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第百五十七話 寂しがり

オリヒメの容姿を黒髪黒目と書きましたが、設定を見たら黒髪金目でした。そっと直したので把握しておいてくださいm(__)m

あとアンケートは明日の更新までです。まだの方は最後ですのでご参加くださいm(__)m



「さぁ! 妾を楽しませるがよい!」


 そう言ってオリヒメはソファーに座って、ウキウキワクワクといった様子で足をばたつかせ、耳を何度も動かした。

 今、俺とオリヒメがいるのは後宮の外れにある別館。そこは近衛第二騎士隊が警護しており、オリヒメの当面の家となっていた。

 とはいえ、そうなったのは今日かららしく、昨日までは別の場所にいたらしい。

 第二騎士隊の目を掻い潜り、エンタと共に散歩に出たことで、こちらへ移されたそうだ。当然すぎる判断だ。

 オリヒメは賓客ではあるが、表立った賓客ではない。正体がバレれば少なくない混乱を生んでしまう。俺は事前に仙姫がいることを知っていたからよかったが、ほかの者なら大混乱だろう。


「まだ俺が接待役になると決まったわけじゃないんだが?」

「妾が望んでおるのだ。それで十分であろう?」

「残念ながらここは帝国なんでな」


 オリヒメの国ならそれで済むかもしれないが、ここでは皇帝の意思が尊重される。

 流れでここまで来たが、すでに第二騎士隊隊長が宰相の下へ向かっている。俺がそう伝えたからだ。

 さすがに父上を呼び出すわけにはいかないしな。きっと状況を聞けば宰相も来てくれるだろう。

 それまで俺は接待役ではない。


「そうか……つまらぬなぁ」


 そう言ってオリヒメはしょぼーんとした様子で肩を落とす。それに合わせて耳もペタリと垂れた。

 わかりやすい奴だ。


「アルノルトは妾たちを楽しませる気はないようだぞ。エンタ」

「チュピー……」


 エンタはオリヒメの膝の上で小さく鳴くとゆっくりと目を閉じていく。

 どうやら眠くなってきたらしい。オリヒメもそれを察してか、ゆっくりとあやす様にエンタをなでていく。

 しばらくするとエンタはオリヒメの膝の上で丸くなり、静かに寝息を立てていた。


「暢気なペンギンだな」

「燕だ。何度も言わせるでない……」


 そう反応しながら、オリヒメは小さくあくびをする。眠っていくエンタにつられて、オリヒメも眠くなってきたらしい。

 何度か頑張って目を開けようとしているが、すぐに目がしょぼしょぼとしていく。

 そして。


「うーむ……アルノルト。こっちに来るがよい」

「なんだ? 話し相手か?」

「そんなところだ」


 オリヒメは自分の隣を軽くたたき、俺を招く。

 寝るなら寝るで別にいいんだが、あまり無碍には扱えないしな。

 話し相手くらいはしてやるかと俺はオリヒメの隣に腰掛ける。

 さて、どんな話をするべきか。

 そんなことを思っていると足に何かが乗っかった。


「……おい」

「うむ、悪くない寝心地だ。妾の枕としては及第点といったところだな」


 気づけばオリヒメはソファーで横になり、俺の足を枕代わりにしていた。

 こいつ、どこまでもやりたい放題だな。一応、俺は皇子なんだが。


「あのな……外交儀礼って知ってるか?」

「儀礼が重んじられる場では重んじる。だが妾は非公式な存在。どのように振る舞おうと問題はあるまい。ふむ、視界に入るのがそなたの腑抜け顔なのがちと難点だが、なかなかどうして悪くない」


 しっくり位置を探していたオリヒメだが、仰向けでいい位置を見つけたのか満足そうに笑う。

 本当に犬か猫並みの気ままさだな。しかも言っていることがまともなのも腹が立つ。

 たしかに非公式の存在であるオリヒメが勝手に振る舞おうと問題にはならない。非公式だからだ。

 もちろん皇帝に無礼を働くのは別だろうが、俺程度には我儘を通しても問題にはならない。なにせ帝国がお願いしてきてもらっているのだから。

 おそらく宰相も俺に接待役を引き受けろというだろう。ここでオリヒメの機嫌を損ねるわけにはいかないからだ。

 冒険者ギルドとの合同で計画が進んでいくわけだが、モンスターの動きは予想しづらい。

 万が一のときにオリヒメがいれば最高の結界を張ってくれる。これほど頼りになる人材もいないだろう。


「はぁ……自分の国でもこんなことをしてるのか?」

「そんなわけなかろう。ミヅホには妾に気安い者などおらん。親しい者はおれど、気安くはできんのだ。妾は仙姫だからな」


 そう言ってオリヒメは寂しげな表情を浮かべる。

 そしてオリヒメの体の上で丸くなっているエンタに視線を移す。


「友と呼べるのはエンタのみだ。ミヅホでは仙姫は別格なのだ……帝国と勇爵家の関係とは違う。帝国にとって勇爵家は切り札であっても、頼り切る存在ではない。だがミヅホは違う。強大な皇国に対してミヅホは小さい。対抗するには仙姫の結界が必要不可欠。ミヅホは仙姫に依存せねばなり立たぬのだ」

「そんな大事な仙姫様がどうして帝国に来たんだ? さすがにリスキーだと思うが?」

「妾に何かあれば仙狐族の別の者が仙姫を継ぐ。妾たち仙狐族は例外なく強力な結界使いだからな。保険があるからこその妾の派遣だ。とはいえ、今回のは妾が望んだものでもある」

「自分で望んだのか?」

「外の世界を見てみたかったのだ。違う国の人にも触れてみたかった。それにはまたとない機会だったのだ。噂に聞く帝都を見てみたかった。まぁ……あまりよくは見れなかったが」


 だから抜け出したのか。

 しかし、そんなときにエンタとはぐれ、捜索に時間を割く羽目になったってところか。

 間抜けといえば間抜けだが、可哀想でもある。

 孤独ではないにしろ、孤高ではあるんだろう。

 

「……寂しいのか?」


 その言葉は気づいたら口から出ていた。

 オリヒメはその言葉を聞き、少し驚いたような表情を浮かべたあと、照れたようにはにかみながら答える。


「うむ、妾は寂しい」

「そうか……」

「だから、そなたといる時間は悪くないものだ。そなたは妾に気安いからな。妾が仙姫と気づきながら、どうして態度を改めぬ?」

「俺は自分がやられて嫌なことはしない」


 幼い頃、身分の違いを気にせず遊んでいた平民の友たちは気づけばどんどん俺から離れていった。

 悲しかった。切なかった。

 だが、それでも態度を改めなかったガイの存在はありがたいものだった。

 その経験があるから、よほどのことがない限りは俺は相手の身分で態度を改めない。もちろん必要ならするけれど。


「そうか……では妾への態度も改めてくれるな。外に出れぬならせめて気安い者と喋っていたい」

「それで俺を接待役か?」

「接待役に任じたのは勢いだ」

「勢いかよ……」

「うむ、勢いだ。ふわぁ……妾は眠くなってきた。アルノルト。撫でるがよい」


 そう言ってオリヒメは目を瞑り、首をかすかに持ち上げてそう言ってきた。

 撫でろって……子供じゃあるまいし。オリヒメは言動こそ子供っぽいが、見た目的には十五、六くらいだ。そんな女の子を撫でるってのはちょっと。

 俺が躊躇していると、オリヒメは片目を開けて不満そうな表情を浮かべたあと、耳を寝かして落ち込んだ表情へと切り替わる。

 それを見て罪悪感を刺激された俺は手を動かす。それを見てオリヒメは期待したようにソワソワした様子を見せた。

 尻尾は揺れているし、耳も立っている。

 期待されても困るんだが……。


「はぁ……」


 ため息を吐きながら俺はそっとオリヒメの頭を撫でる。

 するとピクピクと耳を動かし、オリヒメは満足そうな笑みを浮かべた。


「うむ! 悪くないぞ! 続けるがよい!」

「続けろって……まさかここで本当に寝る気か?」

「もちろんだ。さぁ、撫でるのだ!」


 そう言ってオリヒメは尻尾を揺らす。

 仕方なくそのまま撫で続けているとオリヒメは気分よさそうに笑みを浮かべ、そして次第に目を閉じていき、静かな寝息を立てるようになった。


「本当に寝やがった……」


 完全に眠ったのを確認し、俺は撫でる手を止める。

 するとオリヒメは寝ながら不満そうに眉を顰める。

 本当は起きてるんじゃないか……。

 諦めて俺はそのままオリヒメの頭を撫で続けた。

 そんなことをしていると、部屋に宰相のフランツが静かに入ってきた。

 こちらの状況を察したのか、フランツは俺に近づいて小声で話しかける。


「殿下、申し訳ありません」

「謝罪はいい。こいつの気まぐれだからな」

「そう言っていただけると助かります。猊下も殿下を気に入ってるようですし、要望どおりにしていただけないでしょうか?」

「接待役か……」


 どう考えても疲れるし、距離が近すぎる。接点を持っておけば都合がいいとは思ったが、接待役ともなれば一番距離が近くなる。

 これからの展開次第じゃ面倒なことにもなるが……。

 寂しいと素直に告げたオリヒメの顔がよぎる。

 きっと接待役を断ればさきほどのような表情を浮かべるんだろう。それは好みじゃない。


「まぁ仙姫が望んでるんだ。叶えてやったほうがいいだろうな」

「ありがとうございます。しかし、どこで猊下と接点が?」

「昨日、このペンギン繋がりでちょっとな。よかったな。接触したのが俺で」

「そのことについてですが……事前に仙姫がいることを知っておられたのはなぜです?」


 昨日の説明はすでに第二騎士隊隊長にはしてある。

 あらかじめ俺が仙姫がいることを知っていたことも当然、伝えてある。

 フランツからすればそこは気になるところだろう。もちろん、あえて伝えた。


「シルバーから聞いた」

「シルバーが……? どうして殿下に?」

「芝居はよせ。俺やレオにシルバーが加担しているのは知っているはずだ。とはいえ、よくわからん男であることは間違いない。手を貸してくれるときもあれば手を貸してくれないときもある。SS級冒険者だからこそ、上手く立ち回っているんだろうけどな」


 フランツも独自の情報網を持っている。

 そこから俺たちにシルバーがついていることは知っているだろう。

 とはいえ、公然と味方についているわけじゃない。あくまで協力するときもある程度。

 帝位争いにSS級冒険者が首を突っ込むのは危険だが、協力程度なら見逃される。


「たしかにおっしゃる通り、気づいてはいました。しかし、あの男は積極的には協力するようなタイプではないはずですが?」

「今回は別みたいだな。情報を流すのが早かった。よほど自分が外されていることが頭に来たんじゃないか」

「……ギルドとの約束ですから」

「そうだろうな。けど、シルバーからすれば面白いわけがない。帝国をモンスターから守ってきたのはシルバーだ。帝国は幾度もシルバーに借りがある。信頼関係がこじれるようなことはやめたほうがいいと思うが?」

「……帝国は広いのです。シルバーだけに頼る状況は早めに脱却しなければいけません」


 フランツの言うことはわかる。

 ギルドが冒険者に強制力を行使することは少ない。あくまで要請がほとんどだ。

 だから人気のない場所に冒険者は集まらない。そしてここ最近、人気のない場所は帝国だった。

 安定し、モンスターもあまり現れない平和な場所だったからだ。

 しかし、最近になってその状況も変わってきた。帝国としてはこの問題のあとにS級の誰かが帝国に拠点を構えるのを願っているんだろう。

 シルバーがいくら強かろうと一人では帝国全土をカバーしきれない。


「考えはわかった。父上も同じ意見なんだな?」

「はい。ですので、パイプをつないでおいていただけると助かります」

「残念ながら向こうからの一方通行だ。ただ……シルバーはレオを気に入ってる……ような気がする。機嫌を取るならレオを使うことだな」

「そうならないことを願いますが……万が一、シルバーに頼るときはレオナルト殿下にお願いすることにしましょう」


 そう言ってフランツはそのあと、いくつか話してその場をあとにした。

 これで万が一の場合、シルバーが動くラインはできた。レオの手柄にもなるし、最悪の場合には備えができたわけだが。

 問題は俺がオリヒメの接待役になったことか。

 本人はいたって気持ちよさそうに眠っている。


「悩みがなさそうな寝顔しやがって」


 イラっとしてデコピンするとムッと眉がよる。

 それを見て、少し憂さが晴れた。

 その後、俺はオリヒメが起きるまで頭を撫で続けたのだった。

  

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[一言] 面倒見の良いお兄ちゃんと天真爛漫の妹?!(笑)
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