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第百八十一話 第六皇子と第九皇子

発売まであと五日!

活動報告で書籍の内容について触れているので見てみてください!m(__)m




「ではアルバトロ公国の要人への接待役は第六皇子コンラートに、ロンディネ公国の要人への接待役は第九皇子ヘンリックに任せることとする。第七皇子アルノルトは引き続き、ミヅホ仙国の仙姫殿の接待役だ。よいな?」


 玉座の間にて父上がそう告げた。

 俺を含めた三人の皇子が静かに頭を下げる。

 父上の決定は絶対だ。異論なんて挟む余地はない。

 そもそもこの場に集められた皇子たちは帝位争いにおいて脇役だ。

 脇役らしく割り当てられた国も小国ばかり。

 俺たちでも事足りる格の国ということだ。まぁミヅホに関してはオリヒメの意向によって俺を選んでるだけだが。


「こちらの招待に応じない国もいくつかあったが、主要な国はほとんど来る。どれも重要な国ばかりだ。くれぐれも国の規模で判断することのないように。横柄な態度など取ってみろ? 皇子の地位をはく奪するぞ」


 そう言って父上が目を細めて俺たちに向けて忠告する。

 それに対して答えるのは第九皇子ヘンリックだった。


「お任せください。皇帝陛下。帝国の皇族として恥ずかしくない振る舞いを約束いたします」

「わしが心配しているのはお前なのだがな……」


 父上が呆れたようにつぶやく。

 第九皇子ヘンリックは十六歳の皇子だ。

 中途半端な長さの緑髪が特徴的な皇子であり、その母は第五妃ズーザン、その姉は第二皇女ザンドラだ。

 二人とはかなり距離を置いていたこともあり、わずかな謹慎だけで許された。

 その性格は母譲りというか、姉譲りというべきか。

 皇族としてのプライドが高く、他者に厳しい。父上が横柄な態度をとりそうだと思うのもわかる。

 接待役の意味をおそらく理解していない。たぶん出迎えてやるとか思っているんだろうな。

 今も自分が心配の種だと言われて、ムッとした表情をしている。侮られたと感じているんだろう。

 父上の言葉にそんな風に反応している時点で、不安要素ですと公言しているようなもんだ。


「お言葉ですが皇帝陛下。心配すべきなのはアルノルトでは?」


 そう言ってヘンリックは俺に標的を移してきた。

 俺はその言動にため息を吐く。

 こいつは昔から俺を目の敵にしているし、レオには激しいライバル心を燃やしてきた。

 庶民の血が入っている俺たちが自分より上だというのは許せないらしい。だからこいつは俺たちを兄扱いしない。

 正直、面倒だ。


「はいはい。気を付けるよ」


 適当に受け流すとヘンリックが俺を睨みつける。

 この反応も気に入らないんだろう。

 でもまともに相手しても睨まれるし、どっちにしても一緒だ。


「いやー若者は元気だねー。おじさんついていけないっす」

「二十そこそこの若造が何を言っておる……」

「もう二十一ですって。お父上。十代の若者と比べたらおじさんっすよ」


 そんな爺臭いことを言うのは第六皇子コンラート。

 赤い短髪と顔に張り付いている軽い笑みが特徴の皇子だ。

 これでも母は第四妃、兄はゴードン。武人として育てられたはずだが、このとおり俺並みにやる気がない。

 軽い笑みに軽い口調。完全に突然変異だろうな。

 もしくは父上の血が強かったというべきか。

 俺との違いは怒られない程度には最低限のことをするところか。


「というわけで退出してもいいっすか? 若者に挟まれると疲れるんで」

「はぁ……お前といいアルノルトといい、どうしてそう適当なのだ?」

「お父上に似たんっすよ」


 そう言ってコンラートは父上の許可もまたずに踵を返す。

 そして振り返らずに告げる。


「ご安心を。接待役はちゃんとやりますから」

「そこは心配しておらん。まったく……お前たちも下がれ」


 そう言って父上は俺とヘンリックを下げる。

 玉座の間を出た俺はすぐに自分の部屋に帰ろうとするが、そんな俺をヘンリックが呼び止めた。


「待て、アルノルト」

「なんだ? ヘンリック」

「呼び捨てにするな! 立場を弁えろ! 出涸らし皇子!」


 そう言ってヘンリックが怒りを露わにした。

 立場を弁えろときたか。この場であれば年長の俺に敬意を払うべきなのはヘンリックのはずなんだがな。


「僕とお前が同格なんて思うなよ? 僕の下には姉上の勢力がそのまま引き継がれている。僕はこれから帝位争いに参戦するんだ!」

「そうかい。じゃあ頑張れ」


 先ほどと同じように俺は受け流して歩き出す。

 たしかにヘンリックの下にはザンドラの勢力が引き継がれた。

 とはいえ、その勢力は全盛期の六割程度。残る四割のうち、半分はエリクにつき、もう半分は帝位争いから手を引いた。

 偉そうにするのは結構だが、第四勢力というには弱小すぎる。

 今から皇帝位を目指すのはほぼ不可能だろう。ましてや借り物の勢力では望みは薄い。


「待て! 馬鹿にしているだろ? 今から皇帝を目指すなんてと!」

「……悪いことはいわんからやめておけ」


 そう忠告するとヘンリックは高笑いを始めた。

 しばらくその高笑いはやまない。

 何がおかしいのか。俺には理解できなかった。だから俺はヘンリックの言葉を待つことにした。


「あっはっは!! 傑作だ! 帝位争いに参加するからといって、僕が皇帝位を望むとでも?」

「違うのか?」

「ふん、この勢力で勝てるとは思っちゃいないさ。僕は頭のいい方法をとる。各勢力に手を貸すのさ。そして帝位争い後に確固たる地位を確保する!」

「……そんなに上手くいくか?」

「上手くいくさ。協力者もすでにいる」


 そう言ってヘンリックは俺の後ろを見る。

 それにつられて振り返ると、そこにはギードがいた。


「やぁアルノルト」

「……ホルツヴァート公爵家か」

「そうさ! 僕はホルツヴァート公爵家の協力を得た! これでお前たちには万に一つも勝ち目はないぞ! 僕は決してお前たちには協力しないからだ!」

「残念だったな。アルノルト。あのときに僕の誘いを受けておけばこんなことにはならなかったのに!」


 似た者同士、波長が合うんだろうか。

 同時に高笑いが始まる。

 どちらもプライドが高く、他者を見下すことで自分の自尊心を満たすタイプだ。

 悪いことだとは言わない。人間は大なり小なりそういう性質を併せ持つ。

 とはいえ、こいつらのは度が過ぎているが。


「じゃあお手並み拝見だな。自分が思ったとおりに帝位争いを進められるといいな」


 そう言い残して俺はギードの隣を通り過ぎようとする。

 だが、ギードが俺の腕を掴む。


「まだ何か?」

「慈悲だ。アルノルト。ここで頭を垂れてみじめに情けなく謝罪しろ。そうすればヘンリック殿下にお前とレオナルトの勢力に協力してくれと頼んでやってもいい」

「はは、それはいいな。謝ってみろ、アルノルト!」


 二人の耳障りな声は頭まで響いてくる。

 まったく、ふざけた奴らだ。

 ここで俺が謝ったところで何も変わらない。

 ヘンリックは俺たちの生まれから嫌っている。それがある限り、ヘンリックは俺たちには協力しない。たとえギードが頼んだところで、だ。

 それがわかっているから俺は静かにギードの手を払う。


「悪いがもう簡単には情けない姿を晒せないんだ。レオの評判に傷がつくからな」

「今更レオナルトの評判を気にするのか! 笑わせる! すでにお前はレオナルトの汚点だよ! お前のような兄を持って、レオナルトは本当に不幸だよ!」


 そうギードが告げた瞬間。

 強烈な殺気が廊下に満ちた。

 そちらを見るまでもない。ここまで殺気を放つ奴なんて数えるほどしかいない。


「ほかに言い残すことはあるかしら? ギード」

「え、エルナ!?」


 こちらに向かって歩いてきたエルナがそう凄むとギードは腰を抜かして後ずさる。

 そんなギードからヘンリックに視線が移される。

 さすがのヘンリックもエルナの殺気の前では何も言えないらしい。怯んだように一歩後ずさる。


「エルナ。あまり脅かすな」

「失礼ね。脅しじゃないわ」


 そう言ってエルナは右手を剣にかける。

 まさかそんなことをするとは思ってなかったギードが悲鳴をあげるが、ヘンリックはそれすらも脅しと踏んだようだ。


「ふ、ふん! できるものならやってみろ! 皇族に剣を向けるということがどれほどの重罪か知らないわけじゃないだろ!」

「そうですね。ヘンリック皇子。なら皇族の行く手を阻むことが重罪だというのもご存じでは?」

「そ、それは……僕が許可したからいいんだ!」


 ギードのことを示したエルナに対してヘンリックはそんな屁理屈で応じた。

 まったく相手にするだけ無駄。

 そう思って俺はエルナの手を引いてその場を去ろうとする。

 だが、その前に廊下に声が響いた。


「――なら僕が許可する。斬っていいよ。エルナ」

「よかったわ。こっちも許可が出た」

「はぁ……」


 嬉嬉としてエルナが剣を抜こうとする。

 俺は呆れつつもその手を押さえて、許可を与えた人物を見た。


「煽るなよ、レオ」

「仕掛けられたならやり返す。兄さんの方針でしょ?」


 そう言って歩くレオの後ろには多くの貴族が付き従っていた。

 それはすべてレオの支持者である貴族たちだ。会議の後といったところか。

 その数が今のレオの勢力を物語っている。

 そんな支持者たちを引き連れたレオは真っすぐヘンリックを見る。


「ヘンリック。君が立ちふさがるというなら容赦はしない」

「くっ……! 庶民の血筋が偉そうに! 貴様らなんてエリク兄上の相手ではない! 僕が協力すれば絶対に勝ち目ないんだぞ!」

「勝ち目のない戦いなんて何度も通ってきた。今更その程度で怯むほど僕らは弱くない。困難な道だなんて初めから承知の上で参戦しているんだ。その道を突破してこそ、誰もが認める皇帝になれる。半端な覚悟で僕らの邪魔をしないほうがいい」


 そう言ってレオはヘンリックに忠告する。

 それは最後通告でもある。

 これが最後の引き際だ。

 しかしヘンリックは顔をゆがめてレオに張り合うことを選んだ。


「僕だって半端な覚悟で参戦なんてしないさ! 死ぬ覚悟くらいできている!」

「それが半端な覚悟だって言ってるんだ。僕らは死にたくなくて、死なせたくないから戦ってるんだ! これ以上、無駄な流血はごめんだ。退け! ヘンリック!」

「退かない! 僕は認めない! お前たちなんて僕は認めない!!」


 そう言ってヘンリックはその場から走り去ってしまった。

 残されたギードは気づかれないように逃げようとするが、レオはそんなギードを呼び止める。


「ギード・フォン・ホルツヴァート」

「は、はい!?」

「お父上に伝えておいてくれ。これ以上、帝位争いをかき乱さないでほしいと」

「りょ、了解しました!」

「それと……兄さんへの接し方は改めたほうがいい。僕やエルナは兄さんが馬鹿にされるとつい剣に手が行ってしまうからね」

「ひっ……!」


 ギードは恐怖にゆがんだ表情のままその場を立ち去る。

 それを見届けたあと、俺はレオのほうを向く。


「わざと威圧的に振る舞ったな?」

「ヘンリックは僕らを敵対視してるからね。どうせ敵になるなら少しは怖がらせておこうかと思ってね」


 そう言ってレオが軽く舌を出す。

 茶目っ気のあるそのしぐさを見て、俺はため息を吐く。

 帝位争いが始まった当初は、こういう芸当はできなかった。成長といえば成長なんだろうが、なんだかやり方が俺に似てきた気がする。


「複雑そうね?」

「純粋な弟が毒されてしまった気がしてな」

「毒した人間が何いってるのよ」


 エルナにそう突っ込まれて俺は顔をしかめる。

 弟の成長を喜ぶべきか、それとも嘆くべきか。

 そんなことを思いつつ、俺はレオとその支持者たちと別れた。


「お前はなにしてるんだ?」

「陛下に呼ばれたのよ。たぶん近衛騎士への復帰の話でしょうね」

「そうか、ようやくだな」

「そうね。私としてはもうしばらくフリーの立場でいたかったんだけど……まぁ復帰させてもらえるなら素直に復帰させてもらうわ。近衛騎士でいたほうが協力できることも多いだろうし」


 そう言ってエルナは笑顔で玉座の間へと向かっていく。

 エルナを近衛騎士に復帰させるということは、万全の体勢で式典を迎えるという父上の姿勢が見て取れる。

 いよいよ式典が始まろうとしていた。

 何事もなければいいが……きっとそれは叶わない夢なのだろうな。

 そんなことを思いながら俺は自分の部屋へ戻るのだった。



そろそろ新しい人物紹介が必要かな?

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[気になる点] せっかく気色悪いやつを黙らせてもらったんだから文句言うな、アルよ。 じゃなきゃ自分で蹴散らせ。
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