」
「大陸に名高き聖女様を出迎えるからだろうさ」
「聖女? ペルラン王国の聖女か?」
「そうだ。聖剣と同じように流星から作られたとされる四宝聖具の一つ、聖杖を持つ女性だ。王国版エルナってところだな」
「四宝聖具か。それは妾でも知っている。聖剣を含めた四つの聖なる宝具のことだな? 聖女が持っていたとは意外だ」
「一般には伝説の杖としか伝わってないからな。そもそも四宝聖具は謎が多い。古代魔法の時代よりもさらに昔に作られたとされるし、効果もまちまちだ。同列に語られているが聖剣はその中でも頭三つ分くらい抜けている」
「詳しいではないか」
「幼馴染が聖剣持ちだからな」
そう返しつつ俺は空を見上げる。
それを見てオリヒメが不思議そうに首を傾げた。
「なぜ空を見る? もう飛竜はいないぞ?」
「ペルラン王国の聖女は聖杖を持っているだけじゃない。王国内でも数少ない鷲獅子を乗りこなす」
そう言った瞬間、空から七、八頭の鷲獅子がこちらに向かってきた。
その先頭を駆けるのは白い鷲獅子に乗った淡い金髪の女性。
背中にかかる程度のセミロングで、身に着けたカチューシャが特徴的だ。
神秘的な雰囲気を纏うその女性は美しかった。ただ外見的なものだけじゃない。彼女は真っ白な雪のような綺麗さを持っていた。
穢れを知らない女性。
それが聖女レティシアという人物だった。
レティシアのあとにはなぜか乗り手のいない黒い鷲獅子が続き、そのあとに護衛の鷲獅子騎士たちが続く。
そんなレティシア一行をレオは恭しく頭を下げて出迎えた。
ちょっと気になったので、魔法を使って会話を盗み聞きする。
「ようこそ、帝都へ。聖女レティシア様。長旅お疲れさまでした。帝都にいる間はこの第八皇子レオナルトが接待役を務めさせていただきます」
「出迎えありがとうございます。レオナルト皇子。それとお久しぶりですね。五年ぶりでしょうか」
「はい。お久しぶりです」
レオのやつ、緊張してるな。
いつもなら成長したレティシアを褒めるところだろうに。
今は無難なことしか言わない。たぶん変なことを言わないようにしようとか思ってるんだろうな。
そんなレオを見てレティシアはおかしそうに笑う。
「皇子、五年の間に友情は消えてしまいましたか?」
「い、いえ! そのようなことは!」
「では肩の力を抜いてください。あなたが肩に力を入れているのを見ると、こちらも肩に力が入ってしまいます」
「も、申し訳ありません。その……あなたが……とても綺麗になられていたので緊張してしまって……」
「ありがとうございます。レオナルト皇子もカッコよくなりましたよ。いえ、こんな言い方はいけませんね。あなたはとてもご立派になられた。いまやあなたの名声は王国にも轟いています。民を助ける英雄皇子と」
「そんな……僕は周りに助けられているだけです」
「それでも民を助ける決断はあなたのしたことでは? あなたの優しさがそのままであることを私は嬉しく思います」
そう言ってレティシアはレオに手を差し出す。
レオは緊張した様子でその手を取り、握手をかわした。
そしてさらにいくつか言葉を交わした後、二人は城へと歩いていく。
そんな中でレティシアがこちらを見た。
まるで澄み切った空のように蒼い彼女の瞳が俺を捉え、レティシアはニッコリと笑って俺に手を振った。
さすがに手を振り返すわけにもいかないので、軽く会釈して返す。
変わらない人だ。いつでもどこでも彼女は彼女だ。マイペースといってもいいかもしれない。
「むー……」
「どうした?」
「さすがは聖女。妾も見惚れてしまったぞ! 認めようではないか! 妾の次の次くらいに美しい!!」
「お前はどこまでも上から目線だな……で? お前の次に美しいのは誰だ?」
「それは帝国一の美女だ」
フィーネか。
喋っているところは見たことはないが、挨拶くらいはしたことがあるだろう。
フィーネですら自分の次なのだから、オリヒメも大概だな。
どいつもこいつも自分を持っているのはいいことだが、マイペースすぎると合わせるほうがしんどい。
「ちなみにエルナはどこらへんになる?」
「欄外だな」
「それも本人の前では言わんでくれよ……」
そう言って俺はため息を吐く。
要人が集まってきたということは面倒事も増えるということだ。
どうか面倒事が少なくなりますように。
そう願いながら俺はバルコニーを離れるのだった。