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第百七十九話 聖女と藩国

発売まであと少しとなったので、活動報告で少しずつ書籍の内容に触れていこうと思いますm(__)m

気になる方はぜひ確認してみてください!


 




 エルフの要人の接待役がクリスタとフィーネに決まってからさらに数日。

 エリクとレオ、そして俺は父上に呼ばれた。

 エリクとレオが呼ばれた理由はわかる。接待役となる国を決める気だろう。

 しかし俺が呼ばれたのはどういう意味だ。

 接待役ということなら、オリヒメが俺を指名している。指名があるということはほぼ決まってるようなものだ。わざわざそれを却下すれば評判が下がるだけだし、帝国はオリヒメには強く出れないしな。

 そんなことを思いながら俺は最後に玉座の間に入った。

 すでに父上とフランツ、そしてエリクとレオはいた。


「遅いぞ。アルノルト」

「急いだつもりなんですけどね」

「走ってこい」

「疲れて受け答えができなくなってもいいならそうしますけどね」


 俺の返事に父上が眉を顰めるが、横でフランツが咳払いをする。

 今はそんなことを話している場合じゃないってことだろう。


「ふん……エリク、そしてレオナルト。お前たちが接待役をする国を決めたいと思う。希望はあるか?」

「父上のご命令であればどのような国でも構いません」


 レオが先んじて無難な答えを返す。

 それに対してエリクは一拍置いてから答えを返した。


「私は皇国を希望します」

「ほう? その理由はなんだ?」

「外務大臣として幾度も足を運んだ国ですし、レオナルトよりは私のほうが反感は買わないかと」

「レオナルトでは駄目な理由はなんだ?」

「十一年前、ドワーフの一件で皇国と帝国は揉めました。その時にレオナルトの母であるミツバ殿が陛下に会っているのは向こうに知られています。あの一件の詳細までは知らないでしょうが」


 そう言ってエリクがちらりと俺を見る。

 お前が起こした問題のせいだぞと言われた気がしたけど、もう過去のことだ。言われたってどうしようもないため、俺は肩をすくめて受け流す。

 それを見てエリクは軽くため息を吐きつつ、言葉を続ける。


「あの一件でミツバ殿に良い感情を持っていない者も多いでしょう。ですから私が皇国の要人を接待したほうが無難かと」

「ふむ。どう思う? フランツ」

「エリク殿下の言う通りかと。余計な問題を起こしている暇は我々にはありませんので」

「なるほど。ではエリクに皇国は任せる。それでよいな? レオナルト」

「構いません」


 そう言ってレオは何も言わずに頭を下げる。

 こうなることはわかっていた。だからレオはさっさと無難な答えを返したんだ。皇国と王国では皇国のほうが帝国内での評価は上だ。その接待役となるということは大きいが、エリクは皇国に知り合いも多い。どう頑張ったって勝てないなら争わないほうがいい。

 どうせ二択だ。余ったほうがレオに転がってくるなら悪い話じゃない。


「そうなると王国の接待役はレオナルトだな」

「それがよいかと。王国の代表者もレオナルト殿下かアルノルト殿下を希望しておりましたから」

「俺とレオを?」


 気になる言葉に俺は思わず反応する。

 王国は十一年前に帝国と一戦交えている。その後、少しずつ交流を深めてきた。

 こちらからも人を派遣し、向こうからも人が帝都にやってきた。そのうちの一人だろうが、俺とレオがそこまで仲良くなった人物がいただろうか。

 一瞬、記憶の海を潜る。

 だが俺がその人物を思い出す前にレオが告げた。


「まさか……〝聖女〟様が来られるんですか?」

「ご名答だ。よくすぐに出てきたな?」

「……よく覚えていますから。滞在したのは二日だけでしたが」

「そうだ。向こうもその時の事を覚えていたらしくてな。アルノルトは忘れているようだな」

「言われて思い出しましたよ」


 そうだ。

 今から五年前。当時、十三歳の俺たちは王国からやってきた少女と二日間過ごした。

 一つ年上だったその少女は〝聖女〟と呼ばれていた。

 その二年前、当時十二歳だった少女は伝説の杖を手にして、複数の国と戦争状態だったペルラン王国を救った。

 帝国とも国境にて睨みあいが続いていたため、大使としてその聖女は帝国にやってきた。

 仲良くなったのは偶然だった。その聖女が俺たちの母上と話をしているときに俺たちが母上に会いにいったから。

 楽しい二日間だったのを覚えている。

 そうか、向こうも覚えていたか。


「救国の聖女レティシア。彼女が王国の代表というわけですか」

「そうだ。王国としては帝国とさらに条約などを結びたいようだ。彼女が出てくるということはそういうことだからな」

「前回も国境での緊張を解いたのは彼女ですからね。接待役には政治的な判断も求められるかもしれません」

「全力を尽くします」


 いつになくやる気満々な顔でレオがつぶやいた。

 その顔を見て軽くため息を吐きつつ、俺は自分の用件を済ますことにした。


「それで? どうして俺も呼ばれたんですか?」

「……少々面倒なことになってな」

「また面倒事ですか……いい加減、面倒事のたびに俺に押し付けようとするのは」

「コルニクス藩国から要人がやってきます」


 その名をフランツが口にした瞬間、俺は一瞬頭が真っ白になった。

 それだけあり得ない国の名前が飛び出してきたからだ。

 俺、レオ、そしてエリクは黙り込み、険しい表情を浮かべて父上を見る。

 父上はそれを軽く目を細めながら受け止めた。


「正気ですか?」


 それはエリクの声とは思えないほど感情のこもった声だった。

 こもる感情は怒り。そしてそれはレオも負けてはいない。


「コルニクス藩国は……三年前にヴィルヘルム兄上を殺した国ですよ!?」

「その通りです! 宗主国であるイーグレット連合王国ならまだしも! 謝罪もせず、一部家臣の暴走ということで片付けたあの国を歓迎するおつもりか!? 父上!! 奴らはヴィルヘルムの命を奪ったのですぞ!!」


 激情が玉座の間を包む。

 それだけ長兄の死、そしてそれに関わった国への恨みは重い。

 コルニクス藩国は帝国北部にある国だ。かつては独立国だったが、島国国家であるイーグレット連合王国に敗れてからはその属国となっている。とはいえ、半独立国という存在でわりと自由に動き回る。

 そのコルニクス藩国との国境で起きた戦闘で皇太子だった俺たちの長兄、ヴィルヘルムは命を落とした。それに対して、コルニクス藩国は家臣の暴走であったと説明し、一部の家臣の首を差し出すだけで済ませた。

 もちろん帝国はブチ切れた。滅ぼしてしまえという意見も多かったが、有望すぎる皇太子の死は父上を悲しませて反撃の気力を無くさせた。

 それとは別に父上は藩国とは関係ないところで暗殺が起きたと考えていた。その調査に時間を費やし、結局は反撃の機会を逃したともいえる。

 だからこの問題はまだ解決していないんだ。

 多くの者にとって藩国は皇太子の仇となっている。

 いつもは穏やかなレオですら、家臣にすべてを擦り付けて問題を終わらせようとする藩国の対応には激怒していた。その怒りがぶり返したようだな。


「もう――過去のことだ。我々は前を向かねばならん。向こうから友好を結びたいといってきたのだ。手を払いのけては無礼に当たる」

「ですが!」


 レオはまだ納得いかない風だったが、父上の目を見て黙り込む。父上だってすべて納得しているわけじゃない。そんな目だった。


「ではその接待役を俺にさせたいということですか?」

「頼めるか? 連合王国からも要人は来る。それはゴードンに任せるつもりだ」

「……少し考えても構いませんか?」

「いいだろう。自分にできないと思うなら断ってもかまわん」


 父上はそういうと俺たちを下がらせた。

 そして俺とレオは無言で城の廊下を歩いていく。


「……断ったほうがいいよ」

「そう思うか?」


 ようやく口を開いたレオに対して俺は苦笑する。

 いまだに仏頂面だ。珍しいことだな。


「やりたくないんでしょ?」

「やりたくないわけじゃない。時間をもらったのは周りが納得するか知りたかったからだ」

「周り?」

「一番はらわたが煮えくり返ってるのは俺たちじゃない。きっとトラウ兄さんだろうからな。トラウ兄さんがいいなら俺は引き受ける」


 同母弟であるトラウ兄さんは長兄が亡くなった日。

 初めて怒りを露わにした。

 自分が軍を率いて藩国を攻めるとまで言ったほどだ。

 この問題はトラウ兄さんの意見を聞かないと決められない。


「俺は大丈夫だ。怒りがないわけじゃない。だけど、父上だって怒りを飲み込んでる。トラウ兄さんも飲み込むっていうなら俺だって飲み込む。だからお前はこの問題は忘れろ」

「でも……」

「その顔で聖女様を出迎える気か?」


 怒りに濁ったレオの顔はいつもとは違う。

 とても女性に向けていい顔ではない。

 言われて自分がそういう顔をしていると初めて気づいたのか、レオはゆっくりと深呼吸する。


「――わかったよ。この問題は兄さんに任せる」

「そうしろ。お前はどうやって聖女様を出迎えるか考えておけ。なにせ――」


 お前の初恋の相手だからな。

 そう俺がニヤリと笑って告げるとレオは顔を真っ赤にして押し黙ったのだった。

テコ入れだ。これでレオの名前を間違える輩は減るはず( ̄ー ̄)ニヤリ

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