第百六十四話 混乱の帝都支部
活動報告にてアンケートの結果発表&第一巻の発売日等の詳細&キャラデザイン、アルノルトとシルバーを公開しています!
明日も18時に活動報告でキャラデザインを公開するので、お楽しみに!!
冒険者ギルド帝都支部。
そこを集合場所に指定した俺はオリヒメとともに先に移動していた。
「ほう! ここが帝都支部か!? なかなかセンスがよいではないか!」
「おい……シルバーが変なガキ連れてきたぞ……」
「関わるな。仮面つけてる変人の連れだぞ。ロクな奴じゃない」
「でも可愛いぞ? 声かけてみるか?」
「やめとけ! 恋人とかだったらどうするつもりだ? 古代魔法で消滅させられるぞ?」
「さすがにシルバーもそこまでしないだろ……」
「とりあえずやめとけ。あいつは転移魔法の使い手だ。地味な嫌がらせされたらどうするんだ?」
「あー、それはあるな。仮面つけてる陰気な奴だし」
誰が転移魔法で嫌がらせするかっ!
大声で否定したいが、それはシルバーのキャラに反する。
俺はグッとこらえて受付嬢に話しかける。
「騒がしくしてすまない」
「いつも騒がしいので平気です。妹さんですか?」
「いや、依頼主だ。いろいろあってな」
「なっ!? ギルドを通さないでシルバーさんに依頼を受けてもらえるなんて……! 私たちだって結構無視されるのに……」
がっくりと肩を落とす受付嬢は見るからにテンションが下がっている。
ギルドの職員やギルドにたむろしている冒険者たちの視線が痛い。
「も、申し訳ない……次からは気を付けよう」
「本当ですか!? 実はシルバーさんにやってほしい依頼が溜まってまして!」
「また今度、まとめて片付ける。それでよいだろうか?」
「はい! お待ちしています! ところで」
「うん?」
受付嬢がギルドの端を指さす。
見ればオリヒメがなんか白い物を持っていた。少し視線を上げるとギルドに飾ってあった竜の牙の先が欠けていた。
俺の視線に気づいたオリヒメは一瞬、固まった。
しかし。
「てへっ」
「あーーー!!?? 帝都支部の名物!! 竜の牙がぁぁぁぁぁ!!??」
「おいおい!! いくらすると思ってるんだ!?」
「そ、そんな大きな声を出すでない……ちょっと掴まったら壊れてしまっただけだ。脆いのが悪い」
気にしたのは一瞬だけ。その後に悪びれた様子を見せないのはオリヒメらしい。
俺は深くため息を吐き、受付嬢に視線を移す。
「請求はどちらまで?」
「城に請求しておいてくれ」
オリヒメが仙姫であることは明かしていないが、俺に依頼できる時点で普通ではないことは受付嬢も理解しているんだろう。
驚くこともなく、ではお城に請求しますねといって、その準備を始めた。たくましいことだ。
オリヒメはオリヒメで懲りずにギルドの中の物をあちこち触っては、中にいる冒険者たちに怒られている。
別に珍しいことじゃない。ここに来るまで俺とオリヒメは歩いてきた。オリヒメが自由に帝都を見る機会がないと言っていたからだ。
どうせ派遣部隊の選抜にはまだ時間がかかるため、ゆっくり歩いてきたが、その最中にオリヒメは問題を起こしまくった。隣に俺がいなきゃ大問題に発展していただろう。
自由なのも考え物だ。
「あ!? こら!? 離すがよい!!」
「シルバー! 子守はちゃんとやれ!」
「このガキ! 勝手に俺のつまみを食いやがったんだ! 最後のチーズだったのに!」
「うむ、美味であったぞ」
「ちくしょー!! シルバー! 責任取って奢れよ!!」
冒険者たちに腕を掴まれたオリヒメは足をバタつかせながら、火に油を注ぐような形で感想を口にする。
ギルドでは市場には出回らない食材によるメニューもある。たぶんそれに目をつけて食べたんだろうな。
「シルバー! 妾はあのシュワシュワが気になるぞ!」
「子供にはまだ早い」
「むむっ! 子供扱いとは失礼な!」
「十分に子供でしょうが」
そうオリヒメの言葉を否定したのはエルナだった。
会議には参加せず、北部に急行する準備をしていたエルナだが、俺が参戦したことでこちらに合流しにきたんだろう。
その登場に驚いたのは支部にいた冒険者だった。
「エルナ・フォン・アムスベルグ!!??」
「勇者がなんで冒険者ギルドに!?」
「やべぇぞ! ついにシルバーと帝国最強の座を争いに来たんだ!」
「やりあうなら外でやれ! いや帝都の外までいけ! 巻き添えはごめんだ!」
「おい! シルバー! あんたのせいだぞ! 帝都の守護者なんて挑発するような二つ名を名乗るから!」
「名乗った覚えはないがな」
わーわーと混乱して騒ぎ始める冒険者たちに俺は一言突っ込みつつ、そんなことをまったく気にした様子もなく睨みあっているオリヒメとエルナを見守る。
「だいぶ恐れられてるようだぞ? 日頃の行いが悪いのではないか?」
「そういうあなたは子供扱いされているけれど、内から湧き出る大物感がないんじゃない?」
「何を言う! 妾はあえて抑え込んでいるのだ! 妾が本気を出せば、すぐに妾が仙姫だと気づかれてしまうからな!!」
そう言ってオリヒメは胸を張る。
一拍置いて俺とエルナの話で盛り上がっていた冒険者たちが一斉に顔を青くする。
「仙姫ーーーー!!??」
「なんでミヅホの守護神がここにいるんだよ!?」
「おや? 気づかれてしまったな。隠しきれぬこの大物感が溢れてしまったかっ!!」
「自分で言ったからでしょうが!」
オリヒメとエルナはさらに睨みあい、今にも殴り合いを始めそうな雰囲気を醸し出す。
それを見て、冒険者たちは一斉に距離をとった。
「な、な、なんなんだ……今日は……」
「大陸最硬と大陸最攻がそろうなんて……矛盾の証明でもする気か……?」
「ああ……終わった。今日が帝都支部最後の日だ……」
さっきまでバカ騒ぎしていた冒険者たちもこうも続々と有名人が集まってくると、自由には振る舞えないようだな。
とくにオリヒメにはガキ扱いしてたしな。
そんな珍しい冒険者たちの様子を楽しんでいると、オリヒメが俺のほうに視線を向ける。
「シルバー! その目には妾たちはどう映る!?」
「どうとは?」
「無論、どちらが上かという話だ! そなたほどの慧眼ならば良さというものがわかるであろう!」
「ふん、そんなのシルバーじゃなくて子供でもわかるわよ、そうよね?」
二人がじっと俺を見てくる。
さて、どう答えるべきか。
ふと視線が距離を取っている冒険者たちの顔を捉えた。
全員が一斉に首を横に振った。つまり事を荒げるなという意味だ。
その意味をしっかりと理解した俺は一つ頷き、告げる。
「どちらが上かは俺には判断できない」
「なんだと!?」
「見る目がないわね」
冒険者たちが一斉にホッとしたようにため息を吐く。
その瞬間を見計らって、俺はさらに言葉を重ねた。
「だが、どちらにも負ける気はしないということは言っておこう」
「!!??」
声にならない悲鳴が帝都支部に響く。
冒険者たちが一斉に俺の神経を疑うような視線を送ってくる。そして後ろからガタンという音が聞こえてきた。
見ればいつもの受付嬢が泡を吹いて倒れていた。どうやら近くで行われる会話に精神が持たなかったらしい。
ちょっと悪いことをしたな。
「おい……どうするんだ……」
「この状況でさらに挑発するなんて……馬鹿野郎が……」
「だからSS級冒険者なんて嫌いなんだよ……空気読めよ……」
冒険者たちは足を震わせながら支部の隅で固まる。
一方、オリヒメは目に見えて怒り顔で俺をにらんでいた。
「負ける気がしないとはどういうことだ!? 妾の結界は最高なのだぞ!」
「モンスターに破れるなら俺にも破れるだろうからな」
「へー、じゃあ私にはどうやって勝つ気かしら? 聖剣の威力を見てなかったのかしら?」
「当たらなければどうということはない」
こうして三人での睨みあいが発生する。
互いに一番は自分だと思っているため、退くということはない。
そんな緊張感の中、支部の前に大量の馬が到着した。
「ようやく来たか」
「遅れて申し訳ない。シルバー」
そう言って馬から降りたのはレオだった。
その後ろにはジークやリンフィアもいるし、近衛騎士たちもいる。
送れるだけの戦力を送る気だな。
「まさかとは思うが皇子が直々に行くのか?」
「もちろん。エルナが国境で戦う場合、国外の聖剣の使用許可を出せる皇族が必要だし、意図を説明できる大使も必要だ。僕はその点に関しては適任だからね」
「戦闘に関与する気はないということか」
「そうだね。僕らの役割はあくまで避難の間に合わなかった民の救出だ。モンスターの討伐は君らに任せるよ。足手まといにはならないようにする」
「……そういうことならいいだろう」
そう答えて俺は騎馬団が突入できる転移門を作り出す。
しかし、それを通る前に支部にいた冒険者たちが声を上げる。
「おい! シルバー! 一大事なら手を貸すぞ!」
「モンスター関連なら冒険者の出番だからな!」
それは頼もしい言葉だった。
なにせ霊亀が動き出した以上、周りのモンスターも血相変えて動き出す。
そういう意味でも戦力は欲しい。
だが、今回はその申し出を受けることはできない。
「嬉しい申し出だがやめておこう。今回は帝国としても威信をかけて止めなければならない問題だ。それを冒険者が掻っ攫っては皇帝陛下が不憫だからな。今回は彼らに手柄を譲ろう。まぁ……あまりに不甲斐ないならさっさと俺が片付けてしまうが」
「言ってなさい。あなたの出番なんてないわ」
「ではお手並み拝見といこうか」
そう言ってエルナが真っ先に転移門をくぐる。それに続けとばかりにレオが率いる騎馬団が突入した。
そして。
「では行くとしよう! 安心するがよい! 帝国の民だろうと民は民! 妾がすべて守ってみせよう! そして証明してやろう! 勇者より妾がすごいということを!」
「それは楽しみだ」
そう言って俺はオリヒメとともに転移門をくぐり、北部に移動したのだった。