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第百六十九話 小手調べ



≪我は天意を代行する者・我は天と地の法を知る者・断罪の時来たれり・咎人は震え罪無き者は歓喜せよ・我が言の葉は神の言の葉・我が一撃は神の一撃・この手に集まるは天焦がす劫火・天焔よ咎人を灰燼と化せ――エクスキューション・プロミネンス≫


 巨大な魔法陣が浮かびあがり、輝く炎の閃光が霊亀に向かって放たれる。

 挨拶代わりの一撃だ。

 かつてマザースライムごと山を燃やし尽くした魔法だが、霊亀に効くかどうか確かめるために一撃だ。

 霊亀は俺の魔法をよけようともしない。まぁあの巨体で避けるような動きができたら驚きだが。


「おお!? 直撃ではないか! やったか!?」

「いや……」

「全然効いてないわね」


 土煙から霊亀が現れる。少しはダメージが入ったかと思ったが、本体はノーダメージだ。甲羅の上にあった山は吹き飛んだが、霊亀からすれば邪魔な物を吹き飛ばしてくれてありがとうってところか。

 これは高火力の魔法を連発しないとどうにもならなそうだな。


「とりあえず向こうの手を見たい。エゴール翁」

「承知」


 俺の言葉を受けて、エゴールは一気に霊亀にまで詰め寄る。そして足をそのまま登り始める。

 狙いは首とその先にある顔だろう。さすがの霊亀もそこは他より防御が薄いだろうからな。

 だが、それを許すほど霊亀は悠長でもなかった。

 一度は深手を負わされたエゴールが相手だ。その反応は激烈だった。


「むっ?」


 エゴールは高速で走る中で、横から飛んできた何かを飛んで躱す。

 それは鱗だった。

 霊亀の甲羅についている鱗が飛んできたのだ。それも一枚じゃない。数百、もしかしたら千にも届くかもしれない鱗が自律して攻撃を仕掛けてくるのだ。

 俺の魔法をものともしない鱗だ。ひとたび高速で飛んでくれば名刀以上の切れ味を誇るだろう。

 エゴールは面白いとばかりにその鱗の攻撃を迎え撃った。


「甘いわ!!」


 次々に襲い掛かってくる鱗をエゴールは苦も無く弾いていく。

 そして一連の攻撃をすべて防ぎきってしまった。大陸中にいる剣士たちなら、剣聖の妙技に拍手を送るところだが、あいにく今この場にいるのは剣に興味がない魔導師と仙姫、そして同格の勇者だ。加えて相手は霊亀。その程度の剣術では突破口にはならない。


「おやまぁ」


 エゴールは小さくつぶやく。

 視線の先では先ほどの倍はある鱗が突撃準備をしていた。

 これではキリがないだろう。

 俺は転移でエゴールの傍へ飛び、元の場所に連れ戻す。


「仙姫殿」

「心得た!!」


 飛来してくる無数の鱗に対して、オリヒメは全方位に結界を張る。

 エゴールを追ってきた鱗たちはオリヒメの結界を突破することができず、大人しく霊亀の下へ帰っていき、最初の攻防は終了した。


「で? どうするのかしら?」

「遠近の防御は完璧みたいだな。掻い潜る自信は?」

「五分五分じゃな。あれだけ数が多いとどこかで足を止められる」

「足を止められたら全方位からの攻撃ね。防げなくはないけど、攻撃の機会は失うわ」

「役に立たん剣士たちだな。剣聖と勇者が聞いて呆れるぞ?」


 オリヒメがいらんことを言ってエゴールとエルナを挑発する。

 エゴールは手厳しいのぉなんて笑っているが、エルナは眉間に皺を寄せて、ガンをつけている。毎度恒例の女ならしちゃ駄目な顔だ。


「守るしか能がないのに生意気ね」

「なにぃ?」


 二人の視線が激しく交差する。

 まったく霊亀を前にして喧嘩とか、暢気な奴らだ。


「とはいえ、どちらも個人での打開は不可能だ。そんなこともわからないなら俺は君らを転移で後方に飛ばさなきゃいけないが?」

「……わかってるわよ」


 エルナが拗ねたようにそっぽを向く。

 オリヒメも不満そうな顔をしつつ、俺の言葉に反論はしてこない。

 こいつらを上手く使わないと最悪の消耗戦だ。こんなところで喧嘩なんてされては困る。


「個人で打開は不可能だとして、どう崩す気じゃ? シルバー」

「遠距離から崩したところで防御は突破できない。狙うは弱点への攻撃だ」

「顔かしらね」

「そうじゃな。首にも鱗がある。目か口あたりじゃろうな」

「俺は女勇者のサポートに回る。仙姫殿はエゴール翁のサポートを頼む。二人一組で攻めて、顔を狙う。主攻は剣士組だ」


 簡単な作戦を伝えると全員が頷く。

 細かい作戦はなしだ。そもそも霊亀がどんな手を隠しているかもわからない。個人の能力任せで対応していくしかない。実際、それができる面子ではある。


「好きに動け。こちらが合わせる」

「言われなくてもそうするわよ。対応が遅れるようなら置いていくわよ?」

「こっちのセリフだな。あまりにもお粗末ならサポートはしない」

「なんですって!? そこはしなさいよ! 私のフォローをするのが仕事でしょ!?」

「安心せよ! 剣聖! 妾が守ってやろう!」

「嬉しいのぉ。誰かに守られるのなんていつぶりだろうかのぉ」

「うむ! ドンと構えておれ! ただうっかり結界を張り忘れたら許せ!」

「サポート役がどっちも不安なのはなぜかしら……」


 剣士組だって変わらんだろうに。

 そんなことを思っていると、エルナは呆れたようにため息を吐くとゆっくりと右手を天に向かって伸ばす。


「我が声を聴き、降臨せよ! 煌々たる星の剣! 勇者が今、汝を必要としている!!」


 白い光が天より落ちてくる。

 それはエルナの手に掴まれ、やがて白い光が薄れて輝く銀色の細剣へと変わっていく。

 五百年前、勇者が魔王を倒したときに使った伝説の聖剣・極光。流星から作られたと言われるそれは、万物を切り裂き、魔の存在を一切許さない。

 およそ考えうる限り最強の剣だ。

 エゴールはエルナよりも経験があるだろうが、エルナにはそんなもの軽く吹き飛ばしてしまう単純な力がある。

 聖剣を持ったエルナの攻撃力は大陸一であることは間違いない。

 ただそんなエルナであっても霊亀の防御を真っ向勝負で突破しようとするのは分が悪い。

 聖剣は大陸最強の武器であるが、エルナとてすべてを扱いきれているわけじゃない。初代勇者ほどには使いきれてはいないだろう。エルナ自身が昔、そう言っていた。召喚できるからといって使いこなせているわけではないと。

 

「聖剣か。久しぶりに見たのぉ。その若さで召喚できるとは大したものだ」

「お褒めにあずかり光栄です。エゴール翁」

「待て待て。妾に対する態度となぜ違う?」

「剣を扱う者として達人には敬意を払うわ。当然でしょ?」

「妾がこんな迷子老人より劣ると言うのか!?」

「迷子は関係ないわ。剣聖は剣聖よ。結界だけの仙姫とは違うのよ」

「ムッキー!!」

「わっはっは!! 愉快な娘さんたちだ!」

「頼むから集中しろ……」


 緊張感が欠片も感じられないのはなぜなのか……。

 まぁ悲壮感が漂うよりはましか。

 それにどれだけふざけていても、大陸屈指の実力者たちだ。

 気持ちを入れるところはわかっているだろう。

 そんな風に考えているとエルナとエゴールがゆっくりと歩きだす。すでに纏う雰囲気がさきほどとは違っている。

 ピリピリした空気を纏った姿は刃に近い。

 それに触発されたのか、オリヒメもすでに臨戦態勢に入っていた。その姿は獲物に向かう獣に近い。

 その姿に安心しつつ、俺はエルナの前に転移門を開く。


「武運を祈る」

「必要ないわ。あなたに祈ってもらわなくても私のために祈ってくれる人はいる。私は何者にも負けない――私は剣だから」


 そう言ってエルナは転移門に飛び込む。

 するとエルナは霊亀の真上に転移した。それを見てエゴールもまっすぐ霊亀に突っ込んでいく。

 空と地上。大陸最高の剣士たちによる同時攻撃だ。

 それに対して霊亀は大きく吠えて、鱗で迎撃を図る。

 エゴールは何枚か弾き飛ばしたあとに大きく跳躍する。そして空中で静止した。

 いや、静止ではなく着地か。オリヒメが結界で足場を作ったのだ。だが、そんなエゴールを鱗が包囲する。

 しかし、鱗はいつまで経っても動かない。


「守るだけが結界の使い方とは思わぬことだ」


 オリヒメは一つ一つの鱗を小さな結界に閉じ込めて、動きを封じたようだ。

 絶対の防御に一つ隙が生じる。

 それを逃さず、エゴールが突撃していく。

 一方、空ではエルナが降下しながら鱗を迎撃している。だが、数が多い。

 すぐにエルナの周りには大量の鱗が集まってくる。その瞬間、俺は自らを転移させる。場所はエルナの隣。


「ここは引き受けよう」

「あら、気が利くわね」


 そう言って俺は新たに転移門を開く。

 エルナはそれを通って鱗の包囲を抜ける。

 俺は自分の周りに無数の風の弾を生成し、襲い掛かる鱗の迎撃にあたる。

 俺を無視することもできない霊亀は鱗を戻すことはできない。

 そして防御が薄い中で、エゴールとエルナの攻撃を受けることになる。

 さて、どう対処する?

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