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第百七十話 霊亀の逆襲

明日の18時に活動報告でカバーイラストを公開します(/・ω・)/




 霊亀は残る鱗で迎撃を図る。だが、半端な迎撃で止められるような二人じゃない。

 迫る鱗を二人は掻い潜り、霊亀の顔に肉薄する。狙うは目だろう。


「はぁぁぁぁぁ!!」

「ぬん!!」


 二人の渾身の突きが霊亀の目に迫る。

 通った。そう思った瞬間、二人の動きが空中で止まった。


「ぐっ!!」

「ちっ!!」


 二人は顔をゆがめて動こうとするがビクともしない。そして二人はそのまま地面まで急降下していく。

 なんとか着地した二人だが、その場から動くことができない。まるで重りを乗せられたような動きだ。


「重力か……!!」


 鱗を迎撃しながら俺は霊亀の能力に気づく。

 この鱗を操っているのもその能力の応用か。

 そうなると二人がまずい。重力関連の能力なら下に向けた攻撃のほうが威力は格段に上がるからだ。

 俺の周りにあった鱗が一気に霊亀の顔付近に集まっていく。

 そして鱗は集結して、二本の巨大な槍に変わる。

 そのままその槍は一気に二人に急降下していく。


「調子に乗るな!!」


 俺は転移門をエルナの近くに開き、鱗が集結した槍を呪鎖で縛りつける。

 急降下していく槍は呪鎖によって動きを止め、その間にエルナは転移門に移動して重力の効果から逃れる。

 エゴールのほうはオリヒメが張った結界によって槍は止められ、エルナ同様に重力から逃れたようだ。

 そうなると俺が一番危険な位置にいることになってしまう。

 さっさと呪鎖を解除して、俺は霊亀の傍から離れて、残る三人を転移で集結させた。


「なかなか厄介な能力を持っているようだな」

「まいったまいった。びっくりして数年来の肩こりが治ってしまったようじゃ」


 わっはっはとエゴールは告げる。

 びっくりして肩こりが治るってどんな体質しているのやら。

 俺はエルナに視線を向けると、エルナは悔しさを隠そうともせずに霊亀を睨んでいた。


「私を地面に叩きつけるなんて……屈辱だわ!」

「やる気は萎えていないようでなによりだ」

「萎えるわけないでしょ! 絶対に斬ってやるわ!」

「言うは易く行うは難しという。あれでは容易には近づけぬと思うのだが?」


 オリヒメがそう疑問を投げかける。

 挑発ではない。無策では意味がないということだろう。

 まったくもってそのとおりだ。気持ちで突破できるならさっきので突破できている。


「同じやり方では同じ結末だろう。攻め手を変える必要があるな」

「どうするのよ?」

「近づいてからの弱点への攻撃では相手の防御を突破できない。ならば外から仕掛けるしかないだろう」


 できれば避けたいところだったが、全力で霊亀の防御を突破するしかない。

 この面子で総攻撃をかけたら地形が変わるだろう。しかし、もはやそこらへんに配慮はしていられない。

 ここで止めないと北部の都市に被害が出る。

 しかし。


「とはいえ、その前に防御に専念したほうがよさそうだ」


 畳みかけるチャンスと見たのだろう。

 霊亀は集結させていた鱗をまた一枚一枚に戻して、自分の周りに散らせてた。

 何をする気なのやら。


「何が来ようと妾が防いでみせようぞ!」

「そうしてくれるとありがたい。総攻撃前に力は使いたくないのでな」

「そうね。守りは全部任せるわ。そこが長所なわけだし」

「そこしか長所がないように言うでない! 妾には無数の長所があるぞ!」

「あら? そうだったの? じゃあ参考までに聞かせてもらえる?」

「よくぞ聞いた! 妾の長所の一つ目が耳が可愛い! 二つ目は尻尾が可愛い! 三つ目は妾はとっても可愛い!」

「外見だけじゃない! 今は役に立たないでしょうが!」

「四つ目は年の割に胸が大きい! そなたよりは全然大きいぞ!」

「なんですって!?」


 はぁ……。

 これから敵の攻撃が始まろうってのによくそんなくだらないことを言えるな。

 こいつらは魔王が相手でもこんな言い合いをする気がする。


「エゴール翁。剣聖と呼ばれるあなたは三度も機会があれば何でも斬れるという噂だが、そろそろ鱗を斬れそうか?」

「ふむ、まぁ硬さは覚えた。次は薄紙のように切り裂いてみせよう」


 そう言ってエゴールは闘志に満ちた表情を見せた。

 それが剣聖と呼ばれるエゴールの本当の顔なんだろう。

 どれだけ好々爺のようにふるまっていても、その本質は剣士だ。自分の刃を防ぐモノを容認するほど穏やかではないだろう。

 エゴールほどの達人が虚勢を張るとも思えないし、実際に感触をつかんでいるんだろう。

 となると。


「女勇者。聖剣を全力で振れるか?」

「なに言ってるの? 当たり前でしょ?」

「俺が言ってるのは聖剣の力をさらに引き出せるかという意味だ」

「……ずいぶんと聖剣に詳しいのね?」

「古代魔法を習得する際に聖剣についても学んだのでな。どうなんだ? 魔王を倒した聖剣だ。この程度ではないのだろう?」

「そうね。聖剣にはいくつかの封印が施されてるから、それを外せばさらに威力は上がる。けど……それをすればきっと地形が変わるわ」

「心配はもっともだな。同じ心配をしていた。だがあれをそのままにもできない。覚悟を決めろ」


 俺の言葉にエルナは静かに目を瞑ったあと、ゆっくりと頷く。

 エルナが本気で聖剣を振るえば、被害は避けられないが霊亀を放置しても被害は増える一方だ。

 そう考えていると霊亀が口を開く。最初のブレスだろう。

 俺たちは身構えるが、霊亀は貯めこんだブレスをすぐには放たない。

 そして霊亀は限界までため込んだブレスを空へと放った。


「むむっ!? 二百年で耄碌したか!?」

「そんなわけないでしょ! 落ちてくるわよ!」


 エルナの言葉どおり、一度空に放たれたブレスは拡散して、無数の球体となって空から降ってきた。

 まるで隕石群だ。

 しかもさらに厄介なことにその球体の軌道を調整するために鱗がいくつもの盾のように変化して、落ちてきた球体を弾いて不規則な軌道を作っている。

 光を反射する鏡のように鱗の盾は黒い球体を弾き、俺たちに向かうように仕向けている。


「これは困った! 全方位ではおそらく持たん!」

「それが狙いだろうな! できるだけ回避しろ!」


 俺は指示を出して、その場を移動する。

 拡散しているとはいえ霊亀のブレスだ。いくらオリヒメの結界でも全方位に力を振ってしまえばいずれ突破されてしまう。

 オリヒメとエゴールは左に、俺とエルナは右に飛んで黒い球体を躱す。

 だが一撃だけでは終わらない。

 二つ、三つと球体は俺たちを追ってくる。

 そんな中で俺はエルナを連れて転移しようとするが、エルナの視線は別のところに釘付けになっていた。

 その視線の先を俺が追ったとき。

 すでにエルナは全速力で駆けていた。


「嘘だろ……」


 エルナの視線の先に居たのは二人の子供だった。

 男の子と女の子。どこかで親とはぐれたのだろう。

 空を見て二人は茫然としている。

 霊亀が放った黒い球体はあちこちに着弾しており、その余波だけで子供たちは容易に吹き飛ばされてしまうだろう。

 だからエルナは駆けた。

 子供たちを守るために。

 だが、それはこの状況下では致命的な隙となる。

 

「待て! エルナ!」


 俺の声は降りかかる黒い球体に遮られる。

 舌打ちをして俺は転移門を開くが、その間にもエルナは危険を覚悟で進み続ける。

 そしてエルナの少し先、子供たちがいる場所に黒い球体が向かっていく。

 間に合うか間に合わないかギリギリのタイミングだ。

 そんなことはエルナも承知の上だっただろう。

 だが、それでもエルナは子供たちの前に滑り込み、黒い球体を弾き飛ばした。


「はぁぁぁぁ!!」


 しかし、そのせいでエルナの動きは止まってしまった。

 そこを見逃してくれる相手ではなく、いくつもの黒い球体がエルナに向かっていき、エルナは捌き切れずに黒い球体の直撃を受けて大きく吹き飛ばされたのだった。

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