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第百五十六話 意地悪皇子

アンケートは十二日に締め切ります。

再度しっかり集計して十九日に発表できればと思います。

最後の投票をよろしくお願いしますm(__)m


「申し訳ありません。見失いました」

「そうか……」


 セバスの報告を受けて、俺は内心舌を巻いていた。

 セバスの追跡を掻い潜れる者がいるとは正直思えない。

 追跡を断念せざるをえない何かがあったんだろう。


「結界で近寄れなかったか?」

「いえ、途中までは近寄れましたがある時を境に方向感覚を失い、周りが迷路のように見えてきました。深追いは禁物と判断し、その場で撤退いたしました」

「いい判断だ。迷宮に迷い込んだようなもんだからな。進めば進むほど相手の思う壺だ」

「私の力不足です。しかし……噂以上ですな。仙姫というのは。手も足も出ないのは久しぶりです」


 セバスが深く頭を下げてからそんなことを言った。

 セバスが完全に敗北宣言して、相手を褒めるのは本当に珍しい。相手が強かろうが、上手かろうがあの手この手でどうにかするのがセバスだからだ。


「さすがは最硬の盾ってところか。ただ単純に硬い結界を張れるってわけじゃないみたいだな。守りに関しては変幻自在。勇爵家と比べられるだけはある」

「はい。厄介ではありますが……これで確定しましたな」

「そうだな。間違いなく仙姫だ」


 人物として特定はできた。

 あのペンギンがあの子のペットというなら、第二近衛騎士隊が温泉で守っていたのは彼女ということになる。


「しかし、父上も裏でいろいろとやっていたみたいだな。冒険者ギルドを巻き込んで極東の仙姫を呼び寄せるなんて、離れ業にもほどがある」

「さすがは皇帝陛下というべきでしょうな」

「とはいえ、シルバーに任せてくれたほうが楽だった」


 余計なことはせず、シルバーにすべてを任せてくれれば面倒なことにはならなかった。

 まぁ今回の主導はきっと冒険者ギルドのほうだろうから、協力関係を築くときにシルバーは使わないという取り決めがされたんだろうけど。

 いくら帝国が強大な国といっても、モンスターに関しては冒険者ギルドが専門だ。ハーメルンの影響でモンスターが活性化しているなんてことは、ギルド経由じゃなきゃこんな早くには気づけない。


「ギルド本部にも色々とあるのでしょうな」

「シルバーが活躍しすぎたら増長するなんて暴論もいいところだ。きっと裏で動いた奴がいる」

「そこまで考える必要はないのでは? たとえ裏に誰がいようと今回の一件はこちらに有利に働きます。もしもギルドと帝国の計画どおり、エルナ様とS級冒険者たちだけで片が付くならそれはそれで力を温存できますし、失敗しても後始末に頼られるのはシルバーです」


 そうだ。

 帝国の狙いは式典前に安全なルートの確保。ギルドの狙いは活動期に入ったモンスターの討伐と新たなSS級の発掘。集められたS級が失敗に終わればシルバーに依頼が転がり込んでくる。

 被害が増えれば叩かれるのは使える者を使わなかったギルド本部の上層部だ。

 クライドあたりはそこを狙っているのかもしれない。

 だが何事も上手くいくとは限らない。


「シルバーが功績を立てることを嫌がる者なんてごく少数だ。S級からすれば昇進チャンスを奪われると感じるかもしれないが、SS級の席数は決まってない。そこまで嫌がる理由もない。どちらかといえば下よりは上か横だろうさ」

「ギルドの上層部が扱いづらくなることを嫌がったというのがクライド殿の話ですが、横となると対等の立場にいる方々ということになりますな」

「……問題児どもが上層部に働きかけたのかもな。この短期間でS級クラスのモンスターを立て続けに討伐してれば、SSS級に繰り上げというのは現実味を帯びてくる。SS級の奴らからすれば面白くはないだろうさ」


 くだらない。

 だが、そのくだらないことに拘る奴らがSS級の問題児どもだ。


「あいつらが関わってくると面倒なことになる……どいつもこいつも曲者だ」

「ご自分はまるで違うといわんばかりの言い方ですな」

「何言ってるんだ。俺〝だけ〟はまともだ」

「残念なことにおそらくほかの四人もそう考えているでしょうな」

「盛大な勘違いだな」


 社会不適合者の極みみたいなやつらがまともだなんて、勘違いも甚だしい。

 俺が鼻で笑うとなぜかセバスは小さくため息を吐くのだった。




■■■




 次の日。

 俺は突然母上に呼び出された。

 なぜか一人という条件付きで。

 なんだ? と思いつつ、俺は言われた通りに一人で母上の下へ向かった。


「失礼しまーす」


 そう言って、いつもどおりの調子で俺は母上の部屋の扉を開けて入る。

 だが、いつもと違うことがあった。


「がっ!?」


 なぜか扉のすぐ前にロープが張られていたのだ。

 避けるような運動神経を持ち合わせていない俺は盛大に引っかかって転ぶこととなった。

 そして昨日に引き続き、俺は鼻を盛大に打ち付けることになった。

 そんな俺の耳に聞き覚えのある声と鳴き声が飛んできた。


「よしっ! よくやったぞ! エンタ!」

「チュピー!!」


 見ればロープの右側でエンタと昨日の少女がロープを掴んでいた。少女は昨日と同様にフードを被ったままだ。

 鼻を抑えながらそちらをにらむと、偉そうな態度で少女が告げる。


「ふふん! どうだ! 見たか!」

「チュピー!」


 飼い主に似たのだろうか。

 ペンギンもこちらにドヤ顔を向けてくる。

 さすがにイラっとしたので、俺は無言で立ち上がるとペンギンを抱えて窓までもっていく。


「わーーー!!?? 何をする気だぁ!?」

「安心しろ。燕なら命の危機に陥れば飛ぶことを思い出すはずだ」

「チュ、チュピー!?」

「や、やめろー!! そんな惨い仕打ちはよすのだ! エンタは飛べない燕なのだ!」

「だから今から大空の感覚を取り戻させてやる! 離せ!」


 俺はエンタを投げようと振りかぶり、少女は俺の腕を掴んで必死に制止する。

 なんとか少女を振り払い、窓からエンタを投げようとするが、少女はその度に俺にしがみついてくる。


「やめよー! エンタを離すのだ!」

「うるさい! 今からこいつがペンギンだってことを見せつけてやるからよく見ておけ!」

「チュピー!!??」

「エンタは燕だ! 飛べないだけの燕なのだ!」

「飛べない燕なんて燕じゃないわっ!」

「やめろぉぉぉ!!!! そなたには動物を愛する心はないのか!?」

「こんな性悪動物愛せるかっ!」


 そんな攻防の果てに俺たちは疲れて、はぁはぁと荒い息を吐いてにらみ合う形になっていた。

 完全に膠着状態。

 そんな戦局で第三者がようやく口を開いた。


「お茶が入ったわよ」

「おお! ご苦労、ミツバ。だが妾はそなたの意地悪な息子から友人を取り返さねばならん。お茶は後でいただく。あ、甘いお菓子も頼むぞ!」

「了解しました。アル、あまり猊下をイジメてはいけないわよ」

「イジメてなんていません。お仕置きをしているんです」

「なお悪いわ! おのれ、許せん!」


 そう言って少女は俺の腕にしがみつき、エンタを強引に奪い返す。 

 そして俺の反撃が来ないうちに母上の後ろに隠れた。


「ふふん! どうだ! 参ったか!?」

「なにをどう参ればいいんだ?」

「わかっておらぬようだな。では説明してやろう! 妾こそ極東の国、ミヅホにその人ありと謳われた絶世の美姫! 仙姫、オリヒメ・クオンであーる!!」


 そう言って少女はフードを脱いで、その素顔を露わにした。

 長い黒髪に金色の瞳。まるで人形のような美しい少女の顔がそこにはあった。しかしきっと彼女のような人形を作れる人形師はいないだろう。

 それくらい少女の顔には生気が漲っていた。

 自信満々ではちきれんばかりの笑顔。まさしく天真爛漫だ。

 そんな彼女の頭には小さめの黒い狐耳がついていた。見れば後ろには黒い尻尾もある。

 仙姫の一族は〝仙狐族〟と呼ばれる獣人である。身体能力に優れるかわりに魔力に乏しい獣人の中では例外的に魔力が高く、その力を使って仙国を守ってきた由緒正しき超名門。

 格という話であれば勇爵家と同等。他国では王族に匹敵する扱いを受ける。

 そんな仙姫であると明かしたからには、俺が驚くと思っていたんだろう。

 オリヒメはこちらの反応をそわそわと伺っている。だが俺はそれに対して淡泊に返した。


「ああ、知ってる」

「ん? あれ……? おかしいな……妾は仙姫であーる!」

「だから知っている」

「……い、いつから気づいておった!?」

「昨日、結界を使ったときからだな」

「な、なんと!? そうか……知っておったのか……」


 しょぼーんといった様子でオリヒメは肩を落とし、ついでに耳を垂れさせてトボトボと椅子に座る。

 そんなオリヒメに対して、母上が慣れた手つきでお茶を出す。


「驚き、慌てる様を見てやろうと思っておったのに……ミツバ! 面白くないぞ。妾は!」

「この子は昔からこういう子ですから」

「そうは言っても……皇族ならばちょっとくらい派手に驚いてもよいだろうに……少しは空気を読めというのだ。それがまなーというものではないか?」

「そんなマナーは知らん」


 そう言って俺も椅子に座り、母上からお茶をもらう。

 こいつと遊んでいたせいでのどが渇いて仕方ない。

 まったく、仙姫ならもうちょっとおしとやかにできないんだろうか。

 そう考え、対比される勇爵家のお嬢様がおしとやかじゃないことに気づき、無理な相談なのだと納得してしまった。


「アル、改めて紹介するわね。私の故郷であるミヅホ仙国の仙姫。オリヒメ・クオン猊下よ」

「うむ! 妾はそなたの母親の故郷では偉い! つまりどういうことかわかるか?」

「まったくわからん」

「そなたより妾のほうが偉いということだ! 妾は仙姫だからな!」

「……」


 どう返すべきか迷い、母上のほうを見たが母上は気にしていない様子だった。たぶん気にしたり、常識的な返しをするだけ無駄なんだろう。

 今ので確信した。こいつは傍若無人な暴君に近い。もっと単純にいえば我儘なのだ。


「猊下。こちらが私の長男、アルノルトです。猊下がお探しなのはアルで間違いありませんでしたか?」

「うむ! 間違いない!」

「一応聞いておきますが、どういう伝えられ方をしたんです?」

「城に住んでいる黒い髪の男で、意地悪なほうって言われたわ。黒髪で意地悪なほうはあなたでしょうと思って呼んだの」

「心外な……」

「意地悪ではないか! さんざんエンタと妾をイジメおって! この意地悪皇子め! 妾が仕返しすると言ったのは覚えておるだろうな!? わー!? 袖が!!」


 オリヒメは飲んでいたお茶を机にたたきつけ、俺を指さす。

 しかし叩きつけた衝撃でお茶がこぼれ、袖が濡れてしまう。

 それに大げさに悲鳴をあげ、母上に拭いてもらったあと、再度仕切りなおして俺を指さす。


「――妾はそなたに仕返しをする!」

「ほう? 何をするんだ?」

「聞いて驚け! そして喜びに咽び泣くがよい! アルノルト! そなたを妾の接待役に任じる!」


 爆弾発言といえば爆弾発言だが、べつに俺は驚かなかった。

 それくらい言いそうだなと妙に納得してしまったからだ。

 しかし接待役か……。


「王族待遇だから実質的には皇族のほうが偉いはずなんだがなぁ」

「妾は賓客だ! 皇族が接待をするのは当然である! 妾を存分に楽しませるがよい!」


 そう言ってオリヒメは尻尾を揺らしながらそう告げたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『まったく、仙姫ならもうちょっとおしとやかにできないんだろうか。  そう考え、対比される勇爵家のお嬢様がおしとやかじゃないことに気づき、無理な相談なのだと納得してしまった。』 確かに(≧▽…
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