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第百六十五話 ロストック

活動報告でフィーネのキャラデザインを公開しました!(^^)!

明日も18時にキャラデザイン公開ですm(__)m



 俺たちが転移したのは北部の中では大都市に位置するロストック。

 ここの冒険者ギルドには計画が伝えられており、霊亀の監視もここの冒険者ギルド支部が行っていた。

 しかし、転移した先のロストックはもぬけの殻だった。

 支部の近くに転移門を設置したが、周りには人の気配がないし、支部の中にも人の姿は見えない。


「すでに避難したか」

「この規模の街が即座に避難を終えるとは……領主は前から準備しておったのだな。妾の力を信じていなかったとも取れるが、賢明ではあるな」


 オリヒメが不満そうにしながらも領主の決断を褒める。

 たしかに賢明だし英断だ。

 そんな領主が誰も残さずに街を去るとは思えない。

 俺は宙に浮いて街全体を見渡す。

 すると馬に乗った臨戦態勢の騎士団が目についた。

 向こうも俺の存在に気づいたんだろう。急いで彼らはこちらに駆け寄ってくる。


「騎士団が見えた。こっちに来るぞ」

「用意周到ね。盗賊対策と援軍が来たときの報告用ね」


 エルナの言葉に俺は頷く。

 そして騎士たちがすぐに俺たちの前に現れる。

 だが彼らはこちらを警戒した様子で訊ねてくる。


「名を名乗ってもらおう」

「冒険者ギルド帝都支部所属、SS級冒険者シルバー」

「冒険者……」


 騎士の中の一人が苦々しい表情を浮かべる。

 明らかに嫌悪の混じった表情だ。

 それで俺は雷の勇兵団が何かやらかしたのだろうと察した。やはり突然の結界崩壊に冒険者がかかわっていたか。


「シルバー殿。われらは主より援軍に対する説明として残された。しかし……」

「冒険者は信用できないか。なら皇子に説明しろ。一体、何があった?」


 俺は先手を打ってつぶやき、視線を後ろにいるレオに向ける。

 ここでもたついている暇はない。


「第八皇子、レオナルト・レークス・アードラーだ。僕には説明してくれるかい?」

「で、殿下!? ご無礼をお許しください!」


 馬に乗っていた騎士たちがレオの姿を認めるとすぐに下馬する。

 そんな彼らに対して、レオは優しく問いかける。


「礼儀は気にしなくていい。今は説明をしてくれ。何が起きたんだい?」

「はっ! この街のギルド支部は結界に閉じ込めた霊亀の監視に当たっていました。聞いていた話ではあと数日は持つということでしたが、一部の冒険者がこの機に霊亀を討伐しようとし、霊亀を刺激したことで結界が崩壊してしまいました……」

「その冒険者たちは?」

「監視していた大勢の冒険者を含め、霊亀の攻撃で吹き飛ばされたそうです。生き残った一部の冒険者がすぐに街に報告へ戻り、領主様は最低限の荷物を持っての避難を決断し、民たちをこの場から離れさせました」

「そうか……霊亀の様子は?」

「監視部隊を吹き飛ばしたあとは動きがないようです。ただ今まで閉じていた目はしっかりと開いており、確実に活動中です」


 騎士の報告を受けて、レオは眉を顰める。

 レオとて事態を飲み込めていないんだろう。俺とは違い、計画のことは聞いていなかったからだ。

 それでもレオはすぐに頭を切り替えた。

 今、するべきことをするために。


「街の避難は完了していても、小さな村の避難は完了していないはずだ。僕らはそんな村を見て回る。戦闘はそのあとにお願いしたい、シルバー」

「無論だ。しかし霊亀が動き出した場合はどうする?」

「なるべく足止めを念頭に置いて戦ってほしい。その間にできるだけの避難は終わらせる」

「それは結構だが、北部一帯のモンスターが危機感を覚えて動いているはず。すでにここは危険地帯だ。民を守りながらの避難は非常に難しいぞ? 足止めとなれば仙姫殿も勇者も霊亀に掛かり切りになる。もちろん俺もだ」

「そのために騎士たちと共に来た。僕らの心配は必要ない。逆に聞きたい。これは冒険者ギルドの失態と捉えることもできる。その失態を取り返せるのかい?」


 レオの言葉に騎士たちがギョッとした表情を浮かべた。

 それは紛れもなく挑発だったからだ。

 いくら一国の皇子とはいえ、SS級冒険者を挑発するのはやりすぎだといえる。

 だが、そんなことはレオも承知しているだろう。それでも挑発的な言葉を投げかけたのはシルバーを霊亀に集中させるためだ。


「ふっ……舐められたものだ。伊達にSS級冒険者を名乗ってはいない。対モンスター戦において絶対的な存在だからこそ、我々はSS級冒険者を名乗っている。心配が要らないという言葉をそっくりそのままお返ししよう。冒険者ギルドの失態ならば俺が霊亀を討伐してチャラにして見せる」

「そうかい。なら安心だ」

「そっちこそ大丈夫なのか? 民を助けに来て、おめおめと逃げ帰っては名声に傷がつくぞ?」

「問題ないよ。命が惜しいならこの場に立ってはいない。それは騎士たちも同様だ。あまり帝国騎士を舐めないほうがいい」


 そういうとレオは馬にまたがり、剣を引き抜く。

 そして。


「出陣する! 忘れるな! これは民を避難させるための戦いだ! 一人でも多くの命を救え!」


 レオの号令を受けて、騎士たちも剣を引き抜いて応じる。

 誰もが危険を承知でこの場に来た猛者たちだ。士気がそんじょそこらの騎士たちとは比べ物にはならない。


「案内を頼む!」

「はっ!」


 ロストックの騎士たちにそう言ったレオは、彼らに先導を任せる。

 そして最後に俺たちのほうを見て、一言つぶやいた。


「任せた」


 それは俺とエルナとオリヒメの誰に向けた言葉だったのか。

 三人に向けたのか、個人に向けたのか。

 だが俺たちはそれぞれの答えを口にした。


「任せておくがよい!」

「任された」

「もちろんよ! レオも気をつけなさい!」


 三者三様の答えを受けて、レオは軽く笑うと馬を駆けさせてロストックの街を飛び出ていった。

 そんなレオたちを見送ったあと、俺とエルナは目配せして宙に浮く。

 このまま霊亀の監視に向かうつもりだった。

 しかし、下でオリヒメが不満の声を上げた。


「わーらーわーはー飛べん!」

「……だそうだぞ?」

「そう。だったら留守番でいいんじゃないかしら?」


 暗にお前が運べという意味でエルナに振ったのだが、エルナの返しはそっけないものだった。

 呆れたようにため息を吐くと俺は下に降りて、オリヒメに手を差し出す。

 しかし、オリヒメとしてはそれは不満だったらしい。


「どうやって妾を運ぶ気だ?」

「腕を掴んでだが?」

「痛いではないか!?」

「我慢しろ」

「ええい! 妾は依頼者だぞ! ぞんざいに扱うことは許さぬ!」


 そう言ってオリヒメは素早く俺の背後に回り込むと、俺の首に両腕を絡めた。

 いわゆるおんぶの形になったわけだが、周りから見れば非常に間抜けだろう。


「降りろ。仙姫殿」

「これでいいではないか! 乗り心地も悪くない! 出発だ!」


 そう言ってオリヒメは勝手に出発を指示する。

 頑なに降りないと言い続けるため、俺はあきらめてそのまま宙に浮く。

 すると空で待っていたエルナが馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「かっこよく決めてたのに残念ね。気づいている? あなた、今相当間抜けよ?」

「うるさい」

「間抜けとはなんだ! 今、シルバーは妾の馬になったのだ! 光栄であろう!」

「このまま捨てるぞ?」

「なぜだ!?」


 本気で驚くオリヒメに呆れつつ、俺はエルナとともに霊亀がいるであろう場所を目指した。

 そこに案内なんていらない。

 とてつもなく大きな魔力の反応があったからだ。

 この感じはたしかにやばい。

 かつて対峙したどのモンスターよりも強大だ。

 エルナとオリヒメがいるとはいえ、周りを気にする余裕はないかもしれない。

 戦闘に集中するとなればレオの援護はできない。

 できれば無理せず、撤退してくれるといいんだが。


「無理な相談か」

「何の話だ?」

「こっちの話だ。掴まっていろ。落ちても拾わんぞ」

「おお!! 速い速い! 面白いぞ!」


 はしゃぐオリヒメが近くにいるとどうも緊張感を保てない。

 まぁこれでも大陸最硬の結界使いだ。

 役には立ってくれるだろう。

 そうじゃないと連れてきた意味がないしな。

 そんなことを思いつつ、俺は今にもずり落ちそうなオリヒメの足を掴んで、バランスを調整するのだった。  

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― 新着の感想 ―
はいよー! シルバー!! ってネタ古すぎて知ってる読者はいないと思ってたけど書いてる方いらっしゃいますね。1950年代……。 楽しく読ませていただいています。 素敵な物語をありがとうございます!
[気になる点] シルバーとしておんぶして、アルとして抱き着かれたりしてるけど…大丈夫? 匂いや声は仮面を変えてるからまだ平気だろうけど、なんとかなくの感覚と体躯からバレないかな~? なにせオリヒメ、懐…
[一言] 「原典」は何だったかな? 「はいよー、シルバー!!」ってか?
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